空蝉

杉山 実

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麻結の喜び

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   84-090
智光夫婦の頭には、例の遺産が入った事が重要な決断に繋がった。
子供が授かった事実は、これ以上の反対をして娘を傷つける事が出来ないと思ったのだ。

翌週、武史は着慣れない背広を着て落合の自宅に向かった。
嬉しそうに寄り添う麻結が「大森武史さんです!」と両親に紹介した。
「初めまして、大森武史です!お嬢様の麻結さんと結婚を前提にお付き合いをさせて頂いています!ご挨拶が遅れまして誠に申し訳ございませんでした!改めまして今後ともどうぞよろしくお願い致します!」とお辞儀をした武史。
お辞儀は楽な体系だわ!浅子が口には出さないが、その様な顔で見ている。
「麻結がどうしても君が好きだと言うのでな!それと子供を宿していると聞いたのでお腹が目立つまでには式をな!まあよろしく頼むよ!」本当は嫁にやりたく無いのが、言葉の端々に出る智光。
それでも麻結は判って居乍ら、満面の笑みで「今日は私が料理を造ったのよ!食べて帰ってね!」そう言って武史の腕を持って甘える仕草を見せる。

応接間から食堂に移動すると、テーブル一杯に沢山の料理が並べられている。
「わあ―凄い!これ麻結さんが?」
「本当だよ!早朝から頑張っていたよ!」智樹が来て、武史を出迎えた。
「素晴らしいですよ!」
「味は判りませんよ!」麻結が微笑みながら言う。
「孫娘のこんなに嬉しそうな顔を見るのは何年振りだろう?」と成りに座る祖母に尋ねる様に言う智樹。
「高校入学以来でしょうか?」
「えーー、大昔?嘘!」麻結が笑いながら祖母の肩を押した。
遅れて入って来た智光も、本当に母の言う通りかも知れないと思った。
高校三年生からつい最近まで、麻結のこの様な顔を見た記憶が無かった。
それは浅子も同じで、15年位の間麻結のこの笑顔は見ていないと思った。
その後食事が始まって、味の話に話題が集中する。
「麻結!もう少しこの唐揚げは下処理が必要よ!」祖母の志津が言う。
武史と麻結以外は酒が入って饒舌に成っている。
「もう少し上手に作らないと、嫁の貰い手が無いわよ!」祖母が言う。
「えーー、ここに旦那様は居ますわ!」麻結は嬉しそうに武史にもたれかかる。
「ラブラブだな!」智樹も二人の様子に驚く程だ。

結局、12時に落合家に着いて武史が帰ったのが夕方だった。
食事の後は、麻結の部屋に行って二時間程喋っていた。
「もう帰るの?寂しいな!」
「5時だよ!」
「まだ5時じない?」
「でも暗くなると、運転危険だよ!」その言葉に反応して麻結は「そうね!交通事故は駄目よ!早く帰って!」急に変わる。
伸一の事故が絶えず麻結の脳裏に残って居る。
武史は両親と祖父母に挨拶をして麻結に見送られて帰った。
「ああー帰っちゃったわ!」ため息の麻結。
その様子に呆れる智光と浅子。
「今頃、我が子は重症だ!」
「普通の子が恋をする時期に静かだったから?一気に?」
「その様だな!」
両親は麻結の変身に嬉しい様な変な気分を味わっていた。

だが意外な事から、二人が窮地に追い込まれる事に成る。
連休前、武史の母、久代が結婚相談所の倉田に「長い間お世話に成りました!些少では有りますがお礼とご報告に参りました!」と出向いたのだ。
「えっ、結婚が決まったのですか?」驚く倉田。
「はい!夏までには細やかな挙式を行いたいと考えて居ます!」
「お相手はお見合いをされた落合麻結さん?」
「は、はい!そうです」
「おめでとうございます!まあ、写真と実際に会われた印象の異なる方は多いので、、、、、まあ、話が会うのが一番ですよ!」
「あの様な美しいお嬢様が武史の嫁に来て頂ける何て、今でも信じられません!」
「は、はあ!それは良かったです!」
倉田のイメージは、あの姫路のホテルの麻結が今でも残って居る。
写真の麻結とはまるで異なる別人だった。
それを綺麗と言うこの母親、子供の嫁の事を褒める事は少ないだろう?お美しいとは?
「これは既定の料金より多少多目にさせて頂きました!お世話に成りました」
深々とお辞儀をする久代。
「こ、これは、、、多少では?」沢山の金額に驚く倉田。
久代は微笑むだけで、お辞儀をして倉田に送られて帰って行った。

その倉田が早速、梅宮に電話をかけてしまったのが事件の勃発に繋がる。
「えっ、あの障害者の男性と結婚!」声が裏返る程驚いた梅宮。
麻生の家からは出家して仏門に入ったと聞かされ、落合の家も娘の縁談は無くなったと聞かされていた矢先の出来事だったので、仰天したのだ。
梅宮は言わなくても良い事まで麻生久美子に喋ってしまった。
それは、武史が身体障害者で父親は既に年金生活者だと話した。
「私の祐樹が、そ、そんな家族に負けたの?信じられないわ!」

祐樹が戻ると、久美子は大袈裟に怒りを露わにして祐樹に梅宮の話を伝えた。
「出家を確認して来たのに、そんな馬鹿な話は無いよ!」鼻で笑う祐樹。
「でも梅宮さんが嘘を言わないと思うわよ!祐樹から逃げる為に出家を装ったのでは?」
「俺はそれ程嫌われて居たのか身体障害者以下なのか?」
「でもそれが事実なら麻生家と祐樹を小馬鹿にして居るわね!」
「よし、誰かに事実を探らせよう!」
祐樹は電話で由紀子と静子に確認する様に指示をした。
「俺が障害者の男以下なのか?」徐々に怒り始める祐樹。
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