コミュ障の学園スパイは美少女を無視するだけの可愛いお仕事です。

かるびーえーる

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横四楓院絞男は天然美少女がお嫌い

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 僕の名前は横四楓院絞男《よこしほういんしめお》である。

 某国の諜報員、スパイを生業としている一匹狼である。とある危険な任務の為にくたびれたジャパニーズスクールに極秘潜入中である。スパイという裏の任務を遂行しているが故に、頭頂が蛸の吸盤のような校長に最初は潜入を突っぱねられた。しかし、スーツの懐から黒くて逞しいトカレフを取り出した瞬間、毛根死滅という文字が相応しい校長は借りてきた猫のように僕の入園を認めたという経緯がある。

「なあなあ、これからカラオケいかねー?」

「ギャハハハハ、いくいぐいっぢゃぅうう゛う゛うう」

 それにしても、である。

 任務の為にこの胡散臭いスクールに潜入したはいいが、どうしてここはこうもミルク臭い連中が多いのだろう。鼻の穴にピアスを装備した所謂チャラ男が、これまた鼻の穴にピアスをフル装備したガングロギャルにダウナー系の声で遊びに誘う光景なんぞみていたら吐き気を通り越して急性胃腸炎になりそうである。小便臭いガキが小便臭いガキと群れを成して生息している姿を目の当りにしたら今すぐ全員を撃ち殺したくなるくらい不快で心が嫌悪感に染まってくるのを自分でも感じる。類は友を呼ぶ、とはまさにこのことである。

「ふう……」

 ああ、心がイライラする。

 極秘任務中は一切合切喋らないスパイのルールがあるが、つい溜息を吐いてしまう。ここ数日、イライラしっぱなしだ。こんな時は葉巻を口に咥えながら親の仇のようにクソ苦くて喉が焼け爛れるくらい熱い珈琲を一杯ヤるのが僕のストレス解消法である。僕は喫煙室に向かう為に自分の席から立とうと意識を両足に集中させた瞬間のことである。

「だ~れだ?」

 視界が闇に包まれ、仄かな温かみを僕の皮膚細胞が感じ取った。く、空襲か!?突然の謎の攻撃に動揺した僕は背後を思い切り振り返る。

「にしし、ヤッホー、元気?」

 人懐っこい笑顔を浮かべ、仁王勃ちしている女子がいた。

 確かこの雌は田中恵《たなかめぐみ》とかいう名前だったな。フン、只のクラスメイトでしかないお前がこの闇の世界の住人である僕に一体何の用だ?僕の目を塞いで耳たぶを甘かみでもするつもりだったのか?何だそれはとっても素晴らしい攻撃じゃなイカ!かかってきなさい!

「…………」

「あー、無視はひどいよー。カサカサカサカサ……蟲だけに」

 呆気にとられて沈黙を保っていると目の前の小便臭いメスガキは黒い悪魔の如く両手を上下に動かすジェスチャーをする。何だそのクソ寒い上に不愉快なパントマイムは?う、撃ち殺してやろうか?

「…………」

「あー、また無視したあ! おーい、もしもーし! 聞こえてますかー!? 難聴系主人公とか今時、流行らんデスヨー!」

 だんまりを決め込んでいると業を煮やしたのか目の前のメスは今度は僕の耳元で思い切り声を張り上げる。メス特有の甲高い声が鼻につく。このメス、手加減という言葉を知らないのか?そして、なぜ僕に構う?これでは地獄のコーヒーブレイクができないではないか。スパイを何だと思ってやがる。だいたい自分のクラスメイトの中に一人だけ学園指定の制服ではなく、黒のスーツに黒のグラサンを装備している輩なんかいたら気味悪がって声かけるどころか近寄ることすら憚るだろ。少なくとも僕がこのメスの立場だったのなら『この人、冠婚葬祭のプロかな……』とか思っちゃうぞ。

「おーいっ! おーいお茶! お~い! もっしもーしー!」

 しかし、いつまでもこう気の狂ったような口撃を受けていると身が幾つあっても足りない。ああ、足りないのはこの女の頭もか。沈黙を保っていた僕であるが、拡声器に服を着せたようなこの女に一発言ってやらないと僕の気が済まないし、僕の健康状態が悪化する。

「…………ぼっぼぼぼっぼっくんに、はっはなっ話しかけないでくだちゃいぃ」

「あ、やっと、気付いてくれた。もー、いくら喋りかけても返事してくれないから漬物石妖怪に喋りかけてる気分になったよ、にしし」

 この女、人の話を聞いちゃいない。

「…………」

「あ、ダンマリ? また、だんまりですか? だんまリズムが好きなお年頃って奴ですか? それ、全然かっこよくないから止めた方が良いと思うよ」

 だんまリズムって何?

 だいたい、僕は恰好の良し悪しで沈黙を保っているわけではない。スパイは『犯さない、走らない、喋らない、催さない』の『お・は・し・も』の精神を黒の組織から叩き込まれているのである。そこいらに生息している一般バンビーと無駄に喋って、極秘の内容をうっかり口外なんぞしてしまえば僕は一発で打ち首切腹ものである。

「…………」

「ねー、ねー、ねー! いい加減、目を開けて寝るのやめない!? おねーさんと一緒にランナウェイしようよー」

 目の前のメスは舌をペロっと出し、生意気にウインクをする。め、目を開けて寝とらんわ!普通に話してただろ!怖いわ、どんなホラーだよそれは。

 仕方ない。俗世の人間にはあまり使用したくなかったが。僕は脅しの意味でスーツの懐から自慢の黒光りするご立派なトカレフを先っちょだけ出して、目の前の女に見せつけてやる。フン、どうだ?僕のご立派様の武器は?これで失禁して逃げ出さない輩は今まで一人もいなかった。

「あ、何それ何それー、かっわいいー! もっと見せて見せてー! 触らせて触らせてー!」

 なっ、僕の、逞しいトカレフが可愛いだと?えっ何故か結構ショックなんですけど。

 あまりにもあんまりな目の前のメスの嬉々とした様子にポロッとご飯粒をこぼすようにトカレフをスーツの懐から机の上に零してしまった。

「わーい! ナニコレナニコレー! かっちょいいー! ウェーイ!」

 机の上に自慢のトカレフを零した瞬間、好奇心の虜となったメスはソレを取り上げ、ベタベタと触りまくる。な、なにが、ウェーイだやめろ……。命の次の次に大事なトカレフが敵に取り上げられてしまった。こ、これはまずいぞ。こんな醜態を上司に知られてしまったら反省文原稿用紙百枚ものだ。なるべく動揺を表に出さず。そして、可及的速やかに目の前のメスから僕の命の次の次の次に大事なトカレフを取り返さなければ。

「か、返せ…………返してください」

「やだ」

「返してください……お願いします」

「やーだよっ、私を無視する意地悪な佐藤くんには返さないモン」

 さ、佐藤くんいうな。
僕の本当の名前は横四楓院絞男だ。

「かっ、返して…………返してください後生ですぅお願いでしゅうぅ」

「やーだ! ふっふっふ、これが無いと佐藤くんは私を無視することが出来ないのだ。そしてそんな悪い子の佐藤くんにはおしおきです!」

 そして、目の前のメスは僕にトカレフの銃口を向ける。

 あ、死んだな、これ。

「ばーん! なーんちゃって……って、あれ? 佐藤くーん? おーい、どうしたのー?」

 そして僕は殉職した
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