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guilty 3. 何故か、ヤバい女と茶をしばくことになった

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喫茶店ルノワール。



 高校の最寄り駅にひっそりと佇む個人経営の喫茶店である。オフィスビルの1階に構えており、黒を基調としたモダンでシックな内装が落ち着くので俺の推し店である。喫茶店の上にはヤのつく方たちの事務所、そして3階にはおカマバーが構えており、なかなかにデンジャラスかつカオスなオフィスビルである。



「いらっしゃい。おう、桂一郎じゃねえか。お久しブリーフだな」



 頭のネジのちょっとどころか大分外れたJKと喫茶店に入ると、マスターのおやっさんが声を掛けてくる。



 ハゲ頭にグラサン、そして口髭を生やし、服の上からでも分かる筋肉隆々な姿は堅気じゃない方に見えるが、実際のところは俺にもよく分からない。『おお、俺の右眼が疼くぜ……』とか厨二な台詞や、寒いどころか痛いおやぢギャグ、それに加えセクハラ発言をするところが偶にキズだが、誰でも来る者拒まずで気のいいおやっさんである。



「先輩、このおぢさんは先輩のこれですか?」



 駅前で喚き散らかしていた茶髪JKは上目使いで、右手の小指を立てる。うーん、サイコパスかな?



「そっちの嬢ちゃんはあれかい? 桂一郎のセフレか?」



 マスターはラーメン屋の店長みたく腕を組んで、元気にガハバと高笑いする。ここには頭のおかしな奴しかいないのか。



「出会い頭でいきなり疲れる会話をするなよ。マスター、奥の席に座ってもいいか?」

「いいけどよ、ゴムはつけろよ。俺の使用済みを貸してやろうか? ガビガビで穴開いてるけどよ」



 もうやだこのハゲちゃびん。抹殺していい?



 そう言いたくなったが、こんなところで時間を潰していても仕方ない。金魚のフンのように後ろからついてくるJKには聞きたいことがあるし、言いたいことも山ほどある。



 俺はマスターの戯れ言をスルーして、奥の席に向かう。ちらっと横目でマスターを見ると、ウィンクからの投げキスをしてきた。きめえ、なんのつもりだ。JKはテトテトと俺に着いてくる。



「へー、先輩の辛気くさい顔には似合わないシックで素敵なお店ですね」



 JKは奥の席に俺の向かいに座ると、いきなり罵倒しが飛んできた。



「酷くない? あと、さっきから気になってたんだけどお前、俺のこと『先輩』って呼んでるけど、年下なの?」

「先輩のお年が知らないのでよく分かりませんが、私は18ですよ」

「同期やないかい。何でお前名前も年齢も知らない俺に先輩呼びを」

「先輩、ストップ!!」



 ドス!! ぬぷっ……。



「ブッッ……ぁっはんっ♡」



 いきなり、目の前のJKにストローを鼻に思い切り挿入されてさらに引き抜かれて、思わず豚のような悲鳴を上げてしまう俺。なにこれ、新手のセクロス?



「自己紹介しましょう」

「俺の鼻の穴にストロー入れる下りまったくいらなかったよね、病み付きになっちゃったらどーすんの」

「私の名前は……あ~、なんだか喉渇いちゃいましたね。ますたあ~、注文良いですかあ~?」



 フリーダムか。



「あいよ、ナニする?」

「え~っと、私はブレンドで! この人には海水と醤油と塩辛で!」



 JKは俺を指差し、注文する。

何、人の分まで勝手に注文しちゃってくれてんのこの子。てか海水と醤油と塩辛って……俺を痛風からの生活習慣病でコロす気か?



「嬢ちゃん、海水と醤油はねえから代わりに青汁でもいいかい?」

「いいです! じゃあ、ブレンドと青汁と塩辛をお願いします!」



 いいわけないだろ、俺の意思は一切無視か。



 マスターは「ちょっと待ってな」と言い、店のカウンターに戻っていった。ていうか、塩辛はあるんかい。居酒屋かよ。



「私、憧れてたんですよね~、こういう素敵なお店で大人の飲み物を飲むの」

「珈琲、初めてなのか? 大丈夫か」

「はい、大人な私には全然平気ですよ! 大人な舌を持つ大人勢な私にとっては大人的な解釈がありますから大人様でオッケーですっ」



 小さな胸を張り、フンすと偉そうに腕を組むJK。

大人大人言い過ぎて、意味不明なことになってる。大体、こういう大人な私は~とか言う奴に限って真逆なお子様だったするのだが。大人にコンプレックスでも持ってるのかな。生意気な奴だが、意外と可愛らしいところもあるかもしれない。



「フッ、そうか」

「え、エグいです、顔」



 普通に辛辣。



「あ、そうそう、自己紹介の話でしたね! も~、先輩が妨害するから話が進まないじゃないですか!」

「妨害した覚えはないのだが……バックログで読んできたら?」

「私の名前は櫻井雛さくらいひな、花の高校三年生です! 好きな食べ物は柴漬けとレバニラ炒めですね、嫌いな食べ物はチーズと塩辛で~、あと得意技はジャーマンスープレックスで~、嫌いな人は水虫飼ってるモヤシのようなヒョロガリで~、あとあと~ペラペラペラペラペラペラ」



 ヒェッ……。

堰を切ったかのように喋り始める櫻井とかいう女子。いやっ、そこまで聞いてねーし!名前だけで充分なんだよなあ!



「わ、分かった、分かったから……お前のことはよく分かったから。お座り」

「ワオン! はあはあ、さあ、次は先輩の番ですよ」



 何で、疲れてんの?



「あ、ああ……。俺の名前は植木桂一郎です、宜しく」

「下剤みたいな名前ですね!」



 え、どういう感想?もしかして侮辱されてる?



「で、で、で! 得意技はおやぢ狩りですかあ!?」



 櫻井は小学生みたいに目を輝かせて、俺との距離を詰める。え、やだ、なんでこの子やたらと興奮してんの。鼻血も出てるし……リアルで興奮して鼻血出してる奴、はじめてみた。



「えっ、いや……そんな犯罪行為は一切してないし、何でお前は嬉しそうなのか意味分からんし頭おかしいし……あの、帰っても良いですか?」

「かあーっ、た ま ら ん ! おっおぢさんの乳首の周りにある汚い雑草をむしり取って温かい白米の上に載せてもしゃもしゃと摂取するんですよね! はあっはあ……ごっくん」



 たまらん、入りました。おっさんかよ。



「だ、大丈夫かお前……尋常じゃないツラしてるぞ」

「はあはあ、お、お騒がせしました……興奮して先輩とマスターがマイクロビキニでお馬さんゴッコしてる姿を想像しちゃいました。ごちです」

 

 エェ、ナニそれ、下手なホラー映画よりホラーしてる。色々と酷すぎる。ていうか、何で俺は普通にこの危ない女とノホホンと話をしているんだ。痴漢についてどういうつもりなのか聞くつもりだったのに。な、何か段々と聞くのも怖くなってきたんですけど。慎重になろう。ナニをされるかわかったものではない。



「あっ……と、お、お前、さっきも聞いたが何で俺のこと先輩とか呼んでんの? 同期だろ」

「先輩ってなんか呼ばれるときゅんきゅんするじゃないですか。だから、きゅんきゅんさせて遊んじゃおうと思って」



 いや、しない、一切しないぞ、きゅんきゅん。

つい今のお前の深淵を覗いちゃったせいか、むしろ心臓がドクドクと脈動する。てか、聞き捨てならないことを言わなかったかこいつ。



「はいよ、ブレンドと青汁と塩辛おまち」



 櫻井が勝手に頼んだ注文がテーブルに並べられる。あの、俺のメニューが空気を読んでないんですけど。



「はあ……良い香りです、魚の腸と先輩の体臭が混ぜ合わさったような悪魔のようなフルーティな香り」



 櫻井はマスターの淹れた珈琲の香りをうっとりとした表情で楽しんでいる。どんな感想だよ、褒めたいのか貶したいのか俺をおちょくりたいのか、どれだ。



「ふ~……ふ~……」



 櫻井は目を閉じ、珈琲に息を吹きかける。

不思議と。そのモダンな喫茶店に佇み、珈琲に口をつけようとするセーラー服の彼女が似合っていると、そう思ってしまった。あんな地獄のような性癖を見てしまったのに不思議なもんだ。



「ふ~……ふ~……ふ~……ふ~……」



 ……長いな、猫舌か?



「いただきます」



 初めての体験。



 初めての味。



 初めての刺激。



 初めて尽くし大人の世界へお一人様ご案内……。



「グエエエ! なっなんですかあ、この苦汁はあ! に、にがぁ……苦過ぎですっ!!」



 櫻井は舌を出し、梅干しを食べたお婆ちゃんみたいな顔をして騒ぎ出す。櫻井には大人の世界はまだ早かったようだ。



「ヒエエエ、な、なにかっ……何か甘い物をプリーズ!」

「甘い物って言ってもな……あ」



 櫻井は耐えきれなかったのか、俺の目の前の手をつけられていない青汁を奪い取って思い切り口に流し込む。



「ギエピー!! 口の中が草原ひゃあああー!!」

「お前、馬鹿とは思ってたけど馬鹿だろ」



 櫻井は力尽きたのか、テーブルの上に突っ伏す。



 まったく、笑ったり怒ったり喚いたり、忙しい奴だな。先刻のエグい性癖は看過できないが、普通の友人として過ごすなら案外楽しい奴なのかも知れない。クソみたいな出会いじゃなければ友人になっていたかもしれないな。



「ウウッ……し、仕返しですか。ちょっかいかけた可愛い妹にこんな仕打ちをして、先輩は鬼畜ですか、痴漢ですか」

「誰が妹だ。ていうか、勝手に自爆しただけだし、そして痴漢要素が何処にある」

「先輩がマスターに痴漢したら許してあげます」



 うーん、ナンデ?



 そして、櫻井とひとしきりしょうもない話を小一時間した後、喫茶店を出て櫻井と電車で帰る運びとなり、自宅の最寄り駅で解散した。



「あ、連絡に不便なのでライン交換しましょう!」



 櫻井のライン、GET!



 うん、絶対なんか忘れてるよね、俺。
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