木乃伊の花嫁

金合歓

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 女は、夢の中で第4の物語を読み始める。

『みいら の はなよめ』
 
 皿は青大理石を削ったもので、部屋いっぱいに収まるほど巨大だった。皿の真中には、乾いた蜂蜜がへばりつき、裸の女の木乃伊が転がっている。その真上の天井からは、蜂蜜色の鈍い光を落とす裸電球が吊るされていた。
 頭巾を目深にかぶった花婿は、扉を開けてこの部屋に入ってきて、干からびた花嫁を見つける。世話係の小男が後ろに忍び寄り、奇妙な咳ばらいをしながら告げる。
 心臓も肺も、胃も、小腸も、すっかり抜き取ってこちらの壺に詰めました。そうです、その動物の装飾がついた壺です。体の方には清い塩をまぶし、香り高い草と綿布団を、心臓や肺や、胃や、小腸の代わりに詰めました。もう花嫁様は、暑さや寒さ、渇きや飢えにわずらわされず、それに死の恐怖に震えることもございません。
 花婿は満足げにうなずき、巨大な皿に上がって花嫁の傍らに歩み寄る。そして、息もしない彼女の上に覆いかぶさり、長い長い接吻をする。おもむろに頭巾を取った彼の顔は、ひどくしわがれている。声もまた然り。だが、若く、うぶな口調で彼は花嫁の耳元にささやく。
 あなたをけして不幸にしないと、あの結婚の日に神の前で誓いました。その誓いは、66年がたった今、ようやく果たされたのです。あなたは永遠の美…けして変わることがない…どうか、ええ、今からでも遅くはありません。永遠の美と愚かな老いとの結ぼれによって、新たな命を生み、育みましょう。
 裸電球のフィラメントが、小男の咳払いのような音を立てて切れ、暗転。

 次の頁。

 皿の上で目覚めた花嫁。腕の中には童話集の代わりに、目も開かない赤ん坊を抱えている。立ち上がってみると、女は何かがおかしいことに気付く。自分は息をしていない。鼓動もない。寒さや暑さ、飢えも、空腹も感じない。
 だが、それがどうしたというのだろう?
(この子の親を探さなくちゃ。)
 花嫁はそう思い立って皿から飛び降り、扉を押し開けて部屋を出た。
 廊下に飾られていた百合の花は、横を通り過ぎた花嫁にわずかに触れたので、最後の花弁を惜しげもなく落とした。

 めでたし、めでたし。

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