大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

本編

鍵戦争と空白

俺の身体のド真ん中に叩き込まれた拳。
くの字に折れ曲がり、何かが胃から込み上げる嫌な感覚。
一瞬遅れて身体の真ん中から広がり始める激痛。
食いしばった歯と歯の隙間から漏れたのはなんとも形容し難い呻き声。
飛んで行った速度以上で地面へ叩き返された俺は、そのまま凄まじい勢いで地面に衝突。
直後、俺のフィールドの砕け散る音。
それでも殺しきれなかった衝撃が身体を打ち、俺の意識はすっ、と闇に落ちた。
── ── ── ── ── ── ── ── ──
『アジャスト出来るかって…何をどうだよ』
未だ扱えていない銀剣に対する策がない訳ではない。そう言った俺に、シャルは訝しげにそう聞いた。
「んー…剣技っつーか技術として、力を受け流す技術があるのは知ってるよな？」
『当たり前だ。常識だろう』
どういう技かと言うと、たとえば魔獣や魔族など、筋力が相手の方が圧倒的に格上の場合などによくする技だ。
まず相手の攻撃を受ける。ただし、そのまま真っ向から受けると手足を痛めたり最悪折れたり、そうでなくとも力で押し負けて吹き飛ばされたりという事が多々ある。
俺の場合、足りない髪や血呪などで強引に補う事もあるが、それが出来ない時もある。
そう言う時、相手から受けた力をそのまま受けるのではなく身体の中で流し、被害を最小限に抑えるという技術がある。
シャルが馬鹿にするなと言わんばかりの言い方だったが、魔族と直に剣を交えるのなら無意識に出来るレベルで必須とも言える技術だ。
「だったら話は早い。それの応用だ。振り回すだけで力に振り回されるような銀剣の勢いを、身体の中で流す」
『それじゃあ剣の動きが死ぬだろう。一振ごとに勢いを殺してちゃ剣戟は繋がらない』
元々威力を殺すための技術だ。そうなるのも当然。
しかし。
「いや、流した力はそのまま流しきるんじゃない。中で循環させて次の一撃をさらに重くさせる」
『………は？』
「力を流して零にして、次の一撃をまた一からやり直すんじゃない。前の一撃の勢いに重ねて第二撃、さらにその力を流して重ねてそれ以上に重い第三撃を撃てばいい」
しばしシャルが沈黙する。
『………理屈はわかる。多分実現可能だな。似たような技を奥義として教えてる所もあるし、今代のスキルを考えると今からやっても間に合うだろう』
「だろう？」
『だがやっぱり無理だ。出来ると言っても、それは得物が一つの奴に限った話だ。双剣である以上、力の流れは一つじゃない。下手に交差した場合、お前の身体の中でぶつかった力は身体の中で爆発するぞ。その調整までしていたら鍵戦争までは絶対に間に合わないだろ』
「いや、一つだけ鍵戦争までに成功するかもしれない方法がある」
それを聞き、シャルはしばし黙る。
『あっ』
やがて小さく声を上げた。
『マキナか』
── ── ── ── ── ── ── ── ──
『……──ター・マスター・応答してください。マスター・マスター・応答してください。マスター──』
そんな無機質な声に起こされた。
『ッ、ぐ、今起きた。状況は？』
「あっ、気がつきましたか！大丈夫ですか!?とりあえず鎧を解除出来ますか？」
『…あァン？お前誰？』
起きてすぐ目に映ったのは色白の優しげな目をした少女。
次に顔を横にやると、景色が勝手に流れていく。
そして目線を下へと向け、自分の身体を見下ろす。
寝ている間にマキナが自力で直したのだろう、鎧に傷はない。しかしその下、生身の身体の方は…まぁ、鍵戦争と言う、半ばお祭りの場であったためだろう。あまり大事には至っていないようだ。
「救護班のルリエです！すぐに保健室へ運ぶので待っててください！」
なるほど、寝たままの状態であることを考えると、担架かなにかだろうか。それにしては振動が少ないが。
じゃねぇ。
『あ？保健室？ふざけんな。おいマキナ、どんだけ寝てた』
『四十七秒・です』
『遅いか…？いや、まだ間に合うか？』
身体を起こして担架から降りようとすると、全力でルリエに止められる。
「何考えてるんですか!?もう無理ですよ！早く保健室で手当を受けてください！」
『断る』
ヒョイと担架から降り、髪を全て下半身に集中させる。
この位置からなら、訓練所まで全力で走れば十秒もかからないだろう。
身体はまだ戦える。剣も握れる。
『金剣と銀剣は？』
『訓練所に・置いたままです』
『わかった。急ぐぞ』
「ちょっ」
バゴッ!!と床を蹴り砕いて加速。
もっててくれよ、アーネ。