大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

本編

熱と騎士3

デーモンと俺との距離はおよそ十五メートル。
デーモンが持つ大斧のリーチは大体十メートルちょっとなので、まるでその場から動こうとしないデーモンも、近づこうとすると熱にやられてしまう俺も、攻撃手段がないまま膠着状態に陥った。
ブレスはおそらく連続で撃つことも出来るのだろうが、使用回数でもあるのだろうか。あまり撃ってこない。かといって、ブレスは無視することが出来るほど遅くもないし弱くもない。
じっと睨み合いを続けていても時間稼ぎ的にはいいのだが、どんどん上がっていく熱で離される俺が不利であるので、どうに貸して決着を付けたい。
『いいか、今代の』
シャルが落ち着いた声音で言う。
『正直、お前が奴にこのまま真っ向からぶつかった所で、勝率はいいとこ五パーセントぐらいだ。それもなりふり構わずぶつかっても、だ』
あぁ。
『奴の身体は硬く、一撃は致死。熱で近づくことも出来なければ、背中を向けて逃げ出すのも無理。撃破か最低でも戦闘不能。それがお前の目的だな』
そうだ。
『よし分かった。いいか？今代の。あのデーモンとお前はこの上ないぐらい相性が悪いが、同時にお前はあのデーモンとは相性がいい。何故なら、あのデーモンは血の代わりに溶岩が流れている。それも、その性質はヒトや魔人達よりも勇者に近い』
俺達に…？まさか、その溶岩は魔力を帯びているとでも？
『そのまさか。大正解だ。だからお前がその聖弾を奴に撃っても、場合によっちゃあ想像以上に効かない可能性も充分にある』
益々厄介な。これで俺の攻撃はほぼ完全に効かないという事が確定してしまったかもしれない。
やはり十分程度ずっと囮に徹するしかないか。
『いやいや、レィア君、ちょっと捻ればもう少し道は開けるぞ』
レイヴァーが横から口を挟む。
『我々《勇者》の持つ魔法返しは魔法に対して強力な耐性を持つが絶対じゃない。魔法返しの弱点は「上限を超えると貫通してくる」という点と、「魔法から枝分かれした現象には対応出来ない」という事だ。覚えておきな？』
いや、それぐらい知ってるけど…だからどうしろと言うのだ。
『後はそうだな…うん、手が無いなら《第七》とか使ってもいいんじゃない？』
軽くレイヴァーが言った言葉は、俺とシャルを凍りつかせた。
『…まさか本気で言ってるのか？』
『もう既に《第七》の鍵はレィア君に渡したし、君が必要だと思ったら使えばいいと思うよ』
………有効射程はどのぐらいだっけ。
『今代の!?』
『そうだなぁ…大体、君を中心に三…いや、今なら四キロぐらいは行けるんじゃないかな』
ダメだ。それじゃあ範囲が広すぎる。アーネや一年をまとめて消しちまう。
『範囲を絞ればいいのに』
『そう思って失敗した勇者が何人いると思ってるんだ。第一と第二しか使えなかったから力加減が雑でよかったよな、お前の時は』
『…別に俺だってそんな雑に血界を使ってた訳じゃないんだけどな』
…ともかく第七は使わない。自力でどうにかするしかない。
『そうか。でも俺が言えるのはこれぐらいだしなぁ』
そう簡単にあんなもの使ってたまるか。被害が大きすぎる。
はたから見たら神の怒りか天変地異だぞ。
「っと…？」
ついにしびれを切らしたのか、デーモンが行動に移った。
片刃大斧の背でごぉん、ごぉんと地面を叩く。
「何をする気だ…？」
『わからん。奴は魔法を使えんはずだが……シルエットが人型だからと言っても魔法はそう簡単に使えないし…』
いや、でも。
明らかに膨大な魔力が、奴の斧が地面を叩く度に呼応するようにして地面へ大きな反応を残していく。
ぼたぼたと奴の腕から流れ落ちる溶岩が、そのまま斧を伝い、地面へと少しずつ落ちていくのを目にし、俺は何が起こっているのか理解すると同時に真横へ飛んだ。
直後、俺のいた場所から溶岩が吹き上がった。
「クッオオオオオオオオ!?」
辛うじて直撃は避けたが、もしも当たっていたらと思うと冷や汗が止まらない。直前で気づけてよかった。
「あっぶねー」
しかし。
ごぉん、ごぉん。と。
音はまだ止まっていなかった。
また足元か。そう思い、横へ再びステップした瞬間。
『いや違う！後ろ！』
シャルの警告が響くと同時に、俺は異常な熱を背中に感じ、吹き飛ばされた。