大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

演劇と感想

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そんな訳で、もうしばらく出店を回りをして時刻を見ると、そろそろ演劇の開始時刻。
欲しいものは手に入ったのでユーリアと共に広場に向かい、二人分の料金を払ってテントの中に入った。
テントはゼランバであった店のように、見た目はこぢんまりとしているが、中に入ると非常に広い。明らかに空間が拡張されていた。
さらに中の声が外に全く漏れていないようで、防音も完璧と来ている。凄いな魔法。
特に席も指定されていないような感じだったので、ユーリアが「こっちの方が見やすいぞ」と引っ張るままに流され、適当な位置に座る。
やがて幕が上がり、プロローグが流れ始めた。
「で、感想はどうだった」
およそ一時間半の後、テントを出てユーリアが聞いてくる。
「面白かった。良いもん見れたわ」
簡単にストーリーを説明すると、力ある騎士が国と愛する女を守るために数々の異形の怪物と戦い、打ち勝つ話。
これが前半部分。
後半は、その怪物を送り込んでいる敵が、実は愛しい女であるという話の急展開から始まる。
騎士はそれに薄々勘づいてはいたものの、苦悩の末に剣を取る。
道を決定的に違えたが故に交差するしかない二人は、死闘の末に騎士が勝つ。
しかし、その直後から騎士の身体に異変が起こる。意識が蝕まれ、誰かに乗っ取られそうになる。
本当の敵は憑依する悪魔のような存在であり、愛していた女はそのせいで彼と敵対したのだと騎士はこの時知る。
その時彼は、安堵の笑みを浮かべて自分の剣で自分と憑依するそれとを一緒に斬り、力尽きたという。
以上が邪を払う剣の簡単なストーリーだ。
いやしかし見応えがあった。演者が軽く宙を舞い、切り結び、派手な火花を散らして戦うのというのは。
ただの命の取り合いとはまるで違う、観せるための美しい動き。
尋常ではなく早く動いているのだが、その動きは区切りがついているからか、細部まで分かりやすく、そのメリハリが心地よい。
殺陣のシーンのみではなく、セリフや動作も心に響かせる迫真の演技。実に良かった。
まぁ、何より面白かったのは別の所なのだが。
そういう感想を軽く掻い摘んでユーリアに言うと、満足気にユーリアが頷く。
「そうか、今日の演者は演技に身が入っている人だったな。殺陣は凄い人がやるともっと激しいぞ」
あれより凄いのか。少し気になるが、またの機会だな。
ふと空腹感を覚え、時計がないかと見回すと、広場に時計が。時間もぼちぼちか。
「飯食うか。そこら辺で買うか屋敷に戻るか…」
「流石に戻ろう。いつまでも奢らせるのは悪いしな」
俺は別に気にしないのだが、ユーリアが気にするなら戻るか。
いやぁしかし面白いものを見た。
あの演劇で一番面白かったのはシャルのリアクション。
始まって一分も経たないうちに『うん?』と何かに気づき、やがて『あー、うー』と呻き声が聞こえ始めた。
最終的には黙って消えたが、つまりはそういう事だろう。
一体誰がこんな物を書いたのか知らないが、よくもまぁ書き上げたものだと思う。
とりあえず、後で部屋に戻ったらどこまでが真実なのかシャルに聞いてみるか。
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