大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

指輪と体調

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柔い布、ほんのりとする甘い匂い、そして自分以外の体温。
それらを感じ、まだ寝ていたいと思う反面、何かしなくてはならなかったはずだと思いつつ、瞼をゆっくりと上げる。
「………。」
身を起こし、くぁ、と欠伸をする。
周りを見渡すと俺の部屋ではない。随分とファンシー…というか女の子っぽい部屋。
そこまで言って、やっぱ俺って語彙力ねぇんだなとつくづく実感する。いや、あるいは表現力か。
あぁそうだ。見覚えがある。というか、隣に…いや、手元に答えがあった。これ、アーネの部屋だ。微かに残る記憶を頼りに、何があったかを少しずつ思い出す。
えっと、口付けをしたら、気が緩んで膝から力が抜けた。
そしたら途端に疲れと眠気が押し寄せて来て…俺が覚えてるのはそこまでか。
視線を下の方へ下ろせば、当たり前のようにアーネが俺の手を握って寝ている。そりゃそうか、アーネの部屋だしな。
顔を見るに、こいつも昨日はまるで眠れなかったようだし、俺をベッドまで運んだ所で力尽きて寝たか。
何かをしなくちゃならなかった気がするが…はて、何をしなきゃならんか忘れた。
アーネを起こすのは悪いので、絡めるように握られた指を一本ずつそっと離していく。
「…ん?」
そこで気づく。彼女の左手の薬指に、以前俺が預かっていてくれと渡した、ナナキの遺灰から作られた指輪がある事に。
左の薬指は、確か婚姻の意味だったか。今までつけていて気づかなかったということは流石に考えにくいので、さっきつけたのだろうか。
結婚すると言った覚えは無いのだが…まぁ、その辺は大差あるまい。
彼女に応えると行動で示したのだから、俺もそれに倣うとしよう。
右の薬指の指輪を左に移し、なんとはなしに一人で頷く。
そこまでして、ふと気づく。
左手に不自由がない。鎖骨が治っている。
「………。」
となると、絵面的に考えて俺をベッドに運んで、指輪つけて、骨治してからベッドに潜り込んで寝たのか…割と元気だったんだな。
静かにベッドから降りて窓の方を見ると、外はまだ明るい。昼頃だろうか。
多少乱れた服の裾を正し、部屋を出る。何忘れてたっけなぁ…
「おや?」
「あん?」
ちょうどそこでエルストイと鉢合わせた。
「………顔色が良くなっていつもの美貌が帰ってきたようだね。アーネの体調は良くなったのかい?」
変な間があったものの、いつものやり取りを適当に流し「ん…まぁな」と答える。
「あいつは今部屋で寝てる。そのうち起きたら元通りだろうよ。ところで何時だ」
「今かい、一時過ぎだったはずだけど。ちょっと待っててくれたまえ…」
そう言って懐をまさぐるエルストイ。懐中時計でも探しているのだろうか。
「あぁいや、大体分かりゃいいんだ。サンキュー」
「そうかい。ところで僕からも一つ、聞いていいかい?」
「ん?あぁ。まぁ。何だ?」
「いやね、君の首あたりにキスマークがついてるんだよ。朝は無かったと思うんだけど…?」
「首ィ?」
言われて触るが、触ってわかるものでもないのか、何も感じない。寝てる間にやられたか。
その様子をじっと見ていたエルストイは、ふむ、と一言言って、俺にこう言った。
「あまり余計な詮索はしたくないけど、出て来た場所と時間があまりにも悪いね。父さん達に言わない訳にもいかないし、これは家族会議になりそうだ」
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