大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

狙いと接敵

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今思えば、予兆は前々からあったのだ。
去年の四月半ばに東の紅の森で。四月末には南側から。少し時を置いて、冬には腐死者達が。
魔族達は事あるごとに結界を破って侵入してきていた。
いつからかは分からないが、少なくとも一年以上前から魔族が結界を抜けることは不可能と言いきれなくなっていた。
だと言うのに、俺は「結界があるから安心出来る」とどこか思考停止じみた考えを持っていた。何度も破られている結界が、安心出来ると。
いや、そう思いたかったのだろう。安心出来る場所。それを守る壁が思ったよりずっと薄く、いつ滅ぼされるか分からないような薄氷の上に成り立っているなど。そう思うと気が気ではない。
もちろん結界が魔族からの侵入をまるで拒めていないと否定する気は無い。もし本当に結界を簡単に破れるのなら、既にヒトは魔族に敗北していてもおかしくはない。
だが、一方で今現在、その結界が気休めでしかないというのはほとんど間違いないだろう。
南側から破られた、という話だが、少なくとも東側も同様に破ることは可能なはず。二方向、あるいは西すら突破できるというのなら…複数方向から魔族から攻め込まれれば恐らくヒトはあっさりと落ちるだろう、というのがシャルの見立てだ。 
『俺の時代でどれだけ数を減らせたかは分からないが、魔族は少なくとも千体近くは残っていたはずだ。単純に考えて、そのまま全ての魔族が全力で潰しにかかられると…詰むわな』
「五十体も来てる、じゃなくて五十体しか来てない、って事か」
現在、厩舎にいた馬一頭を勝手に拝借し、全力で結界方面へと飛ばしている最中。じきに魔族達と鉢合わせるはずだ。
『あぁ。だが、それだけでヒトを滅ぼすのに充分と判断するほど魔族は馬鹿じゃない。となると──』
「何か明確に目的があって聖学に向かってると?」
『まず間違いない。じゃなきゃもっと数を送ってくるか、そもそも攻めきれないなら手は出さないだろ』
「なるほどな…心当たりが多すぎてどれか分からんな」
俺だって聖学の全てを知ってる訳じゃないが、軽く思い出すだけで二、三個はある。
あるいはもっと直接的な狙い。聖学そのものが狙いという可能性も無くはないだろうが…このタイミングでやる理由がわからん。
そこまで思案した結果、後ろにいるアーネに向けて、振り返らずにもう一度確認をする。
「アーネ、これ以上進むと本当に接敵する。今ならまだ戻れ──」
「戻りませんわよ。決して」
かれこれ四回目の拒否。俺の胴に回した腕をさらにギュッと締め、何がなんでも離さないという強い意志を表す。
「どこまでも行きますわ。絶対に、貴方を一人にはしませんの」
「…死ぬつもりは無いんだがな」
「もし死ぬつもりでしたら、引っぱたいてでも止めますわよ」
「いでで」
アバラが軋む。アーネも分かってやっているだろうが。
「それに、魔族が押し寄せてきてるのなら、貴方がいる場所が一番安全でしょう?」
「はは、言うねぇ」
『レィア』
シャルが俺に呼びかけた。
「…あぁ」
馬を下り、聖学の方に向けてケツを叩いて帰らせる。
逃げ切れるといいんだが…
豆粒のように小さい影が、こちらへと向かっているのが見える。数は明らかに五十もない。複数に分けて聖学に向かわせているのだろうか。
そっちの方が面倒だが、俺としては助かる。
「アーネ、気をつけろよ。俺なんかよりお前の方が危ねぇんだからな」
「私は前で命を張る貴方の方が心配ですわよ」
金剣を装備し、次いで鎧を着込む。
「マキ──」
だが。
俺が言い切るより早く。
「──!!」
背中がざわめいた。
『レィアッ!!』
直後、身体を膨大な魔力が襲った。
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