大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

魔族と戦闘

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踏み込んだ瞬間、俺の裏に魔族が立っていた。
「ッ!?」
「ダメだッ!レィア!そいつらは」
振り返って抜剣。抜き放つと同時に真横に薙ぐが、手応えは無い。
魔族は現れた時と同じように、まるで霞のように消えた。
「あぁッ!?」
なんだ今の?俺に幻覚は通用しないはず──
『前ッ!!』
慌てて前を向くと、全く同じ顔をした長髪の魔族が三人、同時に飛び込んで来た。
「なんだこいつ!?」
右手の黒剣を仕舞いつつ、右腰にある黒剣を二メートルサイズで振り抜いた。
それには魔族も反応し、身を反らせて回避。さらに近寄ってくる。
だが。
「なんのっ」
血瞬を発動し、常人ではありえない速度で納剣、さらに左腰の黒剣を抜いて神速の縦切り。
回避直後の魔族は反応出来ずに真っ二つにされ、着地と同時に血と内臓を撒き散らして崩れ落ちる。
手応え的に明らかに本物。どういう魔術かは分からないが、これで消え──
「消えねぇのかよ!」
そのままゼロ距離近接戦闘に持ち込まれ、黒剣一本を片手に、魔族二体を相手取る。
しかし妙だ。既に第四血界は発動している。だと言うのに、魔法も魔術も発動した様子はない。
「そいつらは《スキル》を使う!」
「…あ?」
一体の頭を髪で強引に掴んで引き寄せ、そのままもう一体の魔族にぶつけて一緒に地面に叩き込む。空中に放り投げた柄だけの黒剣をひょいと掴み、腰に戻して振り返ると、ユーリアも《剣姫》も同じ顔をした魔族と戦っている。
『《分裂》…か?』
そうシャルが呟いた事が合図だった訳では無いだろうが、再び俺に三体の長髪魔族が襲いかかる。
「しゃらくせェ!!」
鎧を変形。極限まで防御を薄くし、千本の剣へと姿を変え、その上で薄く薄く血を伸ばす。
第三血界──血刃。絶対切断の能力を持つその血界は、触れれば切れるが故に、形にこだわる必要は無い。
本来はさしたる攻撃力もない銀の刃に薄紅の化粧を施せば、必殺の絶刃へと姿を変える。
突如伸びた刃に大した抵抗も出来ずに散る三体の魔族。血や肉となったそれらはをよく見れば、地面に落ちたその瞬間から端々が既に塵のようなものになっている。
『こんな魔法は…知らねぇな』
魔術でもあるまい。あれは現象を起こせない。
《スキル》を持った魔族。ユーリアの言葉が今思い出される。
いや、何より──ユーリアはなんと言っていた?
──「そいつらは《スキル》を使う!」

「まさか」
『上ッ!』
見上げれば、暗く日が落ち始める黄昏に浮かぶ人影がいた。
手に持っているのは、どこから取り出したか黒い長剣。長髪の魔族では無いということは、それとはまた別の魔族。
それが俺目掛けて落ちてくる。
だが空中ならば回避も不可能。左の黒剣を抜き放ち、逆に攻撃を叩き込む。
振り抜いた二メートルの黒剣。それが文字通り風を裂き、音を斬り、魔族を断つその瞬間。
魔族の姿が消えた。
「『なんっ!?』」
直後、全身の鎧が一気に薄くなり、背後でガギィン!!と凄まじい音がした。
「ほう?」
後ろから聞こえる聞き覚えのない声に、今振り抜いた黒剣をそのまま回して後ろを斬る。
しかしその時に既にその魔族はいない。
「速──」
いや違う。音すらない。降り立った時の着地音、加速時の風を切る音、衣擦れの音。そういったものすらない。
ならば。
「瞬間移動!?」
「流石、《勇者》と言われるだけのことはある」
渋い男の声。場所は俺の上。
見あげようと首を動かすが、しかし何故かピタリと止まる。動かない。
「ッ!?」
動かないというより、これは固定されているのだと、頭を押さえつけられているのだと気づいた時にはもう遅い。
「ふん!!」
上から、逆手に握られたナイフが俺の首に突き立てられた。
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