大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

夢と親

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久しぶりに変な夢を見た。
今日は何故か長閑のどか…ってほどじゃないけど、まぁそれなりに平穏そうな原っぱ。
どこかそれなりに小高い丘にいるらしく、青い草がずっと下まで広がっている。
そんな中、丘の上にある大きな木の下、そこに俺と金色の彼女が寄りかかっている。
年の頃は…八歳程だろうか。少なくとも十より上ではあるまい。そんな彼女が目を開き、俺を見返す。
まぶたの下にあった瞳は、空のように澄んだ青で──いや、少し違ったか。いや、彼女の目の色が青くない…という訳ではなく。
──空が赤いのだ。
夕焼けのような優しい朱ではなく、毒々しいまでの、ただひたすらに赤い絵の具をぶちまけたかのような。長閑と言うにはかけ離れた色の空は、涙は涙でも、血の涙を流したような色で。
そう思っていると、急に視界が傾く。
どうやら、俺が首を傾げたらしい。
『どうしたの?』
俺の口が勝手に動く。
『しんじゃった』
彼女がそう返す。
『誰が?』
そう聞くと。
『うーんと』
彼女は。
『へんなんだけど』
こう返す。
『わたしが』
淡々と返すその目は、俺が知る目の色であって、俺が知る物じゃなくて──。
ぶつんっ。
…………。
………。
……。
目が、覚めた。
…最後にこの手の夢を見たのはいつだっけ?少し前まではここまで明確じゃなかった気がするんだがなぁ…。
上半身を起こし、頭を少しでも働かせようとする。眠気を飛ばさないとどうしても頭が働かんからな。
「…くぁ」
あくびをしながら窓の外に視線をやると、まだ日が昇る前らしい。もっとも、この暗さは恐らく夜明け前。十分もしないうちに日が昇るのだろうが。
「………ぅんゅ」
俺が身体を起こしたことで、しがみついていたシエルが起きかけるが…流石にまだ起きないか。
そういや、彼女を助け出した時も夢を見たっけ…。
夏真っ盛り、暑い暑い夜でも彼女は俺にくっついて寝るのを止めない。これは無意識に母親を逃がすまいとしているのだろうか。
…少し酷な話だが、彼女の母親はもういない。
俺の親もいない。それが寂しいとは思わないし、思えない。知らないのだから。
だから、知っている彼女を羨ましく思うと共に、少しでもその穴を埋められるならそれでいいか、とも思う。
額にかいている汗を手で拭ってやり、頭を軽く撫でる。
『…今代の、起きたのか』
よぉシャル。今日は早いな。
『まぁ、目が覚めたからな。…ところで、お前知らなかったのか?』
あ?何が?
『《勇者》に親はいない。強いて言うなら世界から生まれるんだよ』
…は?どういう事よ?
『どういう事って…文字通りだ。世界がそこに《在れ》と望んだ結果、そこに《勇者》が存在するんだ。だからお前に親はいないし、兄弟もいない』
ふぅん。
『へぇ、驚かないのな』
まぁ、それで何となく腑に落ちたし、仮に親がいた所で捨てたようなやからだろ?なら、ナナキに拾って貰えてラッキーだったよ。
ちなみに勇者の子孫とかはいるのか?
『んー…過去に血筋を遺した勇者はいるが、その後どうなったかは知らん。ただ、その子孫は《血界》を受け継げなかったらしいがな』
…へぇ、その話はまた今度、気になったら聞くわ。
「さて」
シエルを起こさないように気をつけてベッドから降りる。
ちょうどその時、細い金糸のような陽の光が窓から部屋に飛び込んで来た。
「今日、聖女サマが来るんだったな」
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