1,634 / 2,021
本編
魔王と魔族
しおりを挟む
魔族がシエルの事を《魔王》と呼んでいた。
その言葉が頭の中を駆け巡り、思わず眉を顰める。
今回の襲撃の目的は研究所と優秀なスキル持ちの選別。そう思っていた。事実、倒した魔族はこちらのヒトを生け捕りにしようとしていたようだった。
それがブラフ?いや、違う。それがメインではないだけ?
シエルの中にあった《魔王》に魔族が気づいた。それの意味。
《魔王》。魔の王。そして魔族の神である《我神》の作った特殊ユニット。
様々なことを考え、確信は持てないものの、ひとつの答えが出た頃、急に頭を引っぱたかれた。
「痛っ」
「何を一人で黙りこくって考え込んでおる。《魔王》とやらに心当たりがあるのかないのか、はっきりせい」
「わかったわかった。とりあえず何度も頭を叩くのを止めろ。縮む」
と言って《臨界点》の手を退け、頭を掻く。
「簡単に言や、《魔王》ってのは恐ろしく強い魔族だ。かなり長い間《魔王》はいなかったんだが、シエルがそれの対象になったんだろ」
あくまで感情の起伏が無いよう、なんともないように話す。
「ふぅむ、そうか。しかし何故シエルなのじゃ?」
「知らん。そういう宿命みたいなものでも背負っちまったんだろ。つーかなんで俺に聞きに来たんだ?他にいくらでも聞く相手はいただろ」
適当に教えても問題ない範囲で《魔王》について教えつつ、話をはぐらかす。
「彼奴の事を詳しく知るのは学校長と研究所の女、そして貴様とその同室の女ぐらいじゃからな。ならば一番聞きやすいのは貴様じゃ」
「お褒めに預かり恐悦至極に存じます」
「その割には嬉しくなさそうじゃの」
「別に嬉しいとは言ってねぇからな。それよかこっちも聞きたいんだが、攫われた奴の中でシエルの他に守られてたやつ居るか?」
そう聞くと、《臨界点》はあっさりと「居らぬよ」と答えた。いや、むしろそれに気づいたから尚更俺に聞きたくなったのか。
ともかく、これでひとつ確定したのは、魔族は明確にシエルを狙って攫ったという事だ。
ならやはり、魔族はシエルが半魔族であり、その内に《魔王》を宿していると知って攫いに来た可能性が高い。
やはり向こう側に情報が漏れている。それもかなり深いところの情報だ。《魔王》という存在について誰がどう知ったかは最早不明だが、少なくともシエルが半魔族であったという事を知っていなければ、先生生徒に守られていた彼女をピンポイントで攫いに来ることは無いだろう。
「…ん?いや…」
そもそもの話だ。
何故シエルは守られていた?
学校長からの話を聞くに、一般生徒の中で一定以上の実力を持つ者は半強制的に今回の戦闘に参加してもらったらしい。その結果、優秀な生徒を相当数喪った訳だが、そうでもしなければ凌ぎきれなかった。
そんな窮地に陥ってもなお、シエルを前線に出さなかったのは何故だ?
シエルの戦闘能力は下手をすれば二つ名持ち達を簡単に倒せる。当然、魔族相手でも十分通用する。
半魔族だから離反するのを懸念した?いや、その可能性も無くはないし、実際その通りになっているのだが、シエルがここを離れる理由が分からない。
「《臨界点》、本当にアイツは自分の意思で向こうに行ったのか?」
「あぁ。そうじゃとも。何を話していたか全部は聞こえんかったが、魔族が膝をついて『魔王云々』と言っておったのと、それに対して『分かった行く』と言っておったのは聞こえたのう」
「で、お前はそれをそのまま見送ったと」
「根に持つのぅ、貴様」
「当たり前だクソ」
なら魔族の狙いは《魔王》の奪還?そのついでにスキル集めか?しかし、シエルが何故自分から向こうに行ったかが分からない。
向こうがやりそうなことと言えば──《魔王》の羽化か。ならシエルは《魔王》の誕生を待っていた?いや、むしろ怖がって嫌っていた。それでは利害が一致しない。
クソ、結局よくわからねぇ。なんで出てったんだ。
丁度一年前のことをふと思い出してイラつく。結局はどこぞの女豹の言う通りになってしまったか。
それと同時に、もうひとつの事を思い出し、さらに歯噛みする。やはり潜んでいるのか、裏切り者が。
その言葉が頭の中を駆け巡り、思わず眉を顰める。
今回の襲撃の目的は研究所と優秀なスキル持ちの選別。そう思っていた。事実、倒した魔族はこちらのヒトを生け捕りにしようとしていたようだった。
それがブラフ?いや、違う。それがメインではないだけ?
シエルの中にあった《魔王》に魔族が気づいた。それの意味。
《魔王》。魔の王。そして魔族の神である《我神》の作った特殊ユニット。
様々なことを考え、確信は持てないものの、ひとつの答えが出た頃、急に頭を引っぱたかれた。
「痛っ」
「何を一人で黙りこくって考え込んでおる。《魔王》とやらに心当たりがあるのかないのか、はっきりせい」
「わかったわかった。とりあえず何度も頭を叩くのを止めろ。縮む」
と言って《臨界点》の手を退け、頭を掻く。
「簡単に言や、《魔王》ってのは恐ろしく強い魔族だ。かなり長い間《魔王》はいなかったんだが、シエルがそれの対象になったんだろ」
あくまで感情の起伏が無いよう、なんともないように話す。
「ふぅむ、そうか。しかし何故シエルなのじゃ?」
「知らん。そういう宿命みたいなものでも背負っちまったんだろ。つーかなんで俺に聞きに来たんだ?他にいくらでも聞く相手はいただろ」
適当に教えても問題ない範囲で《魔王》について教えつつ、話をはぐらかす。
「彼奴の事を詳しく知るのは学校長と研究所の女、そして貴様とその同室の女ぐらいじゃからな。ならば一番聞きやすいのは貴様じゃ」
「お褒めに預かり恐悦至極に存じます」
「その割には嬉しくなさそうじゃの」
「別に嬉しいとは言ってねぇからな。それよかこっちも聞きたいんだが、攫われた奴の中でシエルの他に守られてたやつ居るか?」
そう聞くと、《臨界点》はあっさりと「居らぬよ」と答えた。いや、むしろそれに気づいたから尚更俺に聞きたくなったのか。
ともかく、これでひとつ確定したのは、魔族は明確にシエルを狙って攫ったという事だ。
ならやはり、魔族はシエルが半魔族であり、その内に《魔王》を宿していると知って攫いに来た可能性が高い。
やはり向こう側に情報が漏れている。それもかなり深いところの情報だ。《魔王》という存在について誰がどう知ったかは最早不明だが、少なくともシエルが半魔族であったという事を知っていなければ、先生生徒に守られていた彼女をピンポイントで攫いに来ることは無いだろう。
「…ん?いや…」
そもそもの話だ。
何故シエルは守られていた?
学校長からの話を聞くに、一般生徒の中で一定以上の実力を持つ者は半強制的に今回の戦闘に参加してもらったらしい。その結果、優秀な生徒を相当数喪った訳だが、そうでもしなければ凌ぎきれなかった。
そんな窮地に陥ってもなお、シエルを前線に出さなかったのは何故だ?
シエルの戦闘能力は下手をすれば二つ名持ち達を簡単に倒せる。当然、魔族相手でも十分通用する。
半魔族だから離反するのを懸念した?いや、その可能性も無くはないし、実際その通りになっているのだが、シエルがここを離れる理由が分からない。
「《臨界点》、本当にアイツは自分の意思で向こうに行ったのか?」
「あぁ。そうじゃとも。何を話していたか全部は聞こえんかったが、魔族が膝をついて『魔王云々』と言っておったのと、それに対して『分かった行く』と言っておったのは聞こえたのう」
「で、お前はそれをそのまま見送ったと」
「根に持つのぅ、貴様」
「当たり前だクソ」
なら魔族の狙いは《魔王》の奪還?そのついでにスキル集めか?しかし、シエルが何故自分から向こうに行ったかが分からない。
向こうがやりそうなことと言えば──《魔王》の羽化か。ならシエルは《魔王》の誕生を待っていた?いや、むしろ怖がって嫌っていた。それでは利害が一致しない。
クソ、結局よくわからねぇ。なんで出てったんだ。
丁度一年前のことをふと思い出してイラつく。結局はどこぞの女豹の言う通りになってしまったか。
それと同時に、もうひとつの事を思い出し、さらに歯噛みする。やはり潜んでいるのか、裏切り者が。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
233
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる