1,995 / 2,021
外伝
死への感情
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いつかは人は死ぬものだ。
ましてや軍に所属していた者同士、どちらもいつ死んでもおかしくなかったし、どちらも死に目を見られず、死に様さえ知ることが出来ずに死ぬ。
そのつもりでいたし、それが多少、惜しいとは思うものの、悲しいと思う感情は比較的薄く、ましてや怒りや恨みなどは湧くまい。
彼女はそう思っていたし、亡霊達もそう思っていた。
事実、彼女はそう感じていたのだ。
あぁ、死んだのか、と。
それも、彼は軍人らしく戦って死んだのだろう。
そう、思いたかった。
いや、恐らくはそれは間違いではなかったのだろう。
だと言うのに、現実は非情だった。
その死に様を、これ以上無い形で。
歪められた。
「あ…え?なん…?」
「──彼の者の事だな?彼の者は、素晴らしくよく戦っていた。その功績に我は非常に心揺さぶられた。そして、褒美を与える事としたのだ」
魔族は饒舌に喋る。
「貴様達ヒトは、余りにも脆い。余りにも儚い。余りにも弱い。たとえそれが、どれだけ素晴らしい輝きを放ったとしても、寿命という枷がある。故に我は、彼の者を拘束する、死という枷を外したのだ」
しかし──。
魔族はまだ続ける。
彼女は俯いており、その表情は良く見えない。
「残念ながら、そうなったヒトはヒトの象徴たるスキルを失うのだ。我はそれが惜しかった。ジグソーパズルという物を知っているか?そのピースが、たった一つだけ欠けた未完成品を想像してみるがいい。それがいかに美しいものであっても、その瑕疵は美しいが故に許せなくなる。むしろ、その完成が見えるからこそ、醜悪にすら見える──今まではそうであった」
よく見れば、彼は興奮しているようだった。
あるいは。
とっくの昔に狂っていたのかもしれない。
彼女は下を向きながら、そう思った。
「だが、その欠けたピースを補う魔法を、我は編み上げた。名前はまだ無いのだがな。この魔法を使えば、魔族であってもヒト種からスキルを奪い、我が物に出来る。そう」
──これで完成だ。
「──だが、彼の者のスキルを本人が使えないというのは誤算だったがな。しかし、これもまた一興」
たとえ、歪だとしても。
これで完成したと言うジェルジネン。
「いや、違うな。魔族」
俯いたまま、彼女はそれを否定する。
「死んだ者はその時点で完成品だ。たとえそれがどれだけ不格好だったとしても、どれだけ稚拙とも。ジェルジネン、お前がしているのは完全に完成しきった作品に、『自分ならこうする』という部外者の蛇足を延々と書き足し続ける行為だ。俺なんかが死について口にするのは烏滸がましいだろうということは百も承知だ。だが──」
顔を上げた彼女の、そこにあった表情は、アベルや亡霊達でも、それを向けられた魔族にも表現しようの無い程の激情。
「今回に限っては、ただの一個人として言わせてもらう。お前のしていることは、死者への冒涜であり、俺の復讐の対象だ。魔族とヒト種だからという理由ではなく、お前と俺だからという理由で──」
おそらく、人という存在が生まれた中で、最も激しい感情に身を焦がした少女が、人という存在が生まれた中でもっとも多用された言葉をもって宣言する。
──殺す。
ましてや軍に所属していた者同士、どちらもいつ死んでもおかしくなかったし、どちらも死に目を見られず、死に様さえ知ることが出来ずに死ぬ。
そのつもりでいたし、それが多少、惜しいとは思うものの、悲しいと思う感情は比較的薄く、ましてや怒りや恨みなどは湧くまい。
彼女はそう思っていたし、亡霊達もそう思っていた。
事実、彼女はそう感じていたのだ。
あぁ、死んだのか、と。
それも、彼は軍人らしく戦って死んだのだろう。
そう、思いたかった。
いや、恐らくはそれは間違いではなかったのだろう。
だと言うのに、現実は非情だった。
その死に様を、これ以上無い形で。
歪められた。
「あ…え?なん…?」
「──彼の者の事だな?彼の者は、素晴らしくよく戦っていた。その功績に我は非常に心揺さぶられた。そして、褒美を与える事としたのだ」
魔族は饒舌に喋る。
「貴様達ヒトは、余りにも脆い。余りにも儚い。余りにも弱い。たとえそれが、どれだけ素晴らしい輝きを放ったとしても、寿命という枷がある。故に我は、彼の者を拘束する、死という枷を外したのだ」
しかし──。
魔族はまだ続ける。
彼女は俯いており、その表情は良く見えない。
「残念ながら、そうなったヒトはヒトの象徴たるスキルを失うのだ。我はそれが惜しかった。ジグソーパズルという物を知っているか?そのピースが、たった一つだけ欠けた未完成品を想像してみるがいい。それがいかに美しいものであっても、その瑕疵は美しいが故に許せなくなる。むしろ、その完成が見えるからこそ、醜悪にすら見える──今まではそうであった」
よく見れば、彼は興奮しているようだった。
あるいは。
とっくの昔に狂っていたのかもしれない。
彼女は下を向きながら、そう思った。
「だが、その欠けたピースを補う魔法を、我は編み上げた。名前はまだ無いのだがな。この魔法を使えば、魔族であってもヒト種からスキルを奪い、我が物に出来る。そう」
──これで完成だ。
「──だが、彼の者のスキルを本人が使えないというのは誤算だったがな。しかし、これもまた一興」
たとえ、歪だとしても。
これで完成したと言うジェルジネン。
「いや、違うな。魔族」
俯いたまま、彼女はそれを否定する。
「死んだ者はその時点で完成品だ。たとえそれがどれだけ不格好だったとしても、どれだけ稚拙とも。ジェルジネン、お前がしているのは完全に完成しきった作品に、『自分ならこうする』という部外者の蛇足を延々と書き足し続ける行為だ。俺なんかが死について口にするのは烏滸がましいだろうということは百も承知だ。だが──」
顔を上げた彼女の、そこにあった表情は、アベルや亡霊達でも、それを向けられた魔族にも表現しようの無い程の激情。
「今回に限っては、ただの一個人として言わせてもらう。お前のしていることは、死者への冒涜であり、俺の復讐の対象だ。魔族とヒト種だからという理由ではなく、お前と俺だからという理由で──」
おそらく、人という存在が生まれた中で、最も激しい感情に身を焦がした少女が、人という存在が生まれた中でもっとも多用された言葉をもって宣言する。
──殺す。
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