大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,804 / 2,021
本編

敵と視界

しおりを挟む
炸裂した魔法は恐らく炎系統と土系統。
互いにぶつかり合い、潰し合い、噛み合う。
破砕音と共に燃えた土砂が飛び散る。
炎の光と土砂の煙。初手としては完璧すぎる入り。
緋眼をギラつかせ、周囲の確認。
煙で少しわかりにくいが、やはり人数は九人か。
俺と《勇者》は突入すると同時に二手に分かれ、互いに別の二人組に突撃する。
理由は単純。この場に西学がいる可能性はあるが、証拠はなく、確定ではない。
ならば、全員敵であると仮定して動くべき。
先に数の少ない方から各個殲滅して、次に五人組の方を潰す方が楽。
二対一程度であれば、戦闘のみを考えられた《勇者》の力で即座に殺せる。
銀剣を抜き、土煙を裂いて死角から飛び掛る。
視覚に捉えたのは──黒い髪に黒い肌、青い瞳の大柄な女。
魔族ではない?どうしてこんな所に?敵?味方?分からない。だが《勇者》としての感覚と、隣にいた男に目を移した瞬間、その迷いは削ぎ落とされた。
髪、肌、瞳、その全てが白い、長身痩躯の優男。
見間違えるはずもない。一年半前にゼランバで一悶着あった時の首謀者。半魔族の神父。
そいつがピタリと俺を見つめていた。
「おや」
「ディエルト──ッッ!!」『マクスウェル!!』
くん、と銀剣の起動を変更。ディエルトの首に狙いを合わせて振り抜く。
が、ディエルトはそれをひょいと回避。ニヤニヤとした笑いを顔に張りつけたまま、さらに続く連撃を、ひょいひょいひょいと避け続ける。
「ふむ?おかしいですね。私は君に名乗ったことは無いはずですが……」
「言ってろ!!」
再度会ってみて分かる。巧妙に隠して、限りなくヒトである事を上手く装っているが、よくよく探ると、その性質は限りなく魔族に近い。
俺もそれに一度は騙され、腕を持っていかれた。
あの時の決着を今──
『後ろッ!!』
シャルの警告で頭が冷え、遅れて背後の殺気に気づく。
「ッッ!!」
真横に飛び退くと、先程の黒髪の女が、細身の剣を二振り、俺のいた場所に振るっていた。
『あれも半魔か!』
シャルがそう言い、俺も本能的にそれを確信する。
ディエルトよりは魔族の臭いが薄いが、その分鍛えたのだろうか。相当強いというのが分かる。聖学の《勇者》ことウィルと同レベル、あるいはそれ以上と言ったところか。
倒すならこの女から先に……いや、ディエルトがいることも考えると一度《勇者》と合流して──
そう考えた瞬間、「ぐあっ!」と声を上げて何かがこちらへ一直線に吹っ飛んでくる。
「なっ!?」
それを視認し、何であるかを確認して辛うじて受け止めるが、それが飛んでくる勢いと俺の支える力が絶対的に釣り合わない。
堪らず俺もぶっ飛ばされ、髪でギリギリ耐える。これ中のアーネ大丈夫か…?
「大丈夫か!?」
という俺の言葉に、即座に跳ね起きることで答えるのは《勇者》。
ぺっ、と血を吐き捨て、口元を軽く拭って口を開く。
「……クソ、当たり引いた。そっちは……あ?」
《勇者》が俺の斬りかかった相手を見、一瞬惚けたような顔になる。
「なるほど、あれが半魔族か……信じられんが、いるんだな」
そう言ったタイミングで、丁度砂埃が落ち着き、視界が確保される。
二人組Aは半魔族。
二人組Bは魔族。
そして五人組は──西学。それも全員見た顔だ。
《白虎》、《鰐》、そして《白鼠》が三人。
魔族の側には案の定《腐死者》のジェルジネンと、もう一人誰かがいるが、白いローブを被っていて、顔まではよく分からない。
その背後。二人が守るようにして立っているのは……大きな花の蕾、だろうか。しかし、それの表面には斜めに一本、定規で引いたような真っ直ぐな直線が引かれている。
そのさらに後ろの壁にまで及んでいるそれは、巨大な大剣のようなもので花を切り落とそうとして、失敗したのだとすぐに気づいた。
そこまで確認した瞬間、《腐死者》が杖で一度床を強く叩き、一言呟く。
「死ね」
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,522pt お気に入り:1,653

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:204,234pt お気に入り:12,098

継母の心得

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:66,996pt お気に入り:23,305

食いしんぼうエルフ姫と巡る、日本一周ほのぼの旅!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:223

おっさん探訪記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:235pt お気に入り:1

かっぱかっぱらった

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:207pt お気に入り:0

処理中です...