大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

交戦と混戦5

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ふわりふわりと浮いている、拳大の球のような物が現れた瞬間、怒涛の勢いで頭が回る。
《腐死者》の攻撃。正体不明。しかし詠唱あり。
危険。
回避、防御、破壊。どれを選択するか一瞬だけ迷い、直前のシャルの言葉を思い出す。
『上ッ!!』
「上ッ!?」
上!?本来なら絶対有り得ない回避先だが、ええいままよと真上に跳躍。
直後、球体に薄い線が一直線に入り、ピッ──と裂けるような音がした。
「!?」
次の瞬間、球の中から大量の死骸が腐臭を放ちながら放たれる。
それはさながら堰き止めた水を一気に流した川のようであり、もしもあれを割ったり防御しようものなら、確実に質量で潰されていただろう。
周りを確認すると、《勇者》は俺同様真上に跳んで回避。女半魔は──なんだあれ、まさか《デッド・スパイラル》を切り裂いたのだろうか。障壁でもあるかのように、死体が一定距離以内に入っていない。
流石に後方まではチェックしきれないが、それでもとアーネの方を振り返ると、西学の方には《デッド・スパイラル》は飛んでいないらしい。飛ばす価値もないという事だろうか。
『中に大量の死体を突っ込んだ球を放り投げるだけの、単純な魔法だ。俺らにとって効果はてきめんだがな』
《腐死者》と過去に戦ったことのある《亡霊》だからこそ、蓄積されてきた知識がある。
それが無ければこんな相手にそうそう立ち向かえない。
──待て、単純な魔法?
その単純な魔法に詠唱を要するのか?
三大魔侯と呼ばれる大魔族が?
詠唱と発動が別。さっきの《デッド・スパイラル》は無詠唱で発動し、今から詠唱していた魔法が放たれる。
そう気づいた瞬間にそれは放たれた。
「《ザ・デス》」
それは恐らく魔術なのだろう。
《デッド・スパイラル》によって辺り一面にぶちまけられた大量の死体。
あれはヒトだ。あれは犬だ。あれは獅子だ。あれは鳥だ。あれは蛇だ。あれは鼠だ。あれは兎だ。あれは牛だ。あれは猿だ。あれは、あれは、あれは──
あれは、死だ。
それが一気に束ねられ。寄り集まり、ひとつの形を成していく。
押しつぶされ、骨が折れる。肉が潰れる。血が垂れる。
引き伸ばされ、腕が取れる。毛が切れる。神経が出る。
体感一分。だがきっと、それが出来上がるまでに掛かった時間はほんの数秒だったろう。
出来上がったのは巨大な髑髏。
恐らく最上階であろう階には、他の階とは違い、天井が非常に高い。
それはきっと、時期に花を開こうとする巨大な蕾のためだろう。
だが、ともすれば、こいつを呼び出すためだったのかもしれない。そう思える程強大なバケモノ。
ヒトの上半身だけだと言うのに、そのサイズは軽く十メートルはあるだろう。
肋の間には赤黒い血肉の塊。その奥には魔力がこれでもかと詰め込まれており、生きているなら心臓と言い換えてもよかったろう。
身体を覆う、ローブのようにはためくそれは、ヒトや動物の皮や毛を手当たり次第に混ぜて縫った代物。
手に持つそれは、そいつ自身の背丈よりも大きな大鎌。骨を薄く研いで刃と成し、死骸を塗り固めて作られた持ち手は歪に膨らんでいる。
二つ空いた眼窩に揺らめくのは、たった一つの暗い青の炎。それが俺達を睥睨した。
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