大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

泥闇と門

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深い深い、闇で出来た底なし沼のような空間をゆっくりと沈んでいく。
──どこだここ?
そう呟こうとして、声が出ないことに気づいた。
口は動くが音は出ず、シャルを呼んでも返事はない。腰元にマキナはおらず、そもそも服すら着ていない。
上を見上げると微かな光。あっちへ向かって泳げば戻れるだろうが、今は浮かび上がる気もない。
なんとなく、今は下へ行かなくては、と思ったからだ。
しかし自力で下には行けないようなので、このままゆっくりゆっくりと沈んでいく間に思考を固める。
確かあのギガースと戦って、特大サイズの《血刃》を技術じゃなく、血の量で補いながら撃って………で、アーネがギガースを爆破した後、多分倒れたんだな。
その後は…ダメだ、記憶がない。
気絶したんだろうとは想像がつくが、あれだけの怪我をアーネは治せる程魔力を残っているだろうか。
…アーネがあんな事言うなんてなぁ…。
まさかアイツ、俺の怪我治すのがそんなに嫌だとは思ってなかった。いや、確かによく大怪我をするとは思うが…。
まぁ、次から気をつけるとしよう。
──ん?
泥闇の中、俺の足下の方に門がある。
やたらと凝った意匠の紋が葉脈のように彫り込まれているその所まで降り、そこで俺の下降は止まり、足元に門を見下ろしながら浮遊している。
──開けりゃ…いいのか?
髪で門の扉を思いっきり引いてみるが、どうも開かない。
少し考え、門を触っていると、ちょっとした拍子に門が動いた。
なんだ、押さなきゃ開かなかっただけか。
門は簡単に開き、拳一つ分ほど開いた所で、俺の知らない単語がいくつも飛び込んできた。
──なんだ、これ。
それと同時に流れ込んでくるのは、古い勇者達の記憶。
彼、あるいは彼女が殺しているのは、黒い肌と赤い目、白い髪をした魔族
ヒトに似、しかしヒトたりえないモノ達──異様に耳の長いモノ、ずんぐりとした体格のモノ、下半身が鱗に覆われたモノ、顔がトカゲのようなモノ──その他どこかヒトに似ているが、決定的に違うイキモノが、誰とも知らない《勇者》に殺されていく。
あるものは首を裂かれ、あるものは額を貫かれ、あるものは身体を寸刻みにされ、あるものは槍で頭から股まで繋げられ、あるものはまとめて《血刃》らしき血界で輪切りにされた。
──!?
思わず手を離すと、そこで記憶も途切れる。
何かヤバい。
何がヤバいかは分からないが、本能的な物が俺に危険を全力で伝えつつ、それが必要である事も伝えていた。
──もう少し、開けるか?
そう逡巡し、手を伸ばした所で身体がぐいっ!と引っ張られる感覚。
──時間切れか。
俺の身体は降りる時の何倍もの速度で上の光へと向かって急浮上を始め、意識が戻る。
目が開いた時、俺が見た物はいつもと同じ天井ではなく、心配そうに俺を覗き込むアーネだった。
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