大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

魔獣とスキル

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      「「オオオオオオオオオオオオオ!!」」
『『『『『オオオオオオオオオオオオオ!!』』』』』
俺達が吼え、魔獣達が負けじと咆哮をあげる。
そしてその音に反応して、遠くの魔獣も寄せ集められ、また俺達が吼える。
質が上がった。
何の質か?答えるまでもないと思うが一応答えよう。
魔獣達の個体としての質が、だ。
『今代の!後ろだ!』
シャルの言葉に反応して振り返ると、風を切りながら猛然と近づいてくる巨大な牙。象のような魔獣がその牙で俺を突き殺そうとしてきた。
「ッチィ!!」
見るだけでわかる程頑強そうなそれを切断するのは難しいだろう。
ギリギリ受け流せるか──!?
「勇者…あんまり気を抜くなよ?」
キン、と軽い音がした。
ヤツキが振るった黒の長剣が魔獣の牙に触れただけで容易くその牙を切断。そのまま長い鼻を切り飛ばす。
「貸しイチな」
「じゃあ」
ビッ!!と手首のスナップを最大限に活かして黒剣を投擲。象の魔獣の額を貫き、さらに念のため俺がそこへ飛び蹴り。象の魔獣は頭部が割れ、そのままどう、と横に倒れる。
「これで返したな」
「お見事」
黒剣を引き抜き、そのまま下から上へと切り上げると暗闇がずるり、と落ちる。
正体は擬態が異常に上手い犬。その頭だ。
全く、見えないタイプの魔獣というのは本当に厄介だ。緋眼が無ければ見えなかっただろう。
なのに──
「──ふっ!」
ヤツキが無造作に黒の長剣を横に薙ぐと、同じような犬の上顎が二つほど宙に舞う。
「やっぱりいたか」
「…なんで分かるんだよ」
ぞわっ、とうなじのあたりがざわついた。
即座にその場からバックステップで回避、一秒遅れて俺がいた場所を追いかけるように連続して細長い針のようなものが突き立っていく。
「あぁ、別にそこまで不思議な事ではない。私のスキルだ」
ヤツキは巨大な鬼の魔獣のトゲ付きの棍棒をひょいひょいと避けつつ、俺に返してくる。
「万物にはどんなモノでも必ず綻びがある。それは概念的なものであっても例外はなくてな」
「馬鹿でもっ!分かるように言ってく、れ!!」
バックステップで下がった勢いのまま、大木の幹に両足をつけて膝を強く折り曲げる。
半瞬の溜めチャージの後に思いっきり幹を蹴り、身体が弾丸じみた速度で射出される。
目標はもちろん針を飛ばしてくるハリネズミもどきの魔獣──!!
「あらゆるものの弱点が見えるスキル、と言えばわかるか?」
「つまり何だ?魔獣を一撃で仕留めることが出来るポイントが分かるってのか?」
「それで五十点だ」
ハリネズミもどきを斬り伏せ、顔を上げればヤツキがまだ鬼と戦っているのが見えた。
「たとえばだな──」
鬼が棍棒を真上から全力で振り下ろす。
ヤツキはそれに対して大きく離れる訳でもなく防御をする訳でもなく──ただ半身をずらしただけ。
直後、棍棒が振り降ろされた。
「ヤツキ!!」
「やかましい」
思わず叫んだところで冷静なヤツキの声が返ってきた。
土煙が晴れ、魔獣の攻撃を避けつつそちらをよく見ると──ヤツキは棍棒のトゲとトゲの間、そこにひっそりと立っていた。
「こう言った芸当も出来るし──こう言ったことも出来る」
ずっ──と。
明らかに硬そうな棍棒に、抵抗もなくヤツキの長剣が刺さる。
次の瞬間、棍棒が『爆散』した。
「壊れやすい場所と言うか…脆い場所…まぁ、そう言ったところが見えるんだよ。これが私のスキルだ」
なんとも──羨ましいスキルだ。
そんな気持ちが顔にありありと書いてあったのだろう。
「やらんぞ」
そう言われた。
「いらんから一匹でも多く魔獣狩るの手伝え」
思わずそう返すと、ヤツキがゆっくりと口角を上げる。
「もうやってる」
見ればヤツキの持っている黒の長剣は鬼の首に深々と刺さっている。
「さぁ、次だ」
そう言うヤツキはどこか楽しそうにすら見えた。
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