大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

眼と名前

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「ん?」
ヤツキにそう言われるが、俺は緋眼を使っているつもりは一切ない。
「無意識に緋眼を使っているのか?まぁ、そういう修練方法は無くはないし、実際私も昔はやっていたが…」
「使いっぱなしだと何か問題はあるのか?」
「別に無いな。強いて言うなら慣れるまで時間がかかるだろうと言うことと、お前の場合は元の目が黒いから目立つだろうと言うことぐらいだな」
「慣れるまで時間が…ねぇ」
そんな事は今の所一切ないのだが。
むしろ発動しているとヤツキに指摘されるまで気づいていなかった程だ。なるほど、言われれば目から入ってくる情報は増えている。
『大丈夫か?頭痛とか目眩はしないか?目の奥が痛むような感覚は?』
大丈夫だよ。至って普通だ。むしろ拗らしてた熱の方がキツかったぐらいだ。
「…どうかしたのか?」
「いや、何でもない。気にしなくていい」
「…そうか?まぁ、緋眼が使えないよりは使える方がいいからな」
…俺、緋眼は無意識に発動してたから解除方法知らねぇんだよな…治るまで放置だな、こりゃ。
「花火はいつ頃上がるんだ?」
「さぁ。今何時頃だっけ?」
『十時・三十二分です』
マキナが正確な時間を素早く伝える。
「ならもう暫くしたらじゃないか?流石に日付が変わる頃にやる訳じゃないだろうし」
「…随分と適当だな」
ヤツキが呆れつつそう言う。
「仕方ないだろう?そんなモン見る気無かったんだし。というか見れる気がしなかった、か」
「花火なんて中々見れるものじゃないだろう?なんで興味がなかったんだ?少し聞いたが、夏の休みはアーネの所にいたんだろう?そこなら充分見れるはずだが」
「そもそも最初からこっちに来るつもりだったんだよ。まさかこっちで見れるとは思ってもなかった」
俺の答えにヤツキがふぅん、と興味がなさそうに返す。
そして沈黙。
まぁ、会ったばかりの俺達の間に話すような話題もないし。
しかしまぁ、よく知った相手との沈黙は心地いいが、ヤツキとの沈黙は何となく…居心地が悪い。
ナナキはよく喋ったからな。むしろ静かな時のナナキは切れる寸前だったりするから喋っていた方が安心する。
「お前は──」
と、ヤツキが再び口を開く。花火が上がる様子はまだない。
「私の生前の名前を知っているのか?」
「あ?いや。知らないな」
「知ろうとは思わないのか?」
こちらを覗き込むように見るヤツキ。その視線はどことなく不安げに見える。
「……実は、お前の前任者のナナキ、彼女の記憶はごっそり受け継いでいる。この森での記憶も生前の記憶も、両方だ」
「────」
ヤツキの顔がこわばる。流石にこの答えは予想していなかったのだろう。
「けどほとんど見てない。必要最低限だけだ」
「…それはまた…何故だ?」
こわばらせた顔のまま、ヤツキが聞いてくる。
「記憶は譲ってもらったが、だからと言って無闇矢鱈と見ていいものじゃないだろう。俺だって自分の記憶を勝手に見られるのは嫌だからな」
「…理由はそれだけか?」
「あぁもちろん」
貰ってからしばらくは過去の《勇者》が使う血界を見たりしていたが、それも最近はしていない。《勇者》事に血界に差がありすぎるから参考にならないことも多いって言うのも分かってきたしな。
「そうか…」
そう言って姿勢を戻すヤツキ。しかし顔はこわばったままだ。
「…ヤツキ?」
「シャルレーゼだ」
唐突に彼女がそう言う。
「シャルレーゼ・ハーケン。それが私の名前だ。多分、お前にはこう言った方が通じるか?だ」
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