大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

身体と亡霊

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さてさて。ここらで一度、少しだけ自分の身体のことを確認してみよう。
左の胸に空けられた穴、そっちは表面上塞がってはいる。一応。中身はかなりズタボロだが、三日寝ていれば先生がどうにかしてくれるんだろう。多分。
それに、今問題なのは右手の方。左胸の穴?あぁ、心脈の度にキシキシと微かに痛むがなにか?心臓のすぐ真横に穴があいてたんだ、当たり前っちゃ当たり前だわな。
右手にグルグルに巻かれた包帯。その下には薬を塗りこまれた湿布。真新しく貼り直された湿布と包帯を眺め、小さく溜息をつく。
僅かに握り、開くだけで痛む手。どうやら今朝の乱闘騒ぎで、手の骨がまた変にズレたらしい。左手と並べ、比べてみると指が少しガクガクになっている。俺の手、どんな砕け方をしたらここまで酷い事になるんだ?
『んー、見た感じ、中手骨が一番ダメージデカいな。割と指先の方は…それでも指一本の一関節につき一箇所は折れてんな。どんな勢いで殴った、お前』
シャル、中手骨って何だ。というかいつからいた。
『ついさっき。手の指から手首の間の長い五本の骨だ。中指とかでデコピンする時、手の甲に浮かび上がる骨があるだろ?アレ』
なるほど。確認のためにデコピンしようとしたら右手が笑えないぐらい痛かった。
『阿呆』
てかお前、見えてるのか?骨が。
俺はスキルで分かるが、お前は俺と感覚を共有してる訳じゃないだろ。
『あぁ、見えるぞ?血管も細過ぎるのは見えないが、大まかなやつは見える。至近距離ならな』
全く、どんな目をしているんだか。そういや、《亡霊》になってもスキルは残ってんのか?
『あ?知らん。俺のは特にモノがあってこそ生きるスキルだったしな。肉体が無い上にモノにも触れん今は、正直持っていたところで使い道があるとも思えんしな』
ふぅん?どれ……と、その前に先にシャルから閉じて…これでいいか?
ベッドに寝転び、目を閉じて集中する。久しぶりのこの感覚だが、不思議と違和感や不快感はない。死に際でもナナキは完璧な仕事をしたらしい。流石だな。
『殺すな。死んでるけど。てか何してる』
おっと、変なことを考えていたら中途半端に心の声が漏れたらしい。
と……あった。これか。
『……てめぇ記憶漁りやがったな?』
スキルの説明ん所だけだよ。
『それ以外見んなよ』
ヤツキから許可取ってるからセーフセーフ。
…………しかしこれまた酷く…なんつーか、ズルくないか?
『並の戦士なら長い長い時間をかけて習得してく技能を当たり前のように使うお前もどうかと思うがな。初めてお前が剣を握った日のことは記憶にないが、一番古い記憶じゃお前、少なくとも十になる前から戦技アーツ使ってたじゃねぇか』
じゃなきゃ生き残れなかったんだよ。だからやった。
『やったで出来る話じゃないんだがな』
五つの時に育ての親を殺すシャルレーゼ様にゃ叶いやせんよ。
『他のも見てるじゃねぇか!!』
「ハハッ」
『笑い事じゃねぇぞクソ!!ああもう、肉体がないのがこんなに歯痒いのは初めてだ!!』
たまにゃこんな日も悪くないな。
たまには、な。
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