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第二話 遠い星から見た地球
私が新しく生まれたのは、マルデアという星。
地球とは異なる文明、異なる文化を持った、魔法という概念を持つ星。
それはもう、異世界と呼ぶべき場所だった。
私の新しい名前は、リナ・マルデリタ。
そう。私は前世と異なる性別を得て、女になっていた。
桃色の髪に、華奢な体。丸い目に丸い顔。
「リナは可愛いねえ。お姫様みたい」
お母さんや周囲の大人たちに、そんな風に言われながら幼少期を過ごした。
スカートを履いたり、髪を伸ばして可愛らしくしたり。
そういうのに戸惑いや恥ずかしさはあったけど、新しい自分として受け入れる事にした。
新しい父と母はとても優しく、私は人と環境に恵まれた。
この星に生まれて一番驚いたのは、やっぱり魔法がある事だ。
魔術に支えられたマルデア文明のレベルは凄い。
電車のかわりに、ワープステーションというのがある。
国内ならどの駅でも一瞬でワープできるのだ。
それにカバンには魔術がかかっていて、どんな大荷物も小さくして軽々運べる。
他にも、あらゆる日用品に至るまで便利な魔術品が溢れていた。
この世界は凄い。私は感激した。
だが、どこか面白味に欠ける部分もあった。
この星にはどうも、ゲームがないらしい。
マルデアは娯楽方面はあまり興味がないのか、家にもそういうものは置いていなかった。
ただ、違う星に来たのだし、それは仕方がない事だ。
前世への色んな未練はあったけど、諦めるしかないと思っていた。
私はいつしか新しい星に慣れ、家族の愛を受けて幸せに暮らすようになっていた。
だが小学院に入った時、衝撃の事実を知る事になる。
「蛮族の星、地球……?」
そう。マルデアの教科書には、地球の事が載っていたのだ。
『地球は遠い銀河の星であり、とても野蛮な文明を持っています。
地球人たちはマルデア星の存在に気づく事もなく、今日も下らない争いを繰り返しているのです』
そんな記述があった。
マルデアはどうやら、地球を見下しているらしい。
まあ、それは仕方がないかもしれない。
マルデアには凄い文明がある。
それに、戦争も二千年以上起きていない。
自然災害は魔術の力で抑え込み、台風や地震の被害者が出る事もない。
そんな星から見たら、地球は遅れた星に見えるのかもしれない。
実際、先生も『地球人は野蛮ですから、私たちマルデア人は地球に関わらない事にしています』と言っていた。
ただ私にとって重要なのは、今世でも地球がちゃんと存在するという事だった。
なら、もしかしたら地球に行けるんじゃないか。
私はそう思った。
なにしろ、私が死んでから随分経ったはずだ。
地球はどんなふうに変わったんだろう。
ゲームはどれだけ進化したんだろう。
それに、母や父は生きているだろうか。
そんな考えが頭をよぎった。
でも地球はまだ、マルデア星の存在を知らないらしい。
なら、こっちから行くしかないんだろうか。
「地球に行く方法? マルデリタさんは変わったことを言うね」
先生に聞いてみると、訝しげな目で見られてしまった。
「先生は、どうすれば行けると思いますか?」
「そうだねえ。地球は遠いから、星間ワープじゃないと行けないだろうね。
星間ワープを扱えるのは、魔法省か首都の魔術研究所だけだ。偉ーい魔術師になれば、行けるかもしれないね」
先生はきっと、私の発言を冗談と受け取ったんだと思う。
私も、漠然とした感覚で質問をしただけだった。
でも、その日から私は真面目に勉強するようになった。
才能に恵まれたのかもしれない。
同時に、この世界には魔法くらいしか面白い事がなかったというのもある。
小学院ではトップの成績になり、魔術の腕もめきめきと成長した。
そして、飛び級で名門の魔術学院に合格したのだ。
あれだけゲームバカだった私が、エリートの道に足を踏み入れたのである。
そして現在。
私は十五歳という若さで魔法省に合格し、魔術師として勤める事になった。
新人ではダメだろうけど、偉くなったら星間ワープを使わせてもらえるかもしれない。
そんな希望を抱きながら勤務を始めた、ある日。
魔法省のオフィスにあるニュースが駆け巡った。
『報告です。マルデア星に地球からの信号がありました。地球からの信号がありました』
「ち、地球!?」
私が驚いていると、すぐに会議が開かれる事になった。
地球からの信号はすぐに解析され、マルデア語に翻訳された。
それまでも、地球は宇宙めがけてデタラメに信号を送りまくっていた。
だが、今回は違った。
明確に、アメリカがうちの星に向けて交渉を望む旨のメッセージを送ってきたのだ。
つまり、地球人がマルデア星の存在に気づいたという事だ。
まさに歴史的瞬間であり、私は体が震えるのを感じた。
だが、会議室に集まった魔術師たちはどうも嬉しそうって言う感じではなかった。
「地球め、野蛮人の分際でわが星と対等に交渉しようというのか」
「いかにも稚拙で矮小な民族の考え方だな。変なウイルスを持ってこられては困る。交渉は拒否だ。無視しろ」
お偉いさんたちは、完全に地球を相手にしていなかった。
それどころか、バイ菌扱いして鬱陶しがっていた。
うん。まあ、そうなると思ったよ。
マルデア人たちの結論は、「地球とは交流すべきではない。無視しよう」
というものだった。
元日本人の私は、地球との交流がしてみたい。
でも、私に国の方針に逆らうような力はなかった。
オフィスに戻ると、局員の一人がまだ部長に報告していた。
「地球からまた交信が来ております。なんとか交流したいと、英語という地球の共通語で書いています」
「ふん、こちらの言語もわからん野蛮人め。いいから無視しろ。地球文明などたかが知れている。取るに足らん」
どうにも、魔法省は完全に地球を黙殺する構えだった。
翌日の朝会でも、地球の事が話題になっていた。
「地球が昨日からずっと交信してきているようだ。あちらには科学力があるのだとか。無視をするなと繰り返している。
それをどう対処するかについて議論したい」
議長がお題を出すと、お偉いさんたちは笑って言った。
「ははは、論外だね。野蛮な連中がこちらに足を踏み入れたら、マルデアの治安が落ちる」
「ええ。調書は読んだけど、未だに国家間で醜い争いをしているそうね。それに災害から民衆を守る事もできないなんて。話にならないわ」
「星の運営もまともにできない連中が、外部の星とまともに交流できるわけがない」
「うむ。うちの星に来る技術もないのなら、相手にすべきではないだろうな」
本部のえらいさん連中は、意見が完全に一致しているようだった。
ただ、一応朝会は誰にでも発言権がある。
ここで言わなければ、チャンスはもうないだろう。
私は意を決して、手を上げた。
「あのー、ちょっといいでしょうか」
「君は、誰だね?」
議長はこちらを見た。普通、こんな場で一局員レベルの自分が手を上げるべきではない。
黙ってえらいさんの話を聞くだけの場なのだ。
「ああ、彼女はリナ・マルデリタ君だ。私の部下になった新人魔術師だよ。で、リナ君。何だね」
部長が私を紹介してくれたので、私は立ちあがって行った。
「は、はい。貴重なお時間を失礼します。
私が思うにですが、地球はそこまで捨てたものじゃないと思うのです。その、結構面白いものもありますし」
私の言葉に、偉いさんたちは不機嫌に眉を寄せる。どう見ても、歓迎モードではない。
「なるほど、君は地球を調査しているのか。しかし、それならわかるだろう。
彼らは愚かな争いを繰り返し、大気や海の汚染は見るに堪えん。
自分たちが住む星の環境を破壊しながら、ひと時の快楽に溺れているのだ。
救い難いとは思わんかね」
「は、はい……。でも、せっかく同じ宇宙に住む人たちなので。
悪い部分は、交流しながら彼らに改善を促せばいいのではないでしょうか」
「ほう。君は我々の意見を覆して、地球と交流せよというのかね」
少し機嫌を損ねたような議長に、私は冷や汗が止まらない。
だが、そこに部長が割って入った。
「いいじゃないか、若い者には意欲があるという事だ。リナ君は面白い事を言う。
だが、やはり地球は野蛮だ。地球人にこのマルデアの地を踏ませるのは、衛生的にもよくないのだ。それはわかるねリナ君?」
「は、はい……」
諭すような部長の目に、私は頷くほかない。
すると部長は場を制するように見回しながら言葉を続けた。
「だから、地球人を連れてくるのは禁止だ。そのかわり、リナ君が個人的にできる範囲の交流なら、許可してもいいのではないかね。
例えば、君が自分で地球と交渉し、自分で地球に行くとか。君がこの星の映像を撮影して、地球に送るとかね。それくらいなら構わない。これでどうだね」
部長がそう言って周囲を見やると、周囲は頷いた。
「うむ、それならいいだろう」
「彼女が勝手にやるのであれば、問題はないな。星間ワープも一つ持て余しているのがある。使っても問題ないだろう」
意外にも、賛同を得られたようで私は驚いた。
「ほ、本当ですか!?」
「うむ。これで決定だな。君に地球との交流の全てを任せる。君を地球親善大使に任命しよう。
星間ワープの使用許可は与える。だが、それ以外の予算や人員は一切無しだ。
地球のために国家予算を使うなどありえん。全部、君一人でやるんだ。それでいいかね?」
「……! あ、ありがとうございます!」
こうして、私はなんとか地球に行く許可を得た。
同時に魔法省本部からは左遷され、完全にエリートの道を踏み外したのである。
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