もう、いいのです。

千 遊雲

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だから、ごめん

2-1

黒い雲が空を覆っていた。

ひび割れた大地を埋め尽くすかのような魔物が、唸り声を上げていた。



「さぁ、死にたい者からおいで」



対峙するのは一人の男。

手に持つのは真っ白な光を放つ、聖剣のみ。

四方を魔物に囲まれてなお、彼は笑みを浮かべていた。

柔らかい印象を与えるタレ目を細め、その笑顔はとても優しかった。

けれど彼から発せられる言葉は、笑顔と裏腹に強張っていた。



「僕は勇者だから」



勇者は自分に言い聞かせるように呟いた。

一度、覚悟を決めるように目を閉じた。

揺れていた勇者の青い瞳が、次に開かれたときには落ち着いたものと変わる。



「だから、世界を救うんだ」



美しい動作で聖剣を抜き放てば、聖なる力によって辺りが照らされる。

キラキラと、聖剣から放たれる光によって、勇者の金色の髪が輝いていた。



「…ごめん」



聖剣を恐れて様子を見ていた魔物たちに、勇者は困ったような顔をしながら告げた。

刹那、聖剣が空を走り、魔物達は切り捨てられた。

一瞬の出来事の後、バタバタと倒れていく魔物の群れの中、勇者は真っ直ぐに一点を見つめていた。

たった一人、勇者と退治する黒き魔王を。

配下の魔物が全て倒された魔王は、けれど焦った様子もなく手を叩いた。



「いやはや、流石は勇者…否いや、流石は聖剣といったところか?」



「そうだね。僕はただ、聖剣に選ばれただけだから」



皮肉も込められた魔王の言葉に、勇者はいっそ清々しいほどの笑みを浮かべて、そう答えた。

ゆったりと会話をしながらも、勇者は聖剣を構える。

爛々と輝きを増す聖剣に、魔王もまた自身の魔力を高めていった。

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