ザラトゥストラ英雄伝説

阿野2マス

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大森林での戦闘

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 ヒューゴたち一行は、ウァサゴが用意した朝食を終えると、まずは隣村グレンナを目指すことにした。
 ノエル村は大陸北東の大森林に囲まれた唯一の村である。
 とは言え、もちろん森林地帯の真ん中にあるわけではなく、地図の上では大森林の西のはずれにポツンとある小さな村である。
 当初は、大森林を西に抜けて最初にあるグレンナ村に住んでいた人々が、森で狩猟や採集を行う際の休憩地点として、山小屋を建てたことが村の始まりであると言われている。
 そういうわけで、ノエルから最も近く昔から交流のあるグレンナ村には、店の仕入れのためにグィードと一緒にヒューゴも何度も行ったことがあった。
 ヒューゴたちが今歩いているのは、昨日ヒューゴが一人で歩いた道であったが、今では聖霊ジンのウァサゴも1人と数えれば、6人組の立派なパーティーであった。
 昨日は1人で少し心細かったのだが、今ではなんと賑やかになったことだと、ヒューゴはしみじみと考えていた。
 そしてヒューゴは、決して信仰深いほうではなかったが、人の出会いの不思議さと喜びを感じ、この世界ザラトゥストラに生きるすべての魂の運命を導くと言われている創造主ル・カインと聖霊に、心の中で感謝の祈りをささげた。
 「宿屋のレーナは元気かなぁ」
 ヒューゴが隣を歩くグィードに声をかけた。
 レーナというのは、ヒューゴたち親子がグレンナ村に滞在する時によく使う宿屋、赤い雀レッドスパロウの娘で、言わばヒューゴの幼馴染であった。
 「そうだなぁ。前に会ったのはたしか、冬前だったか?最近はレーナちゃんもどんどん綺麗になって来たからなぁ。変な虫がついていないか気になるなぁ、ヒューゴ」
 グィードはそう言いながら、ヒューゴに意味ありげな視線を返した。
 「そんなんじゃないって。ただ元気かなぁって、ただそれだけだよ!」
 ヒューゴは耳まで赤くしながら、そう答えた。
 その様子を、後ろに続くウァサゴが興味深げに眺めている。
 「おやおやヒューゴ、思春期というやつですかぁ?」
 その言葉に反応して、ヒューゴがウァサゴをキッと睨みつける。
 その時、パーティーの先頭を歩いていたアルフォンスが、パーティー全員に聞こえるように声をかける。
 「前方に魔物の群れを発見した。あれはゴブリンとコボルト、オークも数体混じっている。全部雑魚だが、油断はするなよ!」
 ヒューゴが見ると、50メートルほど前方に全部で50体はいるかと見える魔物の群れが迫っていた。
 ヒューゴは、不吉なものを感じた。
 昨日、アルフォンスたち3人が遭遇していたゴブリンの群れもそうであったが、本来魔物たちが人里近いこの辺りに、そこまでの群れで現れることはそうそうない。
 もしそんな群れが人間に発見されれば、大規模な討伐体が派遣され、直ちに掃討されてしまうことを、魔物たちも知っていたからだ。
 しかし、最近この辺りでも多くの魔物の群れが目撃されるようになったという噂も聞いていた。
 ヒューゴが実際遭遇したのは、昨日が初めてであったが、やはり大森林で、あるいは大陸アルヴァニア全体で、何か良くないことが起こり始めているのかも知れない。
 ヒューゴは昨夜のグィードの話を思い出しながら、そう考えた。
 400年前に滅ぼされたはずの魔王アルヴァーンが復活しつつあるのかも知れない。
 そもそも数千年前、神話の時代に神々によって封印された魔王アルヴァーンは、なぜ400年前に、突如として復活したのだろうか?何かきっかけはあったのだろうか?
 しかしヒューゴに、ゆっくりと考えている時間はなかった。
 魔物の群れが、目の前に迫っていた。

 戦闘が始まった。
 アルフォンスとグィードは、すでに剣を抜いて構えている。
 「うぉぉぉぉぉりゃー!!」
 まずアルフォンスが前に出て、両腕で大剣クレイモアを振り回す。
 その一振りで、群れの先頭を走って来たゴブリン3体が致命傷を負って、瘴気を拡散させて消滅した。
 グィードは群れの真ん中に飛び込んで、黒い旋風つむじかぜのように魔物たちに死を振りまいていた。
 「風精霊シルフよ!」
 アーシェラが短く呼びかけると、いつものように3体の風精霊シルフが現れ、アーシェラを守るように周囲を囲んだ。
 ヒューゴはそれを見て初めて、この3体の風精霊シルフは、恐らくいつも同じ風精霊シルフであって、つまりアーシェラにとっては、古い友人、あるいは戦友のようなものなのだろうと気づいた。
 「光よ、我が敵を貫け!ライトニング・アロー!」
 ディオゲネスが唱えたライトニング・アローも、もはやヒューゴにとって、お馴染みのものだった。
 恐らく、ディオゲネスの最も得意な攻撃魔法の一つであり、汎用性も高いものなのだろうとヒューゴは考えた。
 わずか昨日一日の戦闘経験が、戦闘中にそんな分析ができるようになるほどまでにヒューゴを成長させていた。
 ヒューゴも落ち着いて長剣ブロードソードを抜き、両手で構える。
 剣がいつもより重いことに気づく。
 昨日ウァサゴが2倍の重さを付与したままなのだ。
 そういえば、革の鎧レザーメイルもいつもより重かったはずだが、これまではあまり気にならなかった。
 振り向いてウァサゴを見ると、美しい口元を歪めて微笑んでいた。
 どうやらそのまま戦えということらしい。
 「わかったよ、やればいいんだろう?」
 そう言うと同時に、ヒューゴは駆け出した。
 魔法発動後の無防備な状態になったディオゲネスに、棍棒を振り上げた2体のコボルトが迫っていた。
 ヒューゴが手を貸さずとも、ディオゲネスであればどうとでもなるであろうが、ヒューゴはそちらへ走り、1体のコボルトを真横から切り払った。
 ドスッ!!
 いつもより剣速は落ちているはずだが、重い一撃となり、致命傷を与えた。
 コボルトは、あとに瘴気だけを残して消滅する。
 ディオゲネスの方を見ると、残る1体の攻撃を後ろに跳び退けてかわし、すぐに右手をそのコボルトに向けてかざしたところだった。
 「切り裂く者よエアーカッター!!」
 ディオゲネスの詠唱と同時に、真空の刃がコボルトを切り刻んだ。
 それは近距離攻撃ショートレンジに特化した圧縮詠唱であったが、そこまでのことはヒューゴには解らなかった。
 ディオゲネスが、ヒューゴに向けて軽く手を挙げた。
 「助かった」という合図であろう。
 ヒューゴは短く頷いて、改めて周囲を見回す。
 オークが1体、こちらに向かって走って来るのが見えた。
 オークはゴブリンやコボルトに比べて、一回り身体が大きい。
 アルフォンスほどではなかったが、ヒューゴよりも背が高かった。
 武器も棍棒ではなく、巨大な石斧を持っていた。
 これは剣では受けられないと判断し、ヒューゴは回避のための姿勢を取る。
 グアァァァ!!
 威嚇の叫びを上げながら、目の前に迫ったオークが石斧を振り上げる。
 ヒューゴは右正面、つまりオークの左脇を素早くすり抜けて、後ろに回り込む。
 「くらえ!」
 ヒューゴはオークに後ろから切りかかる。
 バシッ!!
 手応えはあったが、それはまだ致命傷には至らないことを、ヒューゴは知っていた。
 続けざまに、今度は1度切り払った剣を素早く切り返すようにして、一息で2回の斬撃を加える。
 それは「連撃」と呼ばれる、グィードから繰り返し教えられた基本的な剣の運びの一つの型であったが、実践で用いたのはこれが初めてであった。
 オークは反撃をする間も与えられず、断末魔の叫びをあげて消滅した。
 ヒューゴが息を整えて辺りを見回すと、戦闘はもはや終わろうとしていた。
 アルフォンスとグィードの強さは圧倒的であった。
 ゴブリンであれコボルトであれオークであれ、この2人の前では紙切れ同然であった。
 アーシェラもまた、風精霊シルフの援護を受けながら細身の剣レイピアを振るい、次々に魔物を撃破していた。
 ディオゲネスのライトニング・アローは、逃げ出そうとする魔物たちを逃さずに貫いていた。
 ヒューゴは後に、それが追跡型の魔法であることを知った。
 つまり、ディオゲネスが視認した敵に放たれたライトニングアローは、回避不可能なのである。
 それは、ヒューゴが当初考えていたよりも、遥かに高度な魔法であったのだ。
 「よぉし!どうやら魔物は全滅したようだな」
 グィードが戦闘の終了を宣言した。
 そういえば、ウァサゴの姿が見当たらないと思いヒューゴが辺りを見回すと、どのような原理によるのか、ウァサゴは上空5メートルの高さから一行を見下ろしていた。
 パチパチ、パチパチ、パチパチ。
 「皆さん流石です。お見事でした。」
 ウァサゴは、拍手をしながらそう言うと、ゆっくりと降下して、静かに着地した。
 「おまえに誉められても、ちっとも嬉しくない。むしろ虫唾むしずが走るからやめてくれ」
 グィードはそう言って、剣を腰の鞘に納めた。
 「ヒューゴ、最後の連撃は見事だったよ」
 アルフォンスがヒューゴに歩み寄って、頭を撫でた。
 「流石は俺の子だろ!」
  グィードは自慢の美髯びぜんに触れながら言う。
 「流石は私の孫です!」
 負けじとウァサゴが続く。
 「はいはい。親ばかとじじばかは放っておいて、早く森を抜けましょう」
 アーシェラが2人を冷たく突き放すように言った。
 「ああ、俺がウァサゴの孫だってとこは、もう誰もツッコまないんだ?」とヒューゴは疑問に思ったが、口には出さなかった。
 「ところで、グレンナまではもう近いんですか?」
 ディオゲネスがグィードに尋ねる。
 「ああ、あと1時間も掛からんはずだ」
 ヒューゴは改めて、宿屋の娘レーナのことを思い巡らす。
 ああ、あの快活な幼馴染は元気にしているだろうか。
 もうすぐレーナに会える。
 ヒューゴは幼馴染の少女レーナとの再会に、胸が高鳴るのを感じていた。 
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