硝子のカーテンコール

鷹栖 透

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第五章 仮面の告白

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埃っぽい空気と、古びた舞台装置。演劇部の部室は、七年前と何も変わっていなかった。詩織は、舞台装置の前に座り、まるで石像のように動かなかった。隆は、静かに詩織に近づき、声をかけた。

「…詩織。」

詩織は、ゆっくりと顔を上げ、隆を見つめた。彼女の瞳は、涙で濡れており、深い悲しみと絶望が渦巻いていた。

「…隆。」

詩織は、か細い声で、隆の名を呼んだ。隆は、彼女の隣に座った。詩織は、隆に身を寄せるでもなく、ただ静かにそこに座っていた。

「…徹から聞いた。玲奈の日記のこと、赤い箱のこと、そして…。」隆は、敢えて「〇〇」という言葉は口にしなかった。詩織が自ら語るのを待った。

詩織は、深く息を吸い、そして、ゆっくりと語り始めた。

「…ええ、全部本当よ。私が…玲奈さんを…殺そうとしたの。」

詩織の声は、震えていたが、取り乱す様子はなかった。それは、まるで、罪の重さに押し潰されそうな、静かな絶望の声だった。

「…彼女の輝きが…眩しかった。徹さんも、玲奈さんばかり見ていた。私は…玲奈さんの影で、ずっと苦しんでいた。…隆も、玲奈さんのことが好きだったんでしょ?」

詩織の言葉は、静かだったが、一つ一つが、隆の心に重く突き刺さった。

「赤い箱…中には、玲奈さんの日記が入ってた。…隆への想いが…綴られてたわ。」詩織は、言葉を詰まらせ、涙をこぼした。「…許せなかった。…だから、ロープに…細工をしました。」

詩織は、顔を覆い、静かに泣いた。彼女の涙は、後悔と罪悪感の涙だった。

隆は、詩織の肩に手を置こうとしたが、ためらった。彼は、詩織の罪を許すことはできない。しかし、彼女の苦しみを、無視することもできない。

「…それで、玲奈は…?」隆は、低い声で尋ねた。

詩織は、顔を上げ、涙で濡れた目で隆を見つめた。「…玲奈さんは…生きてるわ。…清水夏帆として…。」

隆は、息を呑んだ。徹から夏帆の名前は聞いていた。玲奈に似た女優がいると。しかし、同一人物だとは、夢にも思わなかった。

「…夏帆さんから、手紙をもらったの。…私を許すって…協力してほしいって…。でも…私は、自分を許すことなんて…できない…。」詩織は、震える手で、夏帆から受け取った手紙を隆に手渡した。

手紙には、詩織への謝罪と、真実を明らかにしたいという夏帆の強い意志が綴られていた。そして、葵が全てを知っていたことも。

「…葵は…全部知っていたの。…見ていたの…。私の罪を…利用したのよ…。玲奈さんがいなくなって…自分が主役になるために…。」

詩織の声は、静かだったが、そこには、深い絶望と、葵への静かな怒りが込められていた。

詩織の告白と夏帆の手紙は、全ての謎を解き明かした。赤い箱、日記、そして、〇〇…隆への想い。全てのピースが繋がり、一つの真実を浮かび上がらせた。隆は、詩織の罪を許すことはできない。しかし、彼女の贖罪の思いと、深い罪悪感は、隆の心に重くのしかかった。七年間の沈黙は、残酷な真実を隠していたが、同時に、贖罪への道を示していた。
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