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19 移動した死体達
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ゲームの合間にお茶をと用意していた茶器の中から
いきなりサリアンは重そうなポットを投げつけた。
「父さんから離れなさいよッ、人殺し!」
あのシーツは糸から選んで刺繍したのよ!
トリアは凄く喜んでたのよ!トリアが嬉しそうだったから私は頑張った。
死体を包む為じゃない!
一番許せないのは私たちが苦労して磨き上げてきた宿を、犯罪に利用して汚した事よ。
アードリアもトリアとの諍いから抱えてきた重荷を吐き出す為か、
その辺にあるペンや文鎮を投げつける。
「バカ、アンタのせいで!!」
ポットやペンを肩に受けて、ティシュカはギリりと歯噛みをした。
こいつ等、歯向かうつもりだ。
殺人狂の役人は、得意な不意打ちもできず、多勢に無勢だ。形成の悪さを悟り背を向けて走り去る。
抵抗する力が弱い者をいたぶるのが好みだ。
だからティシュカは子供が好きだった。老人か女。用心の為に弱者でも指を折ってからにする。
大勢の人間を相手に戦う覚悟など最初からない。臆病で小心者だ。
モフマールを鍛冶屋に突き飛ばし、及び腰の商人を威嚇して、
一か八かとカラクリ仕掛けで出来上がった階段を駆け上る。
足場は悪いが引き出しはちゃんと大人一人分の体重に耐えて、
天井に開いた通路にティシュカは飛び込んだ。
暗く細い通路は一人がやっと通れる程の狭さだ。
「逃げたぞ!!」
背後でドタドタと足音が追ってきた。忌々しい奴らだ。どうしてくれようか。
抜けた先は玄関ホールだった。
明るい玄関が待っている。
まずは馬だ。馬を押さえなければ逃げられない。
建物は睡魔の木の呪縛にかかっていたはずだが、外に通じる扉はバタンと音を立てて素直に開いた。
あまりにも自然だったので、しばらく気がつかなかった。
いつの間にか眠りの時期は終わっていたのだ。
「逃げるって事は、もう間違いないって事よね?」
「成程、こういう仕掛けですか」
「関心してる場合か?アイツは役人だ。俺たちの罪をでっち上げるのは簡単だぞ」
追うぞと言う掛け声と共に 一番身軽なディマ・スが駆け上る。
他の男たちもおっかなびっくりで後に続いた。
だが、玄関で大きくドアを開いて見えた光景に、ヴィンラックは呆然とした
最初に発見された孤児の躯、
今朝、発作でなくなったトリアの遺骸、
そして、風邪で寝込んでいると思われた役人ジャクールの無残な死体が、
玄関先に並んでいたからだ。
屍体は全てが指をおられた特有の形状になっていた。
ティシュカは喉が使えたような唸り声をあげ、頭を抱えて後ずさりした。
「…違う、私はやってない。…何で、こんなところにっ!チクショウ!誰が運んだんだ」
逆情して、わめく。拳を振り回す。
「お前たち、私を嵌めようとしているな。お前の仕業か?」
ティシュカはキッと鋭い目線で一同を睨みつける
「ヤったのはお前だろう!」モフマールは口を滑らせた。
「散々脅して、俺に口止めしたろうがっ!」
彼の言葉より、彼自身がハッと黙って、
いかにも不味いと言った風に周りを見回した行為が、皆の判断を決定した。
モフマールは何らかの理由で殺人鬼と取引したのだ。
多分、協力して逃亡する算段でもしていたに違いない。
トリアの告発文の通り"殺人鬼指折り”は、ティシュカだ。
彼は同僚までも手にかけ、長年、上手に役職を隠れ蓑に、ずっと人を殺してきた。
それは単なる己の快楽の為だけで、他にさしたる理由はない。
モフマールは単なる操り人形だった。日和見で、モフマールは事大主義なだけ、ということだ。
「ティシュカ!あんたが沢山の人間を殺して、この森に遺棄してたんだろ!
アンタ!今まで何人殺してきたんだ!」
ヴィンラックは杖を握りしめ叫んだ。
ディマ ・ス、ファイサルー、レノウも、憤慨して掴みかからんとする勢いだ。
ヴィンラックはなおも攻撃した
「ジャクール様を殺したのもお前なのか!みんな指をおられている、
トリアまで!死人まで辱めるとは…霊をも侮辱するつもりなのか!」
「バカな、戯言を!」
ヴィンラックは、ティシュカの耳を指差した。
「右の耳が半分しかない。左利き」
そして杖で帽子を叩き落とす
「茶色の髪巻き毛だ」
「少なくともトリアの息子は殺している」
鍛冶屋のファイサルーが拳を握った
「そして、ジャクール様と最後まで一緒だったのは貴方だ。
あなたはジャクールさまは風邪で寝込んでいると言った」
「指の折れた屍体を馬車に隠し持っていたぞ、それを馬草に隠したんだ!俺を脅したんだ」
モフマールが喚く。破れかぶれだ。
それぞれの指摘にティシュカは言葉に詰まる
彼は、チラリと三体の並べられた遺体と折れ曲がった指を眺めて後ずさりした。
「誰が、やったって?」
殺人鬼は戦慄いだ。ヴィンラックはトリアの杖を捧げ持ってティシュカに迫った。
「お前だ」
「違うぞ、俺じゃあない。お前は、…何様だ?誰なんだ?何のため…」
つかみかかろうと歩みよるティシュカに、
ヴィンラックは自棄になって、トリアの杖で突きにかかった。
反射的に避けてつかんだ姿勢のまま、おたがいにらみ合いながらの押し問答になった。
「お前はもう逃げられないぞ!みんなが証人だ!」
「俺の邪魔ばかりしやがって。こうなったら、皆殺しだ。殺して、沼に全員突き落としてやる」
杖を取り合って綱引きの情景は、剣士がみたら苦笑ものだ。
命がけの押し引きは、剣が鞘からすっぽり抜けたことで、突然お粗末な終わりを迎える。
ヴィンラックとティシュカは剣と鞘を各々持って、尻餅をついた。
白刃の眩しさが眼を射った。
鞘は、ヴィンラックが、剣はティシュカの手にあった。
ティシュカは、自分の有利を理解すると、ようやく余裕ができて、勝利の笑みを浮かべた。
ああ、なんて、バカなんだ。ヴィンラックは己のドジに泣きたくなった。
「誰か、助けてくれ」ヴィンラックは叫ぶ。
「コイツをなんとかしてくれ」
直ぐに斬りかかってくる、ヴィンラックが切り裂かれる。
と皆が息を飲んで身構えた時、突然ティシュカは絶叫した。
「んが‼、あ、あぁあっ」
目を大きく見張っているが焦点は合ってない。人の声とは思えない、
全く威嚇の感がない無機質な声に、ヴィンラックは後退りした。
ティシュカは、なぜか剣を手放した。
何だか知らないが、ただ事じゃない。
かなり不味い。
とにかく早く遠ざかれと全神経が主張する。
彼は杖を捨てたかった。が、手は言う事を聞こうとせず、腰は引けたままだ。
逃げたい。狂おしく感じるが、歩みはもどかしいほど遅かった。
時間が引き伸ばされているような―
----振り返って、走りさる―それだけの筈なのに。
鍛屋、古物商、料理人も、全く対処できないで、動けないでいる。
ティシュカが、支離滅裂なことを叫んでいる。
泣き言のようにも聞こえる。待て、という風に手を伸ばした。
なぜか、突っ立ったままその場で動こうとしない。
皆が殺人鬼が動かないのではなく動けないと、理解したのは古物商の叫び声だ。
「見ろ…脚、に、根が。生えて」彼の声は掠れてしゃがれていた。
足に細かな毛根が生えたたくさんの根が飛び出して、地面にティシュカを縫い止めているのだ。
始め地面から伸びていると思われた根は、くるぶしから、ふくらはぎから、
新しい毛根がみるみる湧き出すように生えて来る、
体内から根が芽吹いている。
「ア、イツが、次の、木だ。アイ、ツが…選ば、れたんだ」
息も途切れて、荒い呼吸の中で切れ切れに鍛冶屋が呟く。
「もう、…もう、早く、逃げたい、こんな所、嫌よ」
耐えきれなくなったアードリアが泣き声をあげた。
ティシュカは、「いやだ、いやだ、、こんな」ゴボゴボと咳き込みながら嗚咽を漏らしている。
あれほど無慈悲な殺人鬼だった男が、声をあげて泣いている。
体からは沢山の根が這い出して、次々と地面に伸び、頭や手からは枝葉が伸びて、
人間の姿とは程遠くなって行く。
萌芽する音がプチプチと耳障りだ。
「お似合いだ、馬鹿め、」
モフマールが遠くから嘲笑った。
「人殺しめ、お前が死体なんぞ持ち込んだせいで俺は散々な目にあったんだ」
すると、ティシュカはビクッと震えた。忘れていた矜持が一時、蘇ったようだった。
「そうだ…お前だ、…死体をお前が運ばなきゃ、あの死体さえ始末できていれば…っ」
彼の手は今や枝となり鞭となって、モフマールの首に絡みつく。
モフマールはクビを締められ口を枝で塞がれ一言も発せず昏倒した。
足をバタバタさせるのが精一杯だ。
新しい睡魔の幼木は最初の犠牲者を捉えて貪った。
「父さんっ!」
サリアンが悲鳴をあげて思わず駆け寄ろうとするのを、ディマ・スが引き止める
「ダメだ、危ない。あんたまで引きづり込まれるぞ。とにかく逃げろ。走れ、離れるんだ!」
ヴィンラックは怒鳴った。一回、大きな拍手をして一同は我に帰った。
早く!
「に、に、にがッ、逃がが、が、、がすものっ、かぁあぁ」
ティシュカは腕を振り回して落ちていた仕込み杖を投げつけてきたが
自分の腕に生え始めた枝が邪魔をして、剣はヴィンラックの足元にポトリと落ちた。
彼はそれを拾い上げて、無我夢中で襲ってくる気根に斬りつけた。
ティシュカは金切声を上げた。
「⁉、アアァ、くそッ、イッ、イ、イタィ、ィッ…ィ」
痛みに敏感なようだ。ブルブル身をくねらせていたが、
それすらも痛みを伴なうようで彼は動けなくなっていった。
日に焼けた肌は固い光沢のある幹になり規則正しい凹凸が現れた。無数に伸びた枝に新芽が沢山ついている。
もう人間の形跡は来ていた服だけになっている
役人の制服を幹に巻き付けている。やがて服はするりと根元に落ちていった。
いきなりサリアンは重そうなポットを投げつけた。
「父さんから離れなさいよッ、人殺し!」
あのシーツは糸から選んで刺繍したのよ!
トリアは凄く喜んでたのよ!トリアが嬉しそうだったから私は頑張った。
死体を包む為じゃない!
一番許せないのは私たちが苦労して磨き上げてきた宿を、犯罪に利用して汚した事よ。
アードリアもトリアとの諍いから抱えてきた重荷を吐き出す為か、
その辺にあるペンや文鎮を投げつける。
「バカ、アンタのせいで!!」
ポットやペンを肩に受けて、ティシュカはギリりと歯噛みをした。
こいつ等、歯向かうつもりだ。
殺人狂の役人は、得意な不意打ちもできず、多勢に無勢だ。形成の悪さを悟り背を向けて走り去る。
抵抗する力が弱い者をいたぶるのが好みだ。
だからティシュカは子供が好きだった。老人か女。用心の為に弱者でも指を折ってからにする。
大勢の人間を相手に戦う覚悟など最初からない。臆病で小心者だ。
モフマールを鍛冶屋に突き飛ばし、及び腰の商人を威嚇して、
一か八かとカラクリ仕掛けで出来上がった階段を駆け上る。
足場は悪いが引き出しはちゃんと大人一人分の体重に耐えて、
天井に開いた通路にティシュカは飛び込んだ。
暗く細い通路は一人がやっと通れる程の狭さだ。
「逃げたぞ!!」
背後でドタドタと足音が追ってきた。忌々しい奴らだ。どうしてくれようか。
抜けた先は玄関ホールだった。
明るい玄関が待っている。
まずは馬だ。馬を押さえなければ逃げられない。
建物は睡魔の木の呪縛にかかっていたはずだが、外に通じる扉はバタンと音を立てて素直に開いた。
あまりにも自然だったので、しばらく気がつかなかった。
いつの間にか眠りの時期は終わっていたのだ。
「逃げるって事は、もう間違いないって事よね?」
「成程、こういう仕掛けですか」
「関心してる場合か?アイツは役人だ。俺たちの罪をでっち上げるのは簡単だぞ」
追うぞと言う掛け声と共に 一番身軽なディマ・スが駆け上る。
他の男たちもおっかなびっくりで後に続いた。
だが、玄関で大きくドアを開いて見えた光景に、ヴィンラックは呆然とした
最初に発見された孤児の躯、
今朝、発作でなくなったトリアの遺骸、
そして、風邪で寝込んでいると思われた役人ジャクールの無残な死体が、
玄関先に並んでいたからだ。
屍体は全てが指をおられた特有の形状になっていた。
ティシュカは喉が使えたような唸り声をあげ、頭を抱えて後ずさりした。
「…違う、私はやってない。…何で、こんなところにっ!チクショウ!誰が運んだんだ」
逆情して、わめく。拳を振り回す。
「お前たち、私を嵌めようとしているな。お前の仕業か?」
ティシュカはキッと鋭い目線で一同を睨みつける
「ヤったのはお前だろう!」モフマールは口を滑らせた。
「散々脅して、俺に口止めしたろうがっ!」
彼の言葉より、彼自身がハッと黙って、
いかにも不味いと言った風に周りを見回した行為が、皆の判断を決定した。
モフマールは何らかの理由で殺人鬼と取引したのだ。
多分、協力して逃亡する算段でもしていたに違いない。
トリアの告発文の通り"殺人鬼指折り”は、ティシュカだ。
彼は同僚までも手にかけ、長年、上手に役職を隠れ蓑に、ずっと人を殺してきた。
それは単なる己の快楽の為だけで、他にさしたる理由はない。
モフマールは単なる操り人形だった。日和見で、モフマールは事大主義なだけ、ということだ。
「ティシュカ!あんたが沢山の人間を殺して、この森に遺棄してたんだろ!
アンタ!今まで何人殺してきたんだ!」
ヴィンラックは杖を握りしめ叫んだ。
ディマ ・ス、ファイサルー、レノウも、憤慨して掴みかからんとする勢いだ。
ヴィンラックはなおも攻撃した
「ジャクール様を殺したのもお前なのか!みんな指をおられている、
トリアまで!死人まで辱めるとは…霊をも侮辱するつもりなのか!」
「バカな、戯言を!」
ヴィンラックは、ティシュカの耳を指差した。
「右の耳が半分しかない。左利き」
そして杖で帽子を叩き落とす
「茶色の髪巻き毛だ」
「少なくともトリアの息子は殺している」
鍛冶屋のファイサルーが拳を握った
「そして、ジャクール様と最後まで一緒だったのは貴方だ。
あなたはジャクールさまは風邪で寝込んでいると言った」
「指の折れた屍体を馬車に隠し持っていたぞ、それを馬草に隠したんだ!俺を脅したんだ」
モフマールが喚く。破れかぶれだ。
それぞれの指摘にティシュカは言葉に詰まる
彼は、チラリと三体の並べられた遺体と折れ曲がった指を眺めて後ずさりした。
「誰が、やったって?」
殺人鬼は戦慄いだ。ヴィンラックはトリアの杖を捧げ持ってティシュカに迫った。
「お前だ」
「違うぞ、俺じゃあない。お前は、…何様だ?誰なんだ?何のため…」
つかみかかろうと歩みよるティシュカに、
ヴィンラックは自棄になって、トリアの杖で突きにかかった。
反射的に避けてつかんだ姿勢のまま、おたがいにらみ合いながらの押し問答になった。
「お前はもう逃げられないぞ!みんなが証人だ!」
「俺の邪魔ばかりしやがって。こうなったら、皆殺しだ。殺して、沼に全員突き落としてやる」
杖を取り合って綱引きの情景は、剣士がみたら苦笑ものだ。
命がけの押し引きは、剣が鞘からすっぽり抜けたことで、突然お粗末な終わりを迎える。
ヴィンラックとティシュカは剣と鞘を各々持って、尻餅をついた。
白刃の眩しさが眼を射った。
鞘は、ヴィンラックが、剣はティシュカの手にあった。
ティシュカは、自分の有利を理解すると、ようやく余裕ができて、勝利の笑みを浮かべた。
ああ、なんて、バカなんだ。ヴィンラックは己のドジに泣きたくなった。
「誰か、助けてくれ」ヴィンラックは叫ぶ。
「コイツをなんとかしてくれ」
直ぐに斬りかかってくる、ヴィンラックが切り裂かれる。
と皆が息を飲んで身構えた時、突然ティシュカは絶叫した。
「んが‼、あ、あぁあっ」
目を大きく見張っているが焦点は合ってない。人の声とは思えない、
全く威嚇の感がない無機質な声に、ヴィンラックは後退りした。
ティシュカは、なぜか剣を手放した。
何だか知らないが、ただ事じゃない。
かなり不味い。
とにかく早く遠ざかれと全神経が主張する。
彼は杖を捨てたかった。が、手は言う事を聞こうとせず、腰は引けたままだ。
逃げたい。狂おしく感じるが、歩みはもどかしいほど遅かった。
時間が引き伸ばされているような―
----振り返って、走りさる―それだけの筈なのに。
鍛屋、古物商、料理人も、全く対処できないで、動けないでいる。
ティシュカが、支離滅裂なことを叫んでいる。
泣き言のようにも聞こえる。待て、という風に手を伸ばした。
なぜか、突っ立ったままその場で動こうとしない。
皆が殺人鬼が動かないのではなく動けないと、理解したのは古物商の叫び声だ。
「見ろ…脚、に、根が。生えて」彼の声は掠れてしゃがれていた。
足に細かな毛根が生えたたくさんの根が飛び出して、地面にティシュカを縫い止めているのだ。
始め地面から伸びていると思われた根は、くるぶしから、ふくらはぎから、
新しい毛根がみるみる湧き出すように生えて来る、
体内から根が芽吹いている。
「ア、イツが、次の、木だ。アイ、ツが…選ば、れたんだ」
息も途切れて、荒い呼吸の中で切れ切れに鍛冶屋が呟く。
「もう、…もう、早く、逃げたい、こんな所、嫌よ」
耐えきれなくなったアードリアが泣き声をあげた。
ティシュカは、「いやだ、いやだ、、こんな」ゴボゴボと咳き込みながら嗚咽を漏らしている。
あれほど無慈悲な殺人鬼だった男が、声をあげて泣いている。
体からは沢山の根が這い出して、次々と地面に伸び、頭や手からは枝葉が伸びて、
人間の姿とは程遠くなって行く。
萌芽する音がプチプチと耳障りだ。
「お似合いだ、馬鹿め、」
モフマールが遠くから嘲笑った。
「人殺しめ、お前が死体なんぞ持ち込んだせいで俺は散々な目にあったんだ」
すると、ティシュカはビクッと震えた。忘れていた矜持が一時、蘇ったようだった。
「そうだ…お前だ、…死体をお前が運ばなきゃ、あの死体さえ始末できていれば…っ」
彼の手は今や枝となり鞭となって、モフマールの首に絡みつく。
モフマールはクビを締められ口を枝で塞がれ一言も発せず昏倒した。
足をバタバタさせるのが精一杯だ。
新しい睡魔の幼木は最初の犠牲者を捉えて貪った。
「父さんっ!」
サリアンが悲鳴をあげて思わず駆け寄ろうとするのを、ディマ・スが引き止める
「ダメだ、危ない。あんたまで引きづり込まれるぞ。とにかく逃げろ。走れ、離れるんだ!」
ヴィンラックは怒鳴った。一回、大きな拍手をして一同は我に帰った。
早く!
「に、に、にがッ、逃がが、が、、がすものっ、かぁあぁ」
ティシュカは腕を振り回して落ちていた仕込み杖を投げつけてきたが
自分の腕に生え始めた枝が邪魔をして、剣はヴィンラックの足元にポトリと落ちた。
彼はそれを拾い上げて、無我夢中で襲ってくる気根に斬りつけた。
ティシュカは金切声を上げた。
「⁉、アアァ、くそッ、イッ、イ、イタィ、ィッ…ィ」
痛みに敏感なようだ。ブルブル身をくねらせていたが、
それすらも痛みを伴なうようで彼は動けなくなっていった。
日に焼けた肌は固い光沢のある幹になり規則正しい凹凸が現れた。無数に伸びた枝に新芽が沢山ついている。
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