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第九話
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ふと気がつくと、わたしは薄暗い部屋の中にいた。
薄闇の中をじっと目をこらして見る。
両側の壁には、ぎっしりと本が並んでいた。随分大量の本がある部屋だ。わたしは、ああ、ここが暗黒図書館なんだと思う。
わたしは読書机で、本を読み耽っている。
わたしは随分長い間、ここで本を読んでいたようだ。
ふと。
扉が開くのを感じ、わたしは目をあげる。そこに立っていたのはわたし。あるいは、姉さん。
わたしたちは、じっと見詰め合った。
ああこれは、いつもの夢のはじまりなんだとわたしは思う。
姉は、わたしに口づけをしわたしはそれに応える。
姉の舌はわたしの中で踊るように動き回り、わたしの官能を呼び覚ます。
いつしかわたしたちは、生まれたままの姿で抱き合っていた。
わたしたちはまるで巳喰いの蛇であるかのように、互いが相手の下腹にそしてその会陰の奥に花開く花弁に舌を差し入れ快楽を貪り合う。互いの快感が共有されそれが円をあるいは螺旋を描くように高みへと昇っていく感覚に、わたしたちはのめり込む。
わたしはいつものようにその夢の中で、酔いしれていた。
いつの間にか姉は小さな蛇に姿を変え、わたしの花弁にある亀裂を頭で掻き回している。姉の尾は、傍らにおかれた本の中へと繋がっていた。
蛇となった姉はわたしの中にある粘膜でできた部屋奥深くを舐め回し掻き回し、わたしを何度も官能の高みへと連れて行く。
ふと、わたしは気づいた。わたしの奥にある粘膜で閉ざされた、秘密の部屋。蛇はそこで、そっと吐息をつく。
それは、小さな火の塊だった。その塊はゆるやかに伸び、ごく小さな炎の蛇となる。
炎の蛇はわたしの会陰でくるりと輪を描いたのち、わたしの脊髄へと絡みつく。炎の蛇はわたしの脊髄に螺旋を描いて絡まりながら、頭頂に向かって昇っていった。
蛇はわたしの頭で白銀に光る唾液を放つと、わたしの眉間から外へ飛び出す。炎の蛇は、そこで姿を消した。
姉はわたしに、囁きかける。
「忘れないで、これを。これは、最後の希望。暗闇に閉ざされた海に灯された、灯台の明かり」
やがて姉はわたしの身体から抜け出ると、本の中へと入ってゆく。
あとに残ったのは、一冊の本。
わたしはその本をよく見ようと手を伸ばしたけれど、そこでわたしの意識は闇にのまれる。
❖
そしてわたしは仮面の男のところにいた。
「ようやく書き上げることができましたよ」
仮面の男は満足げにいうと、わたしに原稿用紙を手渡した。わたしはその原稿用紙を受け取ったとき、何かぞくりと戦慄が走ったように思う。
仮面の男は怪訝そうにたずねた。
「どうかしました?」
「いえ、その」
わたしは笑みを無理やり浮かべてごまかした。
「夢見が悪かったものですから」
ほう、と仮面の男は感心したように言った。
「それはどんな夢でした」
「それが、わたし、暗黒図書館のようなところにいたんです」
仮面の男は満足げに頷く。
「それではあなたは、月子になってそこに入り込んだというわけですね」
わたしは首をふる。
「あの、その時わたしと姉ふたりともそこにいたみたいなんです」
「ほう」
仮面の男はどこか楽しげに、なんども頷く。
「それであの、不思議なんですけど」
わたしは、なんとなく話をするのを躊躇って、言葉を切った。仮面の男は視線でわたしにその先を語ることを、促す。
わたしは言った。
「わたしは、姉から何かを受け取ったような気がします」
「あなたがそんな夢をみるとは、大変興味深い」
「はあ」
わたしは、原稿用紙に眼差しを落とす。
「それでは、読ませていただきます」
薄闇の中をじっと目をこらして見る。
両側の壁には、ぎっしりと本が並んでいた。随分大量の本がある部屋だ。わたしは、ああ、ここが暗黒図書館なんだと思う。
わたしは読書机で、本を読み耽っている。
わたしは随分長い間、ここで本を読んでいたようだ。
ふと。
扉が開くのを感じ、わたしは目をあげる。そこに立っていたのはわたし。あるいは、姉さん。
わたしたちは、じっと見詰め合った。
ああこれは、いつもの夢のはじまりなんだとわたしは思う。
姉は、わたしに口づけをしわたしはそれに応える。
姉の舌はわたしの中で踊るように動き回り、わたしの官能を呼び覚ます。
いつしかわたしたちは、生まれたままの姿で抱き合っていた。
わたしたちはまるで巳喰いの蛇であるかのように、互いが相手の下腹にそしてその会陰の奥に花開く花弁に舌を差し入れ快楽を貪り合う。互いの快感が共有されそれが円をあるいは螺旋を描くように高みへと昇っていく感覚に、わたしたちはのめり込む。
わたしはいつものようにその夢の中で、酔いしれていた。
いつの間にか姉は小さな蛇に姿を変え、わたしの花弁にある亀裂を頭で掻き回している。姉の尾は、傍らにおかれた本の中へと繋がっていた。
蛇となった姉はわたしの中にある粘膜でできた部屋奥深くを舐め回し掻き回し、わたしを何度も官能の高みへと連れて行く。
ふと、わたしは気づいた。わたしの奥にある粘膜で閉ざされた、秘密の部屋。蛇はそこで、そっと吐息をつく。
それは、小さな火の塊だった。その塊はゆるやかに伸び、ごく小さな炎の蛇となる。
炎の蛇はわたしの会陰でくるりと輪を描いたのち、わたしの脊髄へと絡みつく。炎の蛇はわたしの脊髄に螺旋を描いて絡まりながら、頭頂に向かって昇っていった。
蛇はわたしの頭で白銀に光る唾液を放つと、わたしの眉間から外へ飛び出す。炎の蛇は、そこで姿を消した。
姉はわたしに、囁きかける。
「忘れないで、これを。これは、最後の希望。暗闇に閉ざされた海に灯された、灯台の明かり」
やがて姉はわたしの身体から抜け出ると、本の中へと入ってゆく。
あとに残ったのは、一冊の本。
わたしはその本をよく見ようと手を伸ばしたけれど、そこでわたしの意識は闇にのまれる。
❖
そしてわたしは仮面の男のところにいた。
「ようやく書き上げることができましたよ」
仮面の男は満足げにいうと、わたしに原稿用紙を手渡した。わたしはその原稿用紙を受け取ったとき、何かぞくりと戦慄が走ったように思う。
仮面の男は怪訝そうにたずねた。
「どうかしました?」
「いえ、その」
わたしは笑みを無理やり浮かべてごまかした。
「夢見が悪かったものですから」
ほう、と仮面の男は感心したように言った。
「それはどんな夢でした」
「それが、わたし、暗黒図書館のようなところにいたんです」
仮面の男は満足げに頷く。
「それではあなたは、月子になってそこに入り込んだというわけですね」
わたしは首をふる。
「あの、その時わたしと姉ふたりともそこにいたみたいなんです」
「ほう」
仮面の男はどこか楽しげに、なんども頷く。
「それであの、不思議なんですけど」
わたしは、なんとなく話をするのを躊躇って、言葉を切った。仮面の男は視線でわたしにその先を語ることを、促す。
わたしは言った。
「わたしは、姉から何かを受け取ったような気がします」
「あなたがそんな夢をみるとは、大変興味深い」
「はあ」
わたしは、原稿用紙に眼差しを落とす。
「それでは、読ませていただきます」
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