『0.5秒の永遠 ~復讐のために心を捨てた少女は、最強の兵器となって涙を流す~』

Renato

文字の大きさ
14 / 16

第14話 限界突破

しおりを挟む
1
 都市の中心に聳え立つ白亜の巨塔、AION本部「アイボリー・タワー」。
 その正面エントランスが、轟音と共に粉砕された。

「行くぞ、エレナ!正面突破だ!」

「ええ!」

 煙の中から飛び出したのは、エレナとロイだ。
 警報が鳴り響き、数百体の警備ロボットがロビーを埋め尽くす。
 だが、二人の進撃は止まらない。
 エレナが《クオリア・ブースト》で弾道を読み、最小限の動きで回避しながら道を切り開く。その死角を、ロイが精密射撃でカバーする。
 背中合わせの乱舞。言葉など要らない。数多の死線を潜り抜けてきた「相棒」としての阿吽の呼吸が、鉄の軍勢を屑鉄に変えていく。

『セキュリティ・ゲート、強制開放!』

 通信機からサカキの声が響く。彼もまた、遠隔ハッキングで支援している。

『エレベーターは止められている。非常階段を使え!最上階まで一気に駆け上がるんだ!』

2
 タワー中層、スカイラウンジ。
 階段を駆け上がった二人の足を、異様な気配が止めた。
 広大なラウンジの中央に、警備ロボットの残骸で作られた椅子があり、そこに少年が座っていた。
 ゼクスだ。
 彼は退屈そうに欠伸をし、足元のロボットの生首をサッカーボールのように蹴り飛ばした。

「遅いよ。待ちくたびれて、味方を壊しちゃったじゃん」

 ゼクスがゆっくりと立ち上がる。その全身から放たれる殺気が、空気をビリビリと震わせる。

「ここから先は『パパの部屋』だ。壊れたオモチャは通さないよ」

 エレナが前に出る。

「私がやる。ロイ、あなたは先へ……」

「駄目だ」

 ロイがエレナの肩を掴み、強引に後ろへ投げ飛ばした。

「お前の『予測』じゃ、相性が悪すぎる。またボコボコにされるだけだ」

「でも、あなたの機体スペックじゃ勝てない!彼は第2世代よ!?」

 ロイは背を向けたまま、ニカっと笑った。

「スペック?関係ねえよ。……俺は、惚れた女のためなら神様だって殴り倒す男だ」

 彼はエレナを非常階段の奥へと押しやり、隔壁の閉鎖スイッチを撃ち抜いた。 ガゴンッ、と壁が降りる。

「ロイ!!」

 エレナの悲痛な叫びが遮断された。

3
 ラウンジに残されたのは、男二人。
 ゼクスはケラケラと笑った。

「へえ、英雄気取り?カッコいいねえ。でもさ、第1世代のガラクタが僕に勝てるわけないじゃん」

 ロイは無言で拳銃を抜いた。
 《シナプス・オーバードライブ(通常起動)》。
 昨日、ゼクスを退けた神速の反応速度。ロイはゼクスの初動に合わせて発砲し、同時に死角へ回り込む。
 勝てる。この速度なら――。
 ガシッ。
 乾いた音が響いた。
 ロイの動きが止まる。いや、止められたのだ。
 回り込んだはずのロイの首を、ゼクスの手が正確に掴んでいた。

「……は?」

「遅いよ、おじさん」

 ゼクスが退屈そうに欠伸をする。

「その動き、昨日見たもん。学習したよ。……**最新鋭(セカンド)**の演算能力、舐めないでよね」

 ドゴォッ!
 ゼクスの膝蹴りが、ロイの鳩尾に突き刺さる。
 ロイはボールのように吹き飛び、壁に叩きつけられた。全身の骨が軋む音がする。
  通用しない。
 昨日は「初見の奇襲」で通じただけだ。学習した格上の怪物には、第1世代の通常スペックでは手も足も出ない。

「終わり?つまんないの」

 ゼクスがドリルアームを回転させ、迫ってくる。絶体絶命。

 (……ああ、確かに速え。バケモンだ)

 視界が霞む。警告音が鳴り止まない。
 だが、倒れ伏したロイの瞳から、光は消えていなかった。

 (思考で追うな。目で見るな。……神経(シナプス)を焼き切れ)

 ロイは震える手で、義手のセーフティを弾き飛ばした。

「……リミッター、解除」

4
 ロイの義手から、ジェット噴射のような蒸気が噴き出した。
 全身の駆動音が、悲鳴のような甲高い音へと変わる。

  《シナプス・オーバードライブ・レッドゾーン》

 それは、機体の耐久限界を無視し、神経伝達速度を物理的限界まで強制加速させる自滅技。
 筋肉繊維が断裂し、血管が破裂する激痛。脳が焼き切れる寸前の負荷。
 だが、ロイの感覚は引き伸ばされた「永遠の一瞬」の中にあった。

「死ねよ、ゴミ!」

 ゼクスが加速する。さっきロイを捕らえた速度だ。
 ――だが、今のロイには、それが「止まって」見えた。
 ドゴォッ!
 衝撃が走ったのは、ゼクスの顔面だった。
 ロイの拳が、ゼクスの認識できない速度でカウンターを叩き込んでいたのだ。

「ぶべっ!?……な、んだと!?」

 ゼクスが吹っ飛ぶ。
 ありえない。学習したはずだ。予測したはずだ。
 だが、ロイの速度はその「学習データ」を遥かに凌駕していた。

「理屈なんざ知らねえよ……」

 全身から血とオイルを霧のように噴き出しながら、ロイがゆらりと立つ。 その姿は、ボロボロだが、誰よりも速い鬼神だった。

「テメェが学習するより速く動けば、当たるんだよ!」

5
「ふ、ふざけるな……!僕を誰だと思ってる!」

 ゼクスが激昂した。プライドを傷つけられた怪物が吠える。
 彼の全身の放熱端子が赤熱し、周囲の空間すら歪むほどのエネルギーが膨れ上がる。

「消えろぉぉぉッ!!」

 ゼクスは全方位への無差別攻撃、**《カオス・ブラスト》**を放ちながら突っ込んできた。
 回避不能の質量攻撃。
 だが、ロイは一歩も引かなかった。
 逃げれば死ぬ。ならば――前に出るしかない。

(エレナ。……後は頼んだぜ)

 ロイは真正面から突っ込んだ。
 ゼクスのドリルが、ロイの右腕を根元からねじ切り、脇腹を貫通する。
 致命傷。
 だが、その痛みすら、今のロイにはただの信号だ。
 肉を断たせて、骨を断つ。
 密着状態。ゼクスの胸部コアが目の前にある。

「チェックメイトだ、クソガキ」

 残された左腕のパイルバンカー(杭打ち機)が、ゼロ距離で火を噴いた。
  ズドンッ!!
 巨大な杭が、ゼクスのコアを貫き、背中まで突き抜けた。

6
 時が止まった。
 ゼクスの瞳から光が消える。

「うそ、だ……。僕が、旧型に……?」

 彼の体は糸が切れたように崩れ落ち、動かなくなった。
 ロイもまた、膝をついた。
 勝利の代償は大きすぎた。右腕喪失、内臓破損、そして神経系の焼き切れによる全身麻痺。
 視界がブラックアウトしていく。
 その時、通信機が震えた。

『ロイ!無事なの!?返事をして!』

 エレナの声だ。
 ロイは激痛を堪え、血の泡を吐き出しながら、いつもの軽薄な口調を作った。

「……ああ。片付いたぜ。ちょいと手こずったがな」

『よかった……!今すぐ戻って――』
「来るな!」

 ロイは叫んだ。そして、声を和らげる。

「……少し、休憩してから行く。お前は先に行け。ヴィンセントを待たせるな」

『……分かった。待ってるからね』

 通信が切れる。
 ロイは仰向けに倒れ込んだ。天井の照明が眩しい。
 震える左手で、懐から潰れたタバコの箱を取り出す。一本くわえたが、ライターを擦る握力すら残っていなかった。

「……へっ、ダサいねえ」

 彼はタバコを吐き出し、静かに目を閉じた。

「行けよ、エレナ。……お前はもう、一人で歩けるさ」

 野良犬の咆哮は止んだ。しかし、その命懸けの道は、最上階へと繋がった。

7
 アイボリー・タワー最上階。
 巨大な扉を、エレナは蹴り破った。
 広がるのは、全面ガラス張りの執務室。眼下には煌めく夜景。
 そして、部屋の中央にはヴィンセントが立っていた。
 彼の背後には、奪われた母艦「アーク」が接続され、禍々しいエネルギーを供給している。

「素晴らしい」

 ヴィンセントはワイングラスを傾けた。

「あのゼクスを退けるとはね。……だが、君の騎士(ナイト)はもう動けないようだ」

 モニターに映し出された、倒れているロイの姿。
 エレナの胸に、かつてないほどの怒りと、そして静かな決意が満ちた。

「ええ。……ここからは、私とあなたの時間」

 エレナは構えた。

「ヴィンセント、全てを終わらせに来たわ」

 最終決戦の幕が上がる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

しあわせの村

都貴
ミステリー
同窓会の知らせが舞い込んだ。 開催場所は話題のパワースポット、宿泊者に幸運を呼び込む『しあわせの村』 楽しい同窓会になるはずだった。だが、『しあわせの村』には秘密があり、次々と奇怪な事件が起こる。 犯人は幽霊か、人間か。ミステリー✕ホラー小説。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...