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第14話 限界突破
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1
都市の中心に聳え立つ白亜の巨塔、AION本部「アイボリー・タワー」。
その正面エントランスが、轟音と共に粉砕された。
「行くぞ、エレナ!正面突破だ!」
「ええ!」
煙の中から飛び出したのは、エレナとロイだ。
警報が鳴り響き、数百体の警備ロボットがロビーを埋め尽くす。
だが、二人の進撃は止まらない。
エレナが《クオリア・ブースト》で弾道を読み、最小限の動きで回避しながら道を切り開く。その死角を、ロイが精密射撃でカバーする。
背中合わせの乱舞。言葉など要らない。数多の死線を潜り抜けてきた「相棒」としての阿吽の呼吸が、鉄の軍勢を屑鉄に変えていく。
『セキュリティ・ゲート、強制開放!』
通信機からサカキの声が響く。彼もまた、遠隔ハッキングで支援している。
『エレベーターは止められている。非常階段を使え!最上階まで一気に駆け上がるんだ!』
2
タワー中層、スカイラウンジ。
階段を駆け上がった二人の足を、異様な気配が止めた。
広大なラウンジの中央に、警備ロボットの残骸で作られた椅子があり、そこに少年が座っていた。
ゼクスだ。
彼は退屈そうに欠伸をし、足元のロボットの生首をサッカーボールのように蹴り飛ばした。
「遅いよ。待ちくたびれて、味方を壊しちゃったじゃん」
ゼクスがゆっくりと立ち上がる。その全身から放たれる殺気が、空気をビリビリと震わせる。
「ここから先は『パパの部屋』だ。壊れたオモチャは通さないよ」
エレナが前に出る。
「私がやる。ロイ、あなたは先へ……」
「駄目だ」
ロイがエレナの肩を掴み、強引に後ろへ投げ飛ばした。
「お前の『予測』じゃ、相性が悪すぎる。またボコボコにされるだけだ」
「でも、あなたの機体スペックじゃ勝てない!彼は第2世代よ!?」
ロイは背を向けたまま、ニカっと笑った。
「スペック?関係ねえよ。……俺は、惚れた女のためなら神様だって殴り倒す男だ」
彼はエレナを非常階段の奥へと押しやり、隔壁の閉鎖スイッチを撃ち抜いた。 ガゴンッ、と壁が降りる。
「ロイ!!」
エレナの悲痛な叫びが遮断された。
3
ラウンジに残されたのは、男二人。
ゼクスはケラケラと笑った。
「へえ、英雄気取り?カッコいいねえ。でもさ、第1世代のガラクタが僕に勝てるわけないじゃん」
ロイは無言で拳銃を抜いた。
《シナプス・オーバードライブ(通常起動)》。
昨日、ゼクスを退けた神速の反応速度。ロイはゼクスの初動に合わせて発砲し、同時に死角へ回り込む。
勝てる。この速度なら――。
ガシッ。
乾いた音が響いた。
ロイの動きが止まる。いや、止められたのだ。
回り込んだはずのロイの首を、ゼクスの手が正確に掴んでいた。
「……は?」
「遅いよ、おじさん」
ゼクスが退屈そうに欠伸をする。
「その動き、昨日見たもん。学習したよ。……**最新鋭(セカンド)**の演算能力、舐めないでよね」
ドゴォッ!
ゼクスの膝蹴りが、ロイの鳩尾に突き刺さる。
ロイはボールのように吹き飛び、壁に叩きつけられた。全身の骨が軋む音がする。
通用しない。
昨日は「初見の奇襲」で通じただけだ。学習した格上の怪物には、第1世代の通常スペックでは手も足も出ない。
「終わり?つまんないの」
ゼクスがドリルアームを回転させ、迫ってくる。絶体絶命。
(……ああ、確かに速え。バケモンだ)
視界が霞む。警告音が鳴り止まない。
だが、倒れ伏したロイの瞳から、光は消えていなかった。
(思考で追うな。目で見るな。……神経(シナプス)を焼き切れ)
ロイは震える手で、義手のセーフティを弾き飛ばした。
「……リミッター、解除」
4
ロイの義手から、ジェット噴射のような蒸気が噴き出した。
全身の駆動音が、悲鳴のような甲高い音へと変わる。
《シナプス・オーバードライブ・レッドゾーン》
それは、機体の耐久限界を無視し、神経伝達速度を物理的限界まで強制加速させる自滅技。
筋肉繊維が断裂し、血管が破裂する激痛。脳が焼き切れる寸前の負荷。
だが、ロイの感覚は引き伸ばされた「永遠の一瞬」の中にあった。
「死ねよ、ゴミ!」
ゼクスが加速する。さっきロイを捕らえた速度だ。
――だが、今のロイには、それが「止まって」見えた。
ドゴォッ!
衝撃が走ったのは、ゼクスの顔面だった。
ロイの拳が、ゼクスの認識できない速度でカウンターを叩き込んでいたのだ。
「ぶべっ!?……な、んだと!?」
ゼクスが吹っ飛ぶ。
ありえない。学習したはずだ。予測したはずだ。
だが、ロイの速度はその「学習データ」を遥かに凌駕していた。
「理屈なんざ知らねえよ……」
全身から血とオイルを霧のように噴き出しながら、ロイがゆらりと立つ。 その姿は、ボロボロだが、誰よりも速い鬼神だった。
「テメェが学習するより速く動けば、当たるんだよ!」
5
「ふ、ふざけるな……!僕を誰だと思ってる!」
ゼクスが激昂した。プライドを傷つけられた怪物が吠える。
彼の全身の放熱端子が赤熱し、周囲の空間すら歪むほどのエネルギーが膨れ上がる。
「消えろぉぉぉッ!!」
ゼクスは全方位への無差別攻撃、**《カオス・ブラスト》**を放ちながら突っ込んできた。
回避不能の質量攻撃。
だが、ロイは一歩も引かなかった。
逃げれば死ぬ。ならば――前に出るしかない。
(エレナ。……後は頼んだぜ)
ロイは真正面から突っ込んだ。
ゼクスのドリルが、ロイの右腕を根元からねじ切り、脇腹を貫通する。
致命傷。
だが、その痛みすら、今のロイにはただの信号だ。
肉を断たせて、骨を断つ。
密着状態。ゼクスの胸部コアが目の前にある。
「チェックメイトだ、クソガキ」
残された左腕のパイルバンカー(杭打ち機)が、ゼロ距離で火を噴いた。
ズドンッ!!
巨大な杭が、ゼクスのコアを貫き、背中まで突き抜けた。
6
時が止まった。
ゼクスの瞳から光が消える。
「うそ、だ……。僕が、旧型に……?」
彼の体は糸が切れたように崩れ落ち、動かなくなった。
ロイもまた、膝をついた。
勝利の代償は大きすぎた。右腕喪失、内臓破損、そして神経系の焼き切れによる全身麻痺。
視界がブラックアウトしていく。
その時、通信機が震えた。
『ロイ!無事なの!?返事をして!』
エレナの声だ。
ロイは激痛を堪え、血の泡を吐き出しながら、いつもの軽薄な口調を作った。
「……ああ。片付いたぜ。ちょいと手こずったがな」
『よかった……!今すぐ戻って――』
「来るな!」
ロイは叫んだ。そして、声を和らげる。
「……少し、休憩してから行く。お前は先に行け。ヴィンセントを待たせるな」
『……分かった。待ってるからね』
通信が切れる。
ロイは仰向けに倒れ込んだ。天井の照明が眩しい。
震える左手で、懐から潰れたタバコの箱を取り出す。一本くわえたが、ライターを擦る握力すら残っていなかった。
「……へっ、ダサいねえ」
彼はタバコを吐き出し、静かに目を閉じた。
「行けよ、エレナ。……お前はもう、一人で歩けるさ」
野良犬の咆哮は止んだ。しかし、その命懸けの道は、最上階へと繋がった。
7
アイボリー・タワー最上階。
巨大な扉を、エレナは蹴り破った。
広がるのは、全面ガラス張りの執務室。眼下には煌めく夜景。
そして、部屋の中央にはヴィンセントが立っていた。
彼の背後には、奪われた母艦「アーク」が接続され、禍々しいエネルギーを供給している。
「素晴らしい」
ヴィンセントはワイングラスを傾けた。
「あのゼクスを退けるとはね。……だが、君の騎士(ナイト)はもう動けないようだ」
モニターに映し出された、倒れているロイの姿。
エレナの胸に、かつてないほどの怒りと、そして静かな決意が満ちた。
「ええ。……ここからは、私とあなたの時間」
エレナは構えた。
「ヴィンセント、全てを終わらせに来たわ」
最終決戦の幕が上がる。
都市の中心に聳え立つ白亜の巨塔、AION本部「アイボリー・タワー」。
その正面エントランスが、轟音と共に粉砕された。
「行くぞ、エレナ!正面突破だ!」
「ええ!」
煙の中から飛び出したのは、エレナとロイだ。
警報が鳴り響き、数百体の警備ロボットがロビーを埋め尽くす。
だが、二人の進撃は止まらない。
エレナが《クオリア・ブースト》で弾道を読み、最小限の動きで回避しながら道を切り開く。その死角を、ロイが精密射撃でカバーする。
背中合わせの乱舞。言葉など要らない。数多の死線を潜り抜けてきた「相棒」としての阿吽の呼吸が、鉄の軍勢を屑鉄に変えていく。
『セキュリティ・ゲート、強制開放!』
通信機からサカキの声が響く。彼もまた、遠隔ハッキングで支援している。
『エレベーターは止められている。非常階段を使え!最上階まで一気に駆け上がるんだ!』
2
タワー中層、スカイラウンジ。
階段を駆け上がった二人の足を、異様な気配が止めた。
広大なラウンジの中央に、警備ロボットの残骸で作られた椅子があり、そこに少年が座っていた。
ゼクスだ。
彼は退屈そうに欠伸をし、足元のロボットの生首をサッカーボールのように蹴り飛ばした。
「遅いよ。待ちくたびれて、味方を壊しちゃったじゃん」
ゼクスがゆっくりと立ち上がる。その全身から放たれる殺気が、空気をビリビリと震わせる。
「ここから先は『パパの部屋』だ。壊れたオモチャは通さないよ」
エレナが前に出る。
「私がやる。ロイ、あなたは先へ……」
「駄目だ」
ロイがエレナの肩を掴み、強引に後ろへ投げ飛ばした。
「お前の『予測』じゃ、相性が悪すぎる。またボコボコにされるだけだ」
「でも、あなたの機体スペックじゃ勝てない!彼は第2世代よ!?」
ロイは背を向けたまま、ニカっと笑った。
「スペック?関係ねえよ。……俺は、惚れた女のためなら神様だって殴り倒す男だ」
彼はエレナを非常階段の奥へと押しやり、隔壁の閉鎖スイッチを撃ち抜いた。 ガゴンッ、と壁が降りる。
「ロイ!!」
エレナの悲痛な叫びが遮断された。
3
ラウンジに残されたのは、男二人。
ゼクスはケラケラと笑った。
「へえ、英雄気取り?カッコいいねえ。でもさ、第1世代のガラクタが僕に勝てるわけないじゃん」
ロイは無言で拳銃を抜いた。
《シナプス・オーバードライブ(通常起動)》。
昨日、ゼクスを退けた神速の反応速度。ロイはゼクスの初動に合わせて発砲し、同時に死角へ回り込む。
勝てる。この速度なら――。
ガシッ。
乾いた音が響いた。
ロイの動きが止まる。いや、止められたのだ。
回り込んだはずのロイの首を、ゼクスの手が正確に掴んでいた。
「……は?」
「遅いよ、おじさん」
ゼクスが退屈そうに欠伸をする。
「その動き、昨日見たもん。学習したよ。……**最新鋭(セカンド)**の演算能力、舐めないでよね」
ドゴォッ!
ゼクスの膝蹴りが、ロイの鳩尾に突き刺さる。
ロイはボールのように吹き飛び、壁に叩きつけられた。全身の骨が軋む音がする。
通用しない。
昨日は「初見の奇襲」で通じただけだ。学習した格上の怪物には、第1世代の通常スペックでは手も足も出ない。
「終わり?つまんないの」
ゼクスがドリルアームを回転させ、迫ってくる。絶体絶命。
(……ああ、確かに速え。バケモンだ)
視界が霞む。警告音が鳴り止まない。
だが、倒れ伏したロイの瞳から、光は消えていなかった。
(思考で追うな。目で見るな。……神経(シナプス)を焼き切れ)
ロイは震える手で、義手のセーフティを弾き飛ばした。
「……リミッター、解除」
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ロイの義手から、ジェット噴射のような蒸気が噴き出した。
全身の駆動音が、悲鳴のような甲高い音へと変わる。
《シナプス・オーバードライブ・レッドゾーン》
それは、機体の耐久限界を無視し、神経伝達速度を物理的限界まで強制加速させる自滅技。
筋肉繊維が断裂し、血管が破裂する激痛。脳が焼き切れる寸前の負荷。
だが、ロイの感覚は引き伸ばされた「永遠の一瞬」の中にあった。
「死ねよ、ゴミ!」
ゼクスが加速する。さっきロイを捕らえた速度だ。
――だが、今のロイには、それが「止まって」見えた。
ドゴォッ!
衝撃が走ったのは、ゼクスの顔面だった。
ロイの拳が、ゼクスの認識できない速度でカウンターを叩き込んでいたのだ。
「ぶべっ!?……な、んだと!?」
ゼクスが吹っ飛ぶ。
ありえない。学習したはずだ。予測したはずだ。
だが、ロイの速度はその「学習データ」を遥かに凌駕していた。
「理屈なんざ知らねえよ……」
全身から血とオイルを霧のように噴き出しながら、ロイがゆらりと立つ。 その姿は、ボロボロだが、誰よりも速い鬼神だった。
「テメェが学習するより速く動けば、当たるんだよ!」
5
「ふ、ふざけるな……!僕を誰だと思ってる!」
ゼクスが激昂した。プライドを傷つけられた怪物が吠える。
彼の全身の放熱端子が赤熱し、周囲の空間すら歪むほどのエネルギーが膨れ上がる。
「消えろぉぉぉッ!!」
ゼクスは全方位への無差別攻撃、**《カオス・ブラスト》**を放ちながら突っ込んできた。
回避不能の質量攻撃。
だが、ロイは一歩も引かなかった。
逃げれば死ぬ。ならば――前に出るしかない。
(エレナ。……後は頼んだぜ)
ロイは真正面から突っ込んだ。
ゼクスのドリルが、ロイの右腕を根元からねじ切り、脇腹を貫通する。
致命傷。
だが、その痛みすら、今のロイにはただの信号だ。
肉を断たせて、骨を断つ。
密着状態。ゼクスの胸部コアが目の前にある。
「チェックメイトだ、クソガキ」
残された左腕のパイルバンカー(杭打ち機)が、ゼロ距離で火を噴いた。
ズドンッ!!
巨大な杭が、ゼクスのコアを貫き、背中まで突き抜けた。
6
時が止まった。
ゼクスの瞳から光が消える。
「うそ、だ……。僕が、旧型に……?」
彼の体は糸が切れたように崩れ落ち、動かなくなった。
ロイもまた、膝をついた。
勝利の代償は大きすぎた。右腕喪失、内臓破損、そして神経系の焼き切れによる全身麻痺。
視界がブラックアウトしていく。
その時、通信機が震えた。
『ロイ!無事なの!?返事をして!』
エレナの声だ。
ロイは激痛を堪え、血の泡を吐き出しながら、いつもの軽薄な口調を作った。
「……ああ。片付いたぜ。ちょいと手こずったがな」
『よかった……!今すぐ戻って――』
「来るな!」
ロイは叫んだ。そして、声を和らげる。
「……少し、休憩してから行く。お前は先に行け。ヴィンセントを待たせるな」
『……分かった。待ってるからね』
通信が切れる。
ロイは仰向けに倒れ込んだ。天井の照明が眩しい。
震える左手で、懐から潰れたタバコの箱を取り出す。一本くわえたが、ライターを擦る握力すら残っていなかった。
「……へっ、ダサいねえ」
彼はタバコを吐き出し、静かに目を閉じた。
「行けよ、エレナ。……お前はもう、一人で歩けるさ」
野良犬の咆哮は止んだ。しかし、その命懸けの道は、最上階へと繋がった。
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アイボリー・タワー最上階。
巨大な扉を、エレナは蹴り破った。
広がるのは、全面ガラス張りの執務室。眼下には煌めく夜景。
そして、部屋の中央にはヴィンセントが立っていた。
彼の背後には、奪われた母艦「アーク」が接続され、禍々しいエネルギーを供給している。
「素晴らしい」
ヴィンセントはワイングラスを傾けた。
「あのゼクスを退けるとはね。……だが、君の騎士(ナイト)はもう動けないようだ」
モニターに映し出された、倒れているロイの姿。
エレナの胸に、かつてないほどの怒りと、そして静かな決意が満ちた。
「ええ。……ここからは、私とあなたの時間」
エレナは構えた。
「ヴィンセント、全てを終わらせに来たわ」
最終決戦の幕が上がる。
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