僕しかいない。

紺色橙

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おまけ

いつも

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-いつも- ムラサキ

 嬉しいのは彼のいつもを知れること。

 下を向いて笑うのは、彼がまだ距離の近くない「他人だ」「外の人間だ」と思っている人への笑い方。愛想笑いではないけれど、人の顔を直視できない頃の笑い方。
 
 定番商品の新味を知っていて候補に入れるのに、滅多に買わない。
 躊躇った末に買わなかったそれを僕が買ってくれば、彼は嬉しそうに笑ってそれを食べる。
 それが美味しくてもイマイチでも、こんな味なんだなってたわいのない話。
 あまり馴染みのないものに手は出さない。
 今では彼に聞かずとも、こっちが好きだろうなというものがわかるようになった。

 蛍光色が差し色になっているものが好き。
 全面になっているより差し色になっているものをつい手に取ってしまうんだと、自覚している彼は言う。

 風邪をひいた時、熱が出やすい。
 熱いとか寒いとかがよく変わり、僕は心配で嫌がられるのに彼の傍に寄る。
 マスクをさせて自分もして、加湿器を付け、布団ごと彼を抱きしめれば申し訳なさそうな彼はほっとしたように目を閉じる。
 でも2.3日は一緒に寝てくれない。いつもはシーツすらつけていないベッドをその時だけ働かせる。

 イベントは結構好き。
 クリスマスとかハロウィンとか、ひな祭りとか。そういう空気が好き。
 クリスマスの時に聞いてみたら、彼曰く「これを楽しみにしてる人がいて、盛り上げようとしてる空気が好き」と言っていた。
 だからうちでは2年目にクリスマスツリーを買った。
 150cmの組み立てツリーに、100円ショップや雑貨屋さんで目にした飾りを付ける。
 電飾はいろんな色に光るのがいいと希望されて、昔ながらのツリーの出来上がり。

 彼はたまにとっても辛いものが食べたくなる。
 だからうちにはカレーの辛さを足す粉がある。
 本気で辛い物は外で買うと食べきれないから、辛い物を買うとしたら持ち帰り。
 例えばフライドチキンの辛い物とか、彼は一つ食べたら舌を水で冷やしている。

 料理はかなり目分量。
 最初は大匙や小匙を使っていたけど、きっちり注視するなんてことはしていない。
 結果としてちゃんとできているから問題ないだろうと僕も思う。僕らの食べるものだしね。

 寝る時には仰向けよりも横向きが多い。
 必然僕は彼を後ろから抱きしめる形になる。体が密着して気持ちがいい。特に冬は暖かくて、彼もそれが好きみたい。
 そうしているといたずらしたくなり、体が反応してしまうことがままあるけども、余裕があれば彼は笑って受け入れてくれる。

 家にいる時のスキンシップは、全く嫌がらない。
 ポットがお湯を沸かすのを待ってるときに抱き付くのも、当然のように彼の後ろに座るのも。
 でも家の外では嫌がる。
 見られるのが恥ずかしいというよりも『他人の目があるところでそういうことを平然としている様』が嫌らしい。
 じゃあ深夜全く人気のない帰り道にキスしたら怒らない? と聞けば、想像したのか唸りつつも「まぁ多分」と曖昧に答えられた。今のところ試してはいない。

 基本的にはお風呂をめんどくさがり億劫そうに入るけど、甘えてくる時はさっさとお風呂に入っているからわかりやすい。
 湯船につかると毎度寝かけてしまうという。

 行為の最中、声を抑えるために腕で口を覆ってしまう。
 僕はもっと彼の声が聴きたくてそれをやめて欲しかったけど、気持ち良くなってもうすぐ達しそうだとなれば自然と彼の黒い瞳は僕をとらえ、その腕は僕を求めてくれる。
 抑えられていた声がすぐ近くで漏らされるのはとっても心地がいい。
 胸の突起をひっかくようにされるのが好き。
 僕が彼の名前を呼ぶのも、好きみたい。

 僕の方が早く、彼がまだ朝起きていないときは、寝ている彼にキスをして静かに家を出る。
 彼は腕を伸ばし僕をポンっと叩いて、そのまま眠ってしまう。
 あれは起きているのかな?

 いつも家では彼が何か曲を流している。
 それは彼自身も知らないBGM集だったり、最近好きなアーティストのMVだったり様々だ。
 それをただ流していたり、口ずさんでいたりする。

 リビングに置いた彼のパソコン。
 以前はヘッドホンをしていただろうけど、僕がいる時はスピーカーで音を聞いている。ゲームをして彼の友人と会話をしている時もそう。
 引っ越してすぐ。彼はその人たちに僕のことを話した。だから僕が彼らの会話を聞いていることは知られている。
 ヘッドホンじゃないと細かい音が聞こえないのでは? と彼に聞いたことがある。優弥君は「まぁそうだけど、ムラサキが起きてるときはこれでいいよ」と答えた。
 僕が寝ている時なら静かにしているけど、起きている時は僕の声が聞こえるようにとのことらしい。
 だから僕は彼の隣に新しく買った椅子を置いて、その様子を見ている。

 ホラーゲームの実況を見ながら、実況者と同じように声を上げて驚く彼。
 驚いた後に僕を見つつ、驚いた自分自身に笑っているのを見ると、なんだかとってもここで一緒に暮らしている実感がわいた。
 

 色んな彼のいつもを知れるようになった。
 最初一つだけ見つけていた彼の癖と好きは、今ではもっとたくさんのいつもになった。
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