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第一章 宮田颯の話
1-14 番
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恥ずかしい話の続きを寝る前の通話でした。
対面よりかは幾分かマシだろうと思ったが、はっきり言わないとニュアンスが伝わりづらいからむしろ恥ずかしくなるだけだった。
「ご両親に見られるのが心配なら僕の家で」と上条は言った。
それに、「少し試してほしいことがある」とも。内容は伝えてくれなかったけれど大したことではないらしい。
相手の家での初めてのセックスより大したことは、おそらくあまりないだろう。
翌朝の送迎車の中は酷いものだった。
乗り込んだ時には車内に立ち込める上条の匂いが今までよりも強くて、慌てて窓を全開にした。
一瞬で脳みそが溶けるような身体の疼きに身震いし、学校に行く前にまた発情期でも迎えてしまうんじゃないかと怖くなったほどだ。
学校に着くまでの数分間気合を入れていたものだから少し疲れた。
「最近仲いいなぁ」
探るように日暮に言われる。
「まぁ」と曖昧に返す。
日暮はアルファの上条にオメガの俺が反応しまくっていたのをすぐ間近で見ていたし、言ってしまったほうが楽なのかもしれないと思う。
でもあのアルファとくっつきますって言うのはイコールセックスしますって言うことで、なかなかどうにも、言い難い。
どうせ察しているのだろうからほうっておこう。
健全平凡ベータの日暮君ならわかってくれるはず。
「日暮、バスケ部順調? 文化祭のやつ」
「たこ焼きとお好み焼きだから準備ってほどねーしなぁ」
「看板くらい?」
「そーそー。たこ焼き器もってるやつが3人いたからそれと、ホットプレートも数人いたから3つかな、持ってくるって感じで」
「粉もん屋だなぁ」
「俺がやってる時ならおまけしよか」
「タイミングが合えばな」
影響のないところから文化祭の準備は始まる。
例えば階段一段ずつにクラスと出し物が書かれた紙が貼られたり、体育館の舞台上で校門に置く看板が作られたり。
徐々に華やかになっていく校内で通常授業が行われる。集中力は欠かれ生徒たちは他所見も多い。
高校生の出し物だ。演劇や軽音ならまだしも、ほとんどが食い物。
一日中食べ歩きでもしていようか。それとも一応軽音やらを見て回ろうか。
上条は、一緒に来たがると思う。
少し心配だ。
もし俺と一緒にふらふら回るというなら、俺だけでなくもしかしたら発情期中の違うオメガにも影響してしまうかもしれない。
自分がまだ周期ではないからって考えていなかった問題が浮かび上がる。
俺にくっつかれて俺の頭がおかしくなるのは大問題だが、アルファとして他のオメガに影響してしまうのも良くない。
良くないというかあまり、見たくない。
でもあいつが悪いわけでもなく、アルファというものはそういうもので、オメガというのもそういうものだ。
たとえ運命の番でなくともアルファのフェロモンにオメガは反応するし、逆も然り。
この学校にいるはずのないアルファだ。予期せぬ事態が起こらないとは言い切れない。
俺ではなく他の人に襲い掛かってしまうという事態が、起こらないとは言い切れない。
「だから、文化祭の時薬飲んどけよ」
運命の番だと告げられた屋上手前の場所で、距離を取って話す。
教室では言い難いし、閉じこもっているわけではないからそこまでの心配も要らない。
俺の不安を聞き上条は素直に頷いた。
「そうだね。迷惑はかけられないし」
そうだ、とひらめいたように続けられる。
「先にきちんと、颯君と番になっておくのはどうかな」
「それって」
上条は口を開けて、カプリと噛む真似をした。
答えられずに目をそらす。
番というのは、アルファがオメガの首筋を噛むことで二人の間に繋がりが出来ることを言う。
番になればそのアルファの影響は強まり、逆に他のアルファからの影響は弱まると言われている。
そうなれば俺たちは無差別にアルファというものを怖がらなくてよくなり、薬を飲む必要もなくなる。
服薬をやめればオメガの生殖能力も抑えられなくなるが、今までずっと服薬していたものだから、やはりオスの身体のオメガでは滅多に子を産むには至れないのだという。
もし最初から一切服薬せず過ごしたという男オメガがいたら、その人はメスの身体と同等の生殖能力を持ち合わせるのかもしれない。
そんなの聞いたことが無いけれど。
試すにしても人権無視の人体実験でしかない。さすがに、その研究は行われていないと思う。
だって、研究中のオメガはひたすらにアルファの種を欲しいと望む本能に苦しむことになる。相手されるわけでもないのにそれでも身体はアルファを求める。犯して欲しいと。
怖い想像はやめよう。
運命だというのなら、早く番になってしまう方が上条にとっても都合はいいかもしれない。
あれ、でも、アルファのフェロモンは減るのか?
「番になった場合僕が他の人を襲わなくなるか?」
「違う。他のオメガがお前のフェロモンに惑わされないのか」
「弱まる、らしいけどね」
「無くなりはしないのか」
それだったらオメガの多いところでは絶対にアルファは住めない。
「そもそも番のオメガが他のアルファの影響を受けなくなるのは、アルファが噛む、要するに傷つける形でオメガの身体に入り込むかららしいよ」
乗っとるみたいだね、とおっかないことを言う。
「セックスして噛んで、刻み込むんだ。お前は俺のものだって」
「洗脳みたい」
「身体だけの話ではないのかもしれないね。発情期に僕らが反応してしまうのも本能だから」
「そういうものだって決まっていると?」
「そう。理性ではあらがえない、そういうものだと」
やっぱりどうにも、人間というよりオメガは獣に近いなと思う。
「フェロモンというのは縄張りを示したり自分を誇示するもので、オメガを守らないといけないアルファから無くなることはない」
「じゃあお前と番になってもお前は、他の人襲うじゃん」
「抑制剤を毎日飲みます」
「抑制された状態で俺に対して勃つの?」
「勃たせます」
気合の話ではない。
「番になったアルファは既に自分にとって大事なものを手にしているから、他のオメガには惑わされなくなるとは聞くけど」
「へぇ」
「残念ながら人によるかな」
浮気者はいくらでもいるということだ。
「じゃあやっぱり」
「僕は颯君しか要らない。本能だって理性で押さえつける」
初めて会った時、実際にこいつは抑制剤を飲んでいたとしても発情期の俺のすぐ近くまで来た。でも何もなかった。
多少は信用できる気はする。
「理性が働くなら運命とやらの俺をここまで探しに来てないんじゃね」
少し意地悪な言い方。
「理性だよ。理性でもって僕は君を探した。父を説得して、ここまできた」
「前本能だから仕方ないとか言わなかったか?」
「言いましたかね? 僕に理性が無かったら、君に会えた瞬間に噛みついてる」
自分が、こいつにとっての唯一であってほしいと思ってしまう。
優秀なアルファ様というものは、世界からしてみれば一夫多妻の方が良いだろう。
ましてや子供をまともに作れもしないオスのオメガなんかが相手ではこいつは到底……。
俺なんかと番わずに、離れてやる方がいいのだろうと思う。
父親に止められたようだし、アルファ女性の相手だって用意されていたのかもしれない。
でも理性的でない俺は、会った瞬間に噛みつきたかったという上条の発言に喜んでしまう。
こいつのものにして欲しいと、どうしたって望んでしまう。
「上条の家に行っていい時あったら、教えて」
「今日にでも」
零れた言葉は、詰められた距離に承諾された。
対面よりかは幾分かマシだろうと思ったが、はっきり言わないとニュアンスが伝わりづらいからむしろ恥ずかしくなるだけだった。
「ご両親に見られるのが心配なら僕の家で」と上条は言った。
それに、「少し試してほしいことがある」とも。内容は伝えてくれなかったけれど大したことではないらしい。
相手の家での初めてのセックスより大したことは、おそらくあまりないだろう。
翌朝の送迎車の中は酷いものだった。
乗り込んだ時には車内に立ち込める上条の匂いが今までよりも強くて、慌てて窓を全開にした。
一瞬で脳みそが溶けるような身体の疼きに身震いし、学校に行く前にまた発情期でも迎えてしまうんじゃないかと怖くなったほどだ。
学校に着くまでの数分間気合を入れていたものだから少し疲れた。
「最近仲いいなぁ」
探るように日暮に言われる。
「まぁ」と曖昧に返す。
日暮はアルファの上条にオメガの俺が反応しまくっていたのをすぐ間近で見ていたし、言ってしまったほうが楽なのかもしれないと思う。
でもあのアルファとくっつきますって言うのはイコールセックスしますって言うことで、なかなかどうにも、言い難い。
どうせ察しているのだろうからほうっておこう。
健全平凡ベータの日暮君ならわかってくれるはず。
「日暮、バスケ部順調? 文化祭のやつ」
「たこ焼きとお好み焼きだから準備ってほどねーしなぁ」
「看板くらい?」
「そーそー。たこ焼き器もってるやつが3人いたからそれと、ホットプレートも数人いたから3つかな、持ってくるって感じで」
「粉もん屋だなぁ」
「俺がやってる時ならおまけしよか」
「タイミングが合えばな」
影響のないところから文化祭の準備は始まる。
例えば階段一段ずつにクラスと出し物が書かれた紙が貼られたり、体育館の舞台上で校門に置く看板が作られたり。
徐々に華やかになっていく校内で通常授業が行われる。集中力は欠かれ生徒たちは他所見も多い。
高校生の出し物だ。演劇や軽音ならまだしも、ほとんどが食い物。
一日中食べ歩きでもしていようか。それとも一応軽音やらを見て回ろうか。
上条は、一緒に来たがると思う。
少し心配だ。
もし俺と一緒にふらふら回るというなら、俺だけでなくもしかしたら発情期中の違うオメガにも影響してしまうかもしれない。
自分がまだ周期ではないからって考えていなかった問題が浮かび上がる。
俺にくっつかれて俺の頭がおかしくなるのは大問題だが、アルファとして他のオメガに影響してしまうのも良くない。
良くないというかあまり、見たくない。
でもあいつが悪いわけでもなく、アルファというものはそういうもので、オメガというのもそういうものだ。
たとえ運命の番でなくともアルファのフェロモンにオメガは反応するし、逆も然り。
この学校にいるはずのないアルファだ。予期せぬ事態が起こらないとは言い切れない。
俺ではなく他の人に襲い掛かってしまうという事態が、起こらないとは言い切れない。
「だから、文化祭の時薬飲んどけよ」
運命の番だと告げられた屋上手前の場所で、距離を取って話す。
教室では言い難いし、閉じこもっているわけではないからそこまでの心配も要らない。
俺の不安を聞き上条は素直に頷いた。
「そうだね。迷惑はかけられないし」
そうだ、とひらめいたように続けられる。
「先にきちんと、颯君と番になっておくのはどうかな」
「それって」
上条は口を開けて、カプリと噛む真似をした。
答えられずに目をそらす。
番というのは、アルファがオメガの首筋を噛むことで二人の間に繋がりが出来ることを言う。
番になればそのアルファの影響は強まり、逆に他のアルファからの影響は弱まると言われている。
そうなれば俺たちは無差別にアルファというものを怖がらなくてよくなり、薬を飲む必要もなくなる。
服薬をやめればオメガの生殖能力も抑えられなくなるが、今までずっと服薬していたものだから、やはりオスの身体のオメガでは滅多に子を産むには至れないのだという。
もし最初から一切服薬せず過ごしたという男オメガがいたら、その人はメスの身体と同等の生殖能力を持ち合わせるのかもしれない。
そんなの聞いたことが無いけれど。
試すにしても人権無視の人体実験でしかない。さすがに、その研究は行われていないと思う。
だって、研究中のオメガはひたすらにアルファの種を欲しいと望む本能に苦しむことになる。相手されるわけでもないのにそれでも身体はアルファを求める。犯して欲しいと。
怖い想像はやめよう。
運命だというのなら、早く番になってしまう方が上条にとっても都合はいいかもしれない。
あれ、でも、アルファのフェロモンは減るのか?
「番になった場合僕が他の人を襲わなくなるか?」
「違う。他のオメガがお前のフェロモンに惑わされないのか」
「弱まる、らしいけどね」
「無くなりはしないのか」
それだったらオメガの多いところでは絶対にアルファは住めない。
「そもそも番のオメガが他のアルファの影響を受けなくなるのは、アルファが噛む、要するに傷つける形でオメガの身体に入り込むかららしいよ」
乗っとるみたいだね、とおっかないことを言う。
「セックスして噛んで、刻み込むんだ。お前は俺のものだって」
「洗脳みたい」
「身体だけの話ではないのかもしれないね。発情期に僕らが反応してしまうのも本能だから」
「そういうものだって決まっていると?」
「そう。理性ではあらがえない、そういうものだと」
やっぱりどうにも、人間というよりオメガは獣に近いなと思う。
「フェロモンというのは縄張りを示したり自分を誇示するもので、オメガを守らないといけないアルファから無くなることはない」
「じゃあお前と番になってもお前は、他の人襲うじゃん」
「抑制剤を毎日飲みます」
「抑制された状態で俺に対して勃つの?」
「勃たせます」
気合の話ではない。
「番になったアルファは既に自分にとって大事なものを手にしているから、他のオメガには惑わされなくなるとは聞くけど」
「へぇ」
「残念ながら人によるかな」
浮気者はいくらでもいるということだ。
「じゃあやっぱり」
「僕は颯君しか要らない。本能だって理性で押さえつける」
初めて会った時、実際にこいつは抑制剤を飲んでいたとしても発情期の俺のすぐ近くまで来た。でも何もなかった。
多少は信用できる気はする。
「理性が働くなら運命とやらの俺をここまで探しに来てないんじゃね」
少し意地悪な言い方。
「理性だよ。理性でもって僕は君を探した。父を説得して、ここまできた」
「前本能だから仕方ないとか言わなかったか?」
「言いましたかね? 僕に理性が無かったら、君に会えた瞬間に噛みついてる」
自分が、こいつにとっての唯一であってほしいと思ってしまう。
優秀なアルファ様というものは、世界からしてみれば一夫多妻の方が良いだろう。
ましてや子供をまともに作れもしないオスのオメガなんかが相手ではこいつは到底……。
俺なんかと番わずに、離れてやる方がいいのだろうと思う。
父親に止められたようだし、アルファ女性の相手だって用意されていたのかもしれない。
でも理性的でない俺は、会った瞬間に噛みつきたかったという上条の発言に喜んでしまう。
こいつのものにして欲しいと、どうしたって望んでしまう。
「上条の家に行っていい時あったら、教えて」
「今日にでも」
零れた言葉は、詰められた距離に承諾された。
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