それは愛か本能か

紺色橙

文字の大きさ
26 / 36
第二章 上条真也の話

2-4 チャット*

しおりを挟む
 颯君にそれを渡してみると、彼は少し考えてからオメガのサイトを開いた。
 一番最初に桃を見つけたというチャットを開く。
「ここ、パスワードが設定できるんだ」
 最初に桃と出逢った時は、しばらくここでやり取りをしていたのだという。
 自分の顔や名前を公開することはオメガにとってとても怖いことで、このサイト自体匿名性であった。
 それが颯君と桃は仲良くなり、もっと個人的な端末通話へと移った。
「この時間にここに来いってことかな」
 日付は明日、土曜日の18時だ。
「明日朝、迎えに来ます」
「うん」
 これしかない。
 これを知らせるためと理由付けて颯君に会いに来て、明日の朝から彼の時間を貰おうと思っている。
 わざわざ土曜日を設定してきたのはこちらに合わせてのことだと思う。
 桃とエイプリル氏が今どこにいるのかわからないが、桃が元々日本で颯君と仲良くしていたことが伝わっているのなら、あえて時間を作りやすいだろうと土曜日が設定されたはずだ。

 明日になれば結果がわかる。
 それに安堵した。
 もう間違いないだろう。
 颯君が桃との一番初めの出会いまで覚えていたことに嫉妬と渦巻くものがあるが、仕方がない。


***


 ぐちゅぐちゅと水音が広がる。
「、っ真也」
 僕のことを名前で呼んでくれるようになった颯君の中は熱く僕に絡みつく。
 電気をつけずとも空は高く明るい。
「あっあ……んんっ」
 朝迎えに行ったとき、颯君はそんな気分じゃないよと言った。
 でも僕のわがままで彼の身体を開き、朝からずっと肌を重ねている。
「いいにおいする」
 無意識のような、彼の甘えた喋り方。
 薄く開かれ閉じられぬ唇に舌を入れて口内を探る。
「ふふ」
 彼は僕を拒絶せず、舌先を絡めれば可愛らしい笑い声が漏れた。
 足を折り曲げ深く硬いモノを出し入れすれば、体勢は辛いだろうに文句も言わず嬌声を上げる。
 何度しても足りない。
 可愛い可愛い僕の番は、僕を突き放そうとはしない。
「ぁ、また……」
 どろどろと彼の先端から精が漏れ出る。
 彼の腹に垂れたそれを指先で掬い舐めとった。
 彼の匂い、彼の味。
 中は締め付けられ、僕の射精を促してくる。
 いったばかりの颯君の奥まで擦りつけ、甘い喘ぎを受け取る。
「もぉ、むり」
「まだ」
 開きっぱなしの唇から僕の唾液を入れ、彼のモノを手で刺激する。
 後ろも、前も、同時に攻めてやればまた彼は背中を反らし少ないものを出した。
 この体の隅々まで僕を刻み込まなければならない。
 気持ちよさに主導権を取られそうになるけれど、あと一歩のところで踏みとどまる。
 母を求める子のように伸ばされる手を取り繋ぐ。
「しんやぁ」
 可愛く僕を呼ぶ声に返事をする。
「颯君。もっと、ずっとね」
 休みなく繰り返される行為。
 僕は夕方を恐れていた。



 まもなく約束の時間。
 僕の体液塗れの颯君の身体を抱きしめ、約束のサイトを開く。
「やりすぎ」
 怒る声は力ない。
「パスワードを入れて」
 彼の後ろに回り一緒に画面を覗く。
 身体を拭いてあげる振りをしてまた彼の体を触る。
「だめだっての」
 怖かった。
 今から出てくるであろう桃という人物が、颯君を連れて行ってしまうんじゃないかと怖かった。
「入れていい?」
「何言ってんの」
「繋がっていたい」
 颯君の腰を持ち上げ、僕の上に座らせる。
 前のめりになった彼は端末を手にしていない手をベッドにつき体を支えた。
「ちょ、しんや」
 腰を突き上げてやれば口では否定しつつも穴は僕を締め付ける。
 望まれていると感じた。
「動くなっての」
 動くなと言われた。でも抜けとは言われていない。
 彼に入ったまま、彼を抱きかかえ壁に寄り掛かる。
「んんっ」
 移動の際にいい所に当たったのか、可愛い声が上がる。
 彼から溢れ出る匂いが部屋には充満し、僕を包んでいた。
「あ、桃」
 颯君の口から出た言葉に、胸がギュッと抑え付けられる気がした。
 僕の上で彼は文字を打ち、そして笑った。
「桃だ。生きてた」
 どす黒い嫉妬が渦巻く。
 どうしようもないほどに、僕はそれに支配されてしまう。
 今すぐその端末を取り上げて壊してしまいたい。
 僕だけの番なのに、桃なんていなければいい。死んでいたらよかったのに。
 嬉しそうな颯君の腕を後に引き突き上げる。
「ぁ、真也ダメだって」
 崩れそうな身体を支え腰骨を撫でる。
「颯君は僕のだ」
「そだよ。わかってるって」
 何度も何度も、もうわかりきっている彼の良いところを攻める。
 身体と共に端末は揺れ、映し出される小さな文字を追うことはできない。それでも彼の目はそれを見ようとしていた。
 僕のところに戻ってきて、そう願う。
「やだ、しんや、やだ」
 颯君は端末をぎゅっと握りしめ、耐えていた。
「ね、ほら、みて? ……あ、――」
 首筋に噛みつけば、颯君は体を震わせまた達したようだった。
 彼が達するのと同時にぐにぐにと動く体内に射精し、そのまま端末を覗き見た。
「桃、運命の人といるってある」
 顔も見えず声も聞こえない文字チャットでは、本当に相手が桃なのかはわからない。
 けれど颯君はやり取りを喜んだ。
「今隣にいるって。凄い嫉妬深いから、ずっと連絡できなかったって」
 読み上げてくれるそれに笑ってしまった。
 桃の相手のアルファは僕と同じらしい。
「今度から隣にいる時ならまた、前みたいに通話できるって」
「それ、僕も同席するよ」
「真也も?」
 嫉妬深さなら負けない。桃に奪われたくない。彼らが何を話しているのか、その時颯君はどんな顔をしているのか見ていたい。
 僕以外の奴が、僕の知らない颯君を知ってることは許されない。
「お互い大変だねぇ、だって」
 颯君が嬉しそうに笑うから、僕は先ほどの噛み傷を再び口に含んだ。



[2章、上条の話。おわり]
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

【運命】に捨てられ捨てたΩ

あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

αが離してくれない

雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。 Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。 でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。 これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

さかなのみるゆめ

ruki
BL
発情期時の事故で子供を産むことが出来なくなったオメガの佐奈はその時のアルファの相手、智明と一緒に暮らすことになった。常に優しくて穏やかな智明のことを好きになってしまった佐奈は、その時初めて智明が自分を好きではないことに気づく。佐奈の身体を傷つけてしまった責任を取るために一緒にいる智明の優しさに佐奈はいつしか苦しみを覚えていく。

処理中です...