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曽宮が朝起きると、スマホのアラームが鳴る10分前だった。昨夜はいつもより早い時間だったが、酔いつぶれてしまったせいか頭が痛い。シャワーでも浴びてすっきりしようと思い起き上がる。
「田中さん・・・大丈夫だったかな」
ふと思い出して呟いた。あれからどうなったのか気になりつつ、着替えを済ませると清地とのミーティングのため外に出た。六本木通り沿いにあるカフェのテラス席にに到着すると、店内に入る。すでに清地の姿があった。こちらに気づいたようで手を振ってくるので、軽く会釈をして近づく。
「おはようございます」
「朝からよう食うなあ」
清地は曽宮のトレーの上に乗っているダブルビーフパティのハンバーガーと、たっぷりチーズのかかったフレンチフライを信じられないものを見るような目で一瞥し、声を上げる。取引先には『商談に大阪のノリ持ち込むやつ嫌いやねん』という理由で取引先には虎・・・じゃない、猫を被って『東京弁』で話す清地だったが普段の会話は京訛りが顔を出す
「あの後どないしたん?」
その質問に一瞬固まる。田中との関係は誰にも言っていないはずだ。だが、もしかしたら・・・。恐る恐る聞いてみる。
「・・・昨日って?」
「田中さん。足腰立たへんくなっとったやろ」
「ホテルが同じだったから、送っていったんです」
内心冷や汗をかきながらも平静を装って答える。
「ふーん」
清地は少し考え込む素振りを見せた後、口を開く。
「何ちゅうか、あんまりプライベートで関わらへん方がええで」
その言葉の意味を理解するのに数秒の時間を要した。つまり、自分と彼の関係を察しているということだ。しかし、それを咎めるわけでもなく、忠告してくれている。
「・・・まあ、プライベートなことですし、仕事とは分けて考えますけど」
小さく返事をすると、コーヒーに口をつける。少し冷めていて苦味が強く感じられた。
「そういうわけにはいかんやろ?上手くいかんかったら、お互い気まずくなるだけやからな」
確かにその通りだと思う。自分はまだいいとしても、田中の立場を考えると軽率な行動は慎むべきだ。それでも、彼が欲しくてたまらないという気持ちは変わらない。それは理屈ではなく本能的な欲求に近いものだった。
「そうっすね・・・」
「てか、それ、あんまりしつこう迫るとセクハラやで」
「え?」
思わず聞き返す。すると、清地は呆れたようにため息をついた。
「なんや気づいてなかったんか?うちは大企業で、向こうは協業相手の零細企業。言いたないけど、こちらの方がずっと有利な立場やねんから、その立場利用して関係迫ったらセクハラやろ」
「関係を迫ってなんてそんなことして・・・ない、と思っては、いるんですが」
昨夜田中にキスをしたこと、さらにアプリで送ったメッセージが脳裏をよぎり、語尾がどんどん覚束なくなる。
「壊したくない商談の相手から誘われたら、断りづらいやろ。田中さんの立場も考えたれ」
「まあ・・・それは・・・確かに」
「ま、俺が口出すことちゃうけどな。」
そこで言葉を切り、コーヒーを飲み干すと立ち上がった。
「ほな、また後でな」
それだけ言うとレジの方に向かって歩いて行った。一人取り残された曽宮は呆然としたまま動けないでいた。
(俺が田中さんを・・・)
今まで考えたこともなかった。いや、考えないようにしていただけかもしれない。もし、立場を笠に着て強引に迫れば、プロジェクトに支障をきたしたくない田中は自分の気持ちに応えてくれる可能性もある。だが、田中に我慢を強いることは望んでいないし、何より自分自身が耐えられないと思った。そんなことになれば、きっと二度と立ち直れない気がする。
曽宮は大きなため息をつくと、残っていたポテトを口に運んだ。すっかり冷え切ったそれは、ひどく油っこく感じられた。
不意にスマホの通知音が鳴った。
[昨日はありがとうございました]
アプリを開くと、田中からのメッセージが表示される。いつもなら、小躍りしそうなほど嬉しいのに、今日のメッセージは恐怖でしかなかった。
[明日、名古屋に帰るのでお話ししたいです。今夜空いていますか?]
ーーーー
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「田中さん・・・大丈夫だったかな」
ふと思い出して呟いた。あれからどうなったのか気になりつつ、着替えを済ませると清地とのミーティングのため外に出た。六本木通り沿いにあるカフェのテラス席にに到着すると、店内に入る。すでに清地の姿があった。こちらに気づいたようで手を振ってくるので、軽く会釈をして近づく。
「おはようございます」
「朝からよう食うなあ」
清地は曽宮のトレーの上に乗っているダブルビーフパティのハンバーガーと、たっぷりチーズのかかったフレンチフライを信じられないものを見るような目で一瞥し、声を上げる。取引先には『商談に大阪のノリ持ち込むやつ嫌いやねん』という理由で取引先には虎・・・じゃない、猫を被って『東京弁』で話す清地だったが普段の会話は京訛りが顔を出す
「あの後どないしたん?」
その質問に一瞬固まる。田中との関係は誰にも言っていないはずだ。だが、もしかしたら・・・。恐る恐る聞いてみる。
「・・・昨日って?」
「田中さん。足腰立たへんくなっとったやろ」
「ホテルが同じだったから、送っていったんです」
内心冷や汗をかきながらも平静を装って答える。
「ふーん」
清地は少し考え込む素振りを見せた後、口を開く。
「何ちゅうか、あんまりプライベートで関わらへん方がええで」
その言葉の意味を理解するのに数秒の時間を要した。つまり、自分と彼の関係を察しているということだ。しかし、それを咎めるわけでもなく、忠告してくれている。
「・・・まあ、プライベートなことですし、仕事とは分けて考えますけど」
小さく返事をすると、コーヒーに口をつける。少し冷めていて苦味が強く感じられた。
「そういうわけにはいかんやろ?上手くいかんかったら、お互い気まずくなるだけやからな」
確かにその通りだと思う。自分はまだいいとしても、田中の立場を考えると軽率な行動は慎むべきだ。それでも、彼が欲しくてたまらないという気持ちは変わらない。それは理屈ではなく本能的な欲求に近いものだった。
「そうっすね・・・」
「てか、それ、あんまりしつこう迫るとセクハラやで」
「え?」
思わず聞き返す。すると、清地は呆れたようにため息をついた。
「なんや気づいてなかったんか?うちは大企業で、向こうは協業相手の零細企業。言いたないけど、こちらの方がずっと有利な立場やねんから、その立場利用して関係迫ったらセクハラやろ」
「関係を迫ってなんてそんなことして・・・ない、と思っては、いるんですが」
昨夜田中にキスをしたこと、さらにアプリで送ったメッセージが脳裏をよぎり、語尾がどんどん覚束なくなる。
「壊したくない商談の相手から誘われたら、断りづらいやろ。田中さんの立場も考えたれ」
「まあ・・・それは・・・確かに」
「ま、俺が口出すことちゃうけどな。」
そこで言葉を切り、コーヒーを飲み干すと立ち上がった。
「ほな、また後でな」
それだけ言うとレジの方に向かって歩いて行った。一人取り残された曽宮は呆然としたまま動けないでいた。
(俺が田中さんを・・・)
今まで考えたこともなかった。いや、考えないようにしていただけかもしれない。もし、立場を笠に着て強引に迫れば、プロジェクトに支障をきたしたくない田中は自分の気持ちに応えてくれる可能性もある。だが、田中に我慢を強いることは望んでいないし、何より自分自身が耐えられないと思った。そんなことになれば、きっと二度と立ち直れない気がする。
曽宮は大きなため息をつくと、残っていたポテトを口に運んだ。すっかり冷え切ったそれは、ひどく油っこく感じられた。
不意にスマホの通知音が鳴った。
[昨日はありがとうございました]
アプリを開くと、田中からのメッセージが表示される。いつもなら、小躍りしそうなほど嬉しいのに、今日のメッセージは恐怖でしかなかった。
[明日、名古屋に帰るのでお話ししたいです。今夜空いていますか?]
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