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メッセージを送った後、田中は自室のベッドに横たわった。心臓がバクバクと音を立てているのが分かる。
まさか自分がこんなことをする日が来るとは思わなかった。しかも相手は取引先の社員だ。
携帯から社内に指示を出して、ふと気づくと夕方になっていた。慌てて身支度を整えて家を出る。向かった先は六本木にあるレストランだった。以前デートした時に使ったことのある場所だ。約束の時間にはまだ余裕があるため、先に店内に入って待つことにする。程なく入り口の方に見慣れた人物の姿を見つけた。曽宮だ。彼はこちらに気づくと驚いたような表情を見せたものの、すぐに笑顔を浮かべると向かいの席にやってきた。
「こんにちは」
挨拶を交わすとウェイターを呼んで飲み物を頼む。程なくして運ばれてきたワインに口をつけながら、他愛もない会話をしているうちに料理が運ばれてくる。食事を終えて一息つくと、タイミングを見計らって切り出した。
「あの、昨日はすみませんでした・・・」
深々と頭を下げる。
「いえ、俺の方こそ、その、すみません」
「曽宮さんが謝る理由はないでしょう?」
「いや、だって、あの時」
『キスしたから』という言葉に田中は自分の顔が赤くなるのがわかった。あの時は気分が高揚していたが、冷静になるととんでもないことをしてしまったと思う。そもそも、なぜ受け入れたのか。理由はもうわかっていた。
「曽宮さんの気が変わって・・・いなければ何ですが・・・」
田中は顔を上げると、真っ直ぐに彼の目を見つめた。その瞳にはどこか不安げな色が浮かんでいるように見える。それを見た瞬間、自然と言葉が口をついて出た。
「もしよければ、お付き合いをしてみようかなって・・・」
一瞬、時が止まったような気がした。だが、次の瞬間、心臓が爆発しそうな勢いで脈打つのが分かった。体中の血液が沸騰しているのではないかと思うほど熱い。
「すごく、嬉しいけど・・・」
次の曽宮の言葉に、田中は耳を疑った。
「それって本当に誠司さんの本心なんですか?」
「え・・・どういう意味ですか?」
予想外の反応に戸惑うことしかできない。一体どうしてそんなことを言われるのか分からなかった。
「田中さんは、共同プロジェクトを成功させたいですよね?」
「・・・へ?それは、まあ」
思わず間抜けな声が出てしまった。混乱して言葉が出ないでいると、曽宮はさらに続けた。
「立場を考えたら俺たち、恋人になるべきじゃないと思う」
「え・・・」
「ごめんなさい」
その一言に目の前が真っ暗になるのを感じた。ショックのあまり言葉が出ないでいると、続けて曽宮が言った。
「今回のプロジェクトで、かなり裁量を持たせてもらえそうで・・・田中さんの会社の命運もかかっているなら尚更、失敗するわけにはいかないから」
その言葉を聞いた瞬間、体から力が抜けていくのが分かった。つまり自分はフラれたということなのだろう。そう思うと涙が出そうになったが何とか堪えた。ここで泣いたら彼に迷惑をかけてしまう。だから、せめて笑顔でいようと心に決めた。
「わかりました。こちらこそ困らせてしまってすみませんでした」
そう言うと頭を下げる。そしてそのまま立ち上がると出口に向かって歩き出した。このままここにいても辛いだけだと思ったからだ。だが、そんな田中の腕を誰かが掴んだ。驚いて振り返るとそこには曽宮がいた。彼は何か言いたげに口を開いたものの、結局何も言わずに俯いてしまった。その様子を見て胸が苦しくなるのを感じる。これ以上この場にいるのが耐えられず、手を振り解くと逃げるように店を後にしたのだった。
まさか自分がこんなことをする日が来るとは思わなかった。しかも相手は取引先の社員だ。
携帯から社内に指示を出して、ふと気づくと夕方になっていた。慌てて身支度を整えて家を出る。向かった先は六本木にあるレストランだった。以前デートした時に使ったことのある場所だ。約束の時間にはまだ余裕があるため、先に店内に入って待つことにする。程なく入り口の方に見慣れた人物の姿を見つけた。曽宮だ。彼はこちらに気づくと驚いたような表情を見せたものの、すぐに笑顔を浮かべると向かいの席にやってきた。
「こんにちは」
挨拶を交わすとウェイターを呼んで飲み物を頼む。程なくして運ばれてきたワインに口をつけながら、他愛もない会話をしているうちに料理が運ばれてくる。食事を終えて一息つくと、タイミングを見計らって切り出した。
「あの、昨日はすみませんでした・・・」
深々と頭を下げる。
「いえ、俺の方こそ、その、すみません」
「曽宮さんが謝る理由はないでしょう?」
「いや、だって、あの時」
『キスしたから』という言葉に田中は自分の顔が赤くなるのがわかった。あの時は気分が高揚していたが、冷静になるととんでもないことをしてしまったと思う。そもそも、なぜ受け入れたのか。理由はもうわかっていた。
「曽宮さんの気が変わって・・・いなければ何ですが・・・」
田中は顔を上げると、真っ直ぐに彼の目を見つめた。その瞳にはどこか不安げな色が浮かんでいるように見える。それを見た瞬間、自然と言葉が口をついて出た。
「もしよければ、お付き合いをしてみようかなって・・・」
一瞬、時が止まったような気がした。だが、次の瞬間、心臓が爆発しそうな勢いで脈打つのが分かった。体中の血液が沸騰しているのではないかと思うほど熱い。
「すごく、嬉しいけど・・・」
次の曽宮の言葉に、田中は耳を疑った。
「それって本当に誠司さんの本心なんですか?」
「え・・・どういう意味ですか?」
予想外の反応に戸惑うことしかできない。一体どうしてそんなことを言われるのか分からなかった。
「田中さんは、共同プロジェクトを成功させたいですよね?」
「・・・へ?それは、まあ」
思わず間抜けな声が出てしまった。混乱して言葉が出ないでいると、曽宮はさらに続けた。
「立場を考えたら俺たち、恋人になるべきじゃないと思う」
「え・・・」
「ごめんなさい」
その一言に目の前が真っ暗になるのを感じた。ショックのあまり言葉が出ないでいると、続けて曽宮が言った。
「今回のプロジェクトで、かなり裁量を持たせてもらえそうで・・・田中さんの会社の命運もかかっているなら尚更、失敗するわけにはいかないから」
その言葉を聞いた瞬間、体から力が抜けていくのが分かった。つまり自分はフラれたということなのだろう。そう思うと涙が出そうになったが何とか堪えた。ここで泣いたら彼に迷惑をかけてしまう。だから、せめて笑顔でいようと心に決めた。
「わかりました。こちらこそ困らせてしまってすみませんでした」
そう言うと頭を下げる。そしてそのまま立ち上がると出口に向かって歩き出した。このままここにいても辛いだけだと思ったからだ。だが、そんな田中の腕を誰かが掴んだ。驚いて振り返るとそこには曽宮がいた。彼は何か言いたげに口を開いたものの、結局何も言わずに俯いてしまった。その様子を見て胸が苦しくなるのを感じる。これ以上この場にいるのが耐えられず、手を振り解くと逃げるように店を後にしたのだった。
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