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煮卵

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「で、久しぶりにうちの店に顔を出したと思ったらやけ酒を飲みにきたわけか」
カウンター席に座りながら項垂れている田中を見ながら石崎は苦笑いを浮かべていた。石崎は懇意にしているバーの店主で男装の麗人だ。
「それにしても、お前にしては珍しいな。いつもならすぐに切り替えて次に行くだろう?」
切長の瞳が細められる。
「そうなんですけどね・・・。今回はちょっと違うというかなんというか・・・」
煮え切らない返事に首を傾げると、田中はグラスに残っていたワインを一気に飲み干した。どうやら相当まいっているようだ。
「そもそも、何がいけなかったのかなって。向こうも自分に好意を持ってくれていたのに」
そう言って大きなため息をつく。よほどショックだったのだろう。普段なら絶対に口にしないであろう愚痴までこぼし始めた。
「アドバイスが欲しい?」
「ええ、すごく」
「甘めと辛口目どっちがいい?」
「甘めでお願いします」
即答する田中に頷くと、冷蔵庫からチーズを取り出す。それを皿に盛りつけて出すと、田中の前に差し出した。
「まず、お前が先に、お相手に惹かれていたのに、タイミングが悪くて恋人になるのは断ったんだよな?」
その言葉に田中がうなづく
「なのに、相手がタイミングが悪くて恋人になれないのを責めるのか?」
すると田中は驚いたように目を見開いた後、バツが悪そうに視線をそらすと言った。
「確かにそうですね・・・」
「そもそも、お前は相手にちゃんと気持ちを伝えたのか?」
その問いかけに田中は黙ってしまった。「向こうが望んでいるから」「付き合ってもいい」というのはあまりにも傲慢だったかもしれない。
「まずはそこからだな」
「でも、今更何を言えばいいんですかね・・・」
「そうだなあ、とりあえず謝ってみたらどうだ?あと、自分の気持ちを伝えるとか?」
「謝ったところで、許してくれるかどうかわからないしなあ・・・」
そう言いながら頭を抱え込む姿に苦笑を浮かべると、再び口を開く。
「まあ、そこはお前の頑張り次第だな」
頑張れよとポンと肩を叩かれた。
バーの外に出て田中はスマホを取り出して、曽宮にメッセージを送ろうとアプリを開いた。
曽宮は既にアプリを退会していた。

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