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一体何だというのでしょうか…

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「は、話というのは、その…婚約破棄の事で…」
「その事でしたら先日、王家から通達を受け取りました」
「あ、ああ、そうか…」

 なんとも歯切れの悪い殿下ですが、どうしたというのでしょうか。先ほどから視線は彷徨っていますし、何かを言いかけては止めるのを繰り返していますが…もう先生がいらっしゃる時間ですし、クラスメイトどころか隣のクラスの生徒まで何事かとこちらを覗き込んでいます。もう婚約者ではないのですし、こんな形で注目されたくないのですけど。

「レティ…」
「皆さん!もう授業が始まるのに何をしているのです?さっさと席に着きなさい!」

 殿下が私の名を呼び掛けたその時、先生の声が辺りに響き渡りました。

(先生、ナイスタイミングですわ!)

 思わず先生の間の悪さに拍手を送りたくなってしまいました。さすがに先生がいらっしゃったので、殿下もこれ以上会話をするのは無理だと察したようで、慌てて教室へと戻っていきました。

「よかったわね、先生がいらして」
「ええ、助かりましたわ」

 ベルティーユ様が小声で話しかけてくれましたが…私の心は晴れませんでした。殿下との婚約は破棄されましたし、もう顔を合わせる事はないと思ってすっかり油断していましたが…どうやらこのまま終われそうにないようですわね。これからの事を想像した私の口から、重いため息が漏れました。






「殿下の事だからまた来るわよ」

 ランチタイムになると、ベルティーユ様は直ぐに私を連れていつもの個室に引っ込みました。殿下がまた来るかもしれないと思ったからでしょうね。こういうところ、彼女は優しいというか、面倒見がいいのです。性格がきつくて彼女の方が悪役令嬢っぽいのだけど、竹を割ったようなさっぱりした性格と面倒見の良さから、彼女に憧れる女生徒は意外と多いのです。

「全く、今更何の用なのかしら…」
「そりゃあ、婚約破棄の慰謝料の減額、じゃない?あちら有責だから当然だけど、額を見て小さい肝が一層縮まったんじゃないかしら?」
「はぁ…」

 残念だけどベルティーユ様の言う通りでしょうね。婚約破棄した直後は、慰謝料なんぞ手切れ金代わりに払ってやるとか、惨めなお前には金しかないから恵んでやると言っていたと聞きましたが、そんなに生易しい額ではないでしょう。何と言っても筆頭侯爵家に喧嘩を売ったも同然なのです。こちらの怒りを鎮める意味でも、それ相応の額になるのは明白でしょうに…

「このままだと、ずっと付きまとわれそう…」
「その可能性が高いわよね」
「そんな…」
「家なら護衛や侍女がいるけど、学園じゃそうはいかないわ」
「ええ、そう、ね」
「だから、心強い味方を呼んでおいたわ」
「え?」
「おい、ベル!いるのか?入るぞ?」

 ベルティーユ様の言葉の意味を推し量っていると、少々乱暴な口調の男性がドアの外から呼ぶ声がしました。ベルティーユ様を見ると、彼女はにやりと悪戯っぽい笑みを浮かべていました。


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