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侯爵家の方針

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「リシャール、いい加減相手決めてくんない?」

 久しぶりに実家に顔を出すと、長兄がそう言って声をかけてきた。

「ラフォン家が嫌ならそれでもいいけど、それならそれで相手選んでよ。オーバン伯爵家がしつこくてさぁ。これ以上断ると取引にも影響出るんだよね」

 オーバン伯爵家は祖父の代から付き合いもあってか、一時入り婿にとの話があった家だ。令嬢は我儘な上に残忍な性格で有名だったため、急遽アネットと形ばかりの婚約で難を逃れたが、婚約破棄後にまたしつこく申し込みをしてきていた。伯爵家相手では断るのも一苦労で、今までは父や兄が何とかしてくれていたが、そろそろ限界なのだろう。こうなってしまえば自分が取るべき手は明らかで、ここまで決断できなかった自分自身に思わず失笑すらしてしまった。情けない自分を自嘲しながらも、兄の言葉に背中を押されたような気がして肩の荷が下りたような気がした。




「ご令嬢からの求婚の件について、お聞きしたい事があります」

 翌日、ラフォン侯爵家を訪ねた。面会を願ったのは令嬢ではなく侯爵だ。令嬢の求婚に答える前に侯爵の考えを聞きたかったのだ。本気でこの婚約を認めているのか、その真意が知りたかった。急な訪問だったが侯爵はにこやかに出迎えてくれ、取るに足らない身の自分にも丁寧に接して話を聞いてくれた。その態度からある程度の予想は出来たが…侯爵は娘の無謀とも言える行動を止める気は全くなかった。

「私もそうだが、我が家は恋愛結婚推奨なんだよ」

 侯爵の話は知っていた。妻に迎えた夫人は政敵の親戚筋にあたり、当初は相当揉めたらしいが無理を押し切って妻に迎えたのは有名な話だ。侯爵の話では、これまで政略結婚して上手くいった試しはなく、むしろ悪い結果が続いたため、侯爵家では政略結婚は禁忌扱いなのだという。

「我が家は…そうだね、政略結婚をしたくないがために力を持っているようなものだ。誰からも干渉されずに済むようにね」
「しかし…」
「だから君がレティの婿になっても問題ないよ。それくらいで我が家の力が落ちる事もないし、どうにでも出来るくらいの準備はしている。君の事も、レティが望むのであれば我が家は大歓迎だ。才能も申し分ないしね」

 侯爵には全く迷いは見られなかった。娘が望むから叶える、ただそれだけらしい。

「しかし、ご令嬢は王子妃教育を受けたほどの逸材です。私などとても…」
「ああ、王子妃教育はレティの将来のために受けさせたけど、別に王子妃にするためじゃない。王家持ちで高度な教育を授けてくれるなんて、お得だと思わないかい?」
「お得…ですか?」
「そう、教育期間に得られた知識や人脈は、これからのあの子の役に立つだろう。王家も友好な関係に持っていけたら我が家の後ろ盾が得られたんだ。お互い悪い話じゃなかったはずだよ」
「じゃ、最初から婚約破棄する予定では…」
「レティと殿下が相愛になったなら別にそれでもよかったんだけどね。結果は残念だったけど、まぁ、慰謝料も手に入ったし、王家に貸しも出来たし、御の字かな」

 こうなったのは侯爵の想定の範囲内だったらしい。どこまで侯爵の手の内だったのか、そして自分の事もそうだったのだろうか…聞いてみたい気もするが、聞かない方がいいような気もした。

「さて、婚約するにあたって、私からの提案を話してもいいかな?」

 侯爵には自分の考えなどお見通しだった。
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