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消えた婚約者

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「リシャール様が行方不明って…どういう事ですの?!」

 コレットに起こされた私は、急いで着替えるとお父様の執務室に駆け込みました。リシャール様に何があったと言うのでしょうか…

「レティ」
「お父様、どうして?リシャール様は王宮には伺候していないのでしょう?なのにどうして行方不明だなんて…ま、まさかアドリエンヌ様が?」
「落ち着きなさい、レティ。いくら何でもあの王女の可能性は低いだろう。リシャール君の事を知っているとは思えない」
「ですが…じゃ、誰がリシャール様を!そ、そうよ、リシャール様に付けた影は…」
「だから落ち着きなさい、レティ!」

 お父様に宥められた私は、そのまま促されてソファに腰を下ろしました。隣にはお母様が寄り添って下さり、手を握ってくれましたが…いつの間にか指先が冷え切って震えていたようです。

「リシャール君は昨夜、商会の会合に出ると言って出掛けたんだ」
「商会の…」

 お父様の話では、昨夜リシャール様は商会の組合の会合に出たのだそうです。それは月に一、二度あり、商会を運営する者が集まって親睦を深め、同時に情報交換をする場だそうで、マルセル叔父様も時々出席しているものでした。昨夜は高級ホテルのパーティー会場で行われたそれに出席したリシャール様でしたが…いつの間にか姿を消してしまったのだそうです。

「そんな…ユーグは?ユーグも従者として同行していたのでしょう?」

 ユーグとは、コレットの一番上の兄で、リシャール様の専属従者になった者です。彼の話では、リシャール様は親しい方達とお酒を飲みながら会話を楽しんでいたところ、その中の一人が酒に酔って気分が悪くなったと言い出したそうです。リシャール様がその方を控室まで送っていき、その間にユーグは帰りの馬車の確認をしに行ったのですが…会場に戻るもリシャール様の姿がなく、その後会場内を探し回っても見つけることが出来なかったそうです。

「そんな状態で行方不明なんて…」

 他の参加者もいたのに、リシャール様だけ忽然と消えるなんておかしい話です。

「レティ、彼に影を付けていたのではないのか?」
「そ、そうですわ。影を二人リシャール様に付けてありましたわ。でも…」
「何の報告も?」
「ええ、今のところ…」

 そうなのです、影からは何の報告も受けていません。こういう時、真っ先に影が報告してくるはずですのに…

「そうか、ならば影はリシャール君に付いているのだろうな」
「多分…でも…」
「報告がないという事は連絡が取れない状態にあるのかもしれん」
「そんな…」

 影が二人付いていますが、影だって万全ではありません。でも、もし何かあれば直ぐに報告に来るでしょう。それがないのは何か事情があるからなのでしょうが…

「何があったかはわからないが…下手に騒ぐと付け入るスキを与える。私も影に捜索を命じるから、レティは報告を待ちなさい」
「はい…」

 どうしてリシャール様がいなくなってしまわれたのでしょうか…まさかアドリエンヌ様が?そう思いましたが、お父様が言うように彼女がリシャール様の事を知っている可能性は低い気がします。となると、別の理由なのでしょうか…私はこれまでに感じた事のない不安の塊に押しつぶされそうになりながらも、必死にリシャール様の手掛かりを探すべく、考えられる限りの手を尽くしました。


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