【完結】悪役令嬢だって真実の愛を手に入れたい~本来の私に戻って初恋の君を射止めます!

灰銀猫

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番外編~レアンドル⑤

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 その日、セレスティーヌ様と街で会ったのは、どうしても外せない商談がある日で、私はマルクと一緒に街に出ていた。そこで私は初めてセレスティーヌ様の本心を打ち明けられた。彼女は子供の頃から一途にリオネル殿を慕っていたが、立場が違い過ぎて打ち明ける事も出来ないのだ、と俯いた。
 だが、それを聞いたところで自分に何が出来ただろうか…この国では王太子の伴侶は王族か侯爵家以上の家格が必要で、リオネル殿は伯爵家の出で嫡男ですらない。そんな二人が想いを遂げるのは夢のまた夢でしかなかった。

「それでも、誰かに聞いて欲しかったのです」

 そう言って今にも泣きそうな笑顔を見せたセレスティーヌ様に、胸が締め付けられた。どんなに想っても、それを相手に知らせる事も出来ず、届く事のない苦しさを、最近自分も自覚したからだ。私は暗澹たる思いを抱えながら、拠点としている宿に戻った。

 ぼんやりとセレスティーヌ様の事を考えていると、廊下が騒がしくなった。どうやらテオたちが戻ってきたらしい。セレスティーヌ様の事を考えていたのもあってか、何となくテオと顔を合わせ辛かったが、顔を出さないのも変に思われるかもしれない。そう思って部屋を出ると、テオが両手いっぱいに紙袋を抱えていた。

「テオ、それは…」
「ああ、これは今日の商談で相手から頂いたものです」
「サンプル?」
「ええ。染色が有名だと以前お話したでしょう?これは染めた生地のサンプルなのです」

 我が国では珍しいものだと聞いた私は、それらをいくつか受け取って一緒にテオの部屋まで運んだ。それらは確かに我が国では見られない色や柄をしていて、私は夢中になってそれらの生地が入った袋を開け、二人でその技術に感嘆していた。

「え?…わ!」
「ソフィ!」

 次の袋を…と思った私だったが、運悪く広げていた生地に足を取られてしまった。

(転ぶ…!)

 そう思って目を閉じて床との衝撃に備えた私だったが、その瞬間は来なかった。テオが私と床の間に入り込んでクッションになってくれたから、と気付いたのは目を開けた時にテオの顔がすぐ側にあったからだ。

(切れ長で、綺麗な目だな…)

 厳めしい顔立ちの彼だったが、目元は涼しげだが目じりは下がり、温かみのある薄緑の瞳が自分を見下ろしていた。鼻は高めでスッと通り、肉厚な唇から目が離せない…

「…っ!」
「…なっ!」

 今、自分は何をしたのだろう…唇に感じた柔らかい感触に我に返った。目の前には顔を真っ赤にしたテオがいて、これ以上ないくらいに目を見開いて自分を見ていた。

「ご、ごめ…」

 頭の中が一気に真っ白になって、気が付けば私は自室のベッドの上にいた。心臓があり得ないほどに脈打って、今にも口から飛び出してきそうだ。

(わ、私は…)

 思わず唇を指で撫でた。先ほどの柔らかい感触が思い出されて、自分が何をしたのかを理解すると同時に、言い表せないほどの焦燥感が身体を支配した。

(どうしよう…これから、どんな顔をしてテオに会えば…)

 合わせる顔がない。いくら女装をしていても自分は男で、それはテオだって知っている。なのに、男にキスなんかされたら気持ち悪いだけだろう。自分だって…もし相手がマルクであっても、男にキスされたらもう近づきたくないし、付き合いも遠慮したいと思う。だからこそこの想いには気が付きたくなかったし自覚したくなかったのに…

(よりにもよって、当の本人に…)

 何度思い返しても、失敗したとしか思えなかった。いくら何でもあれはないだろう。男としては淡白で、女性不信から衝動を感じる事などなかった自分だったのに…
 その日は夕食を食べる事も出来ず、どうしようもない後悔と自覚してしまった想いに、一睡も出来なかった。

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