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ギギラの街
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情けは人の為ならずとはよく言ったもんで、あの夫人を助けたのは俺にとってもラッキーだった。あの夫人はマイラと言って、このギギラという街で宿屋を営んでいた。一緒にいたのは孫のカリュンで、二人は街外れの森で食材を集めていたらしい。その途中でマイラさんが腰を痛めて立ち往生していたのだ。
俺はマイラさんを背負って食材の入った籠を抱え、カリュンの案内でその宿まで運んだ。そこで宿屋の主人でマイラさんの夫のアンザさんに、物凄く感謝された。お陰で街に入るのも宿を得るのもスムーズに進んだのは助かった。
マイラさんたちが営む宿屋は、街で唯一の宿屋だった。二階建てで部屋は十もあるかという感じだけど、この辺は辺境の地扱いであまり人が来ないらしい。それでも魔素が濃いから魔獣ハンターがよく来るし、行商人なども時々やって来る。ここにしかない植物や木の実なんかもあるらしいので、街はそれなりに賑わっているそうだ。
「さぁ、好きなだけ食えよ! お変わりいっぱいあるからな!」
そう言ってテーブルに次々料理を運んできたアンザさんは気前のいい酒場のマスターという感じだった。陽気で気さくで、しかもどの料理も美味い。天職だなと思った。
「それで、ルークは兄貴を探しているんだって?」
「あ、ああ」
その通りだが、ちょっと考えた。先に探すのは俺の元の身体だ。どうしたものかと思ったけど、どうせならどっちも兄にしてしまえばいい、と思いついた。これなら手間も省けて一石二鳥だ。ライリー兄さんがどこで行方不明になったかは分からないけれど、もしかしたら異界にいるかもしれないし。
「二人いて、一人はライリー。俺よりも五つ上だから今は三十三くらいかな。水色の髪に薄茶の目をしているんだ」
「ふむふむ」
「もう一人はルーカス。俺の双子の兄だ。ルーカスはこの辺りで似たような人物を見たって噂に聞いたから、こっちに来てみたんだ」
「ルーカスかぁ。名前は覚えがないなぁ」
「そっか。青緑の髪に、金色の目をしている」
「青緑の髪か……」
「あと、顔と上半身の左側に傷がある筈だ」
「傷痕?」
俺の方は特徴がはっきりしているから、より見つけやすいだろう。あの傷が消えているとも思えないし、だったら髪なんかの色よりもずっと印象に残っているだろう。
「ああ。魔獣に襲われて出来た傷だ。顔半分がやられている」
「それって……」
アンザさんの表情が変わった。もしかして何かあるのか?期待に鼓動が早くなるのを感じた。
「お~い、ダイン! ちょっといいか!」
「あ~ なんだよ、マスター」
ダインと呼ばれた男が、酒杯を手にこっちにやってきた。体格がよくていかにも冒険者風の男だ。赤い髪と緑の瞳で、年は三十代後半から四十代前半くらいだろうか。
「おい、ダイン。お前、以前、顔に傷がある男を見たって言ってなかったっけ?」
「え? あ、あ~ そんなこともあったかなぁ」
え? こんなにも早くに手がかりが見つかったのか。前に俺が探した時には何もなかったのに。
「そうなのか?」
思わず食いつき気味で尋ねたら、男が俺を見て驚いた顔をした。
「なんだ、にいちゃんは?」
「ああ、こいつはルークって言ってな。兄を探しているんだとよ」
「へぇ、兄貴をねぇ」
にやっと笑みを浮かべたが、何だか意味深だ。何だ? と思っていたらマスターが親指と人差し指で輪を作った。ああ、情報料ってことか。
「いや~ ルークってばいい奴だな~」
それから小一時間後、目の前にはすっかり酔っぱらったダインがいた。情報料は今日のここの支払いでいいらしい。それならと乗ったはいいが、よく食べるしよく飲む。想定していた以上の額になりそうだ。
そうは言っても、背に腹は代えられない。すっかり酔ったダインは、知っていることを殆ど話してくれた。関係ない話の方が圧倒的に多かったけど。
「それで、この先の小さな集落の外れに、顔に傷がある男がいるんだな?」
「ああ。でも、ひでぇ人嫌いらしいぞ。最近は姿を見たって話も聞かねぇし」
「そうか」
もしそいつが俺の身体だったとすると、中身はドラゴンなのだろう。多分、人語を解する方の。一体どうしてこうなったのか、偶発的なのか、それとも狙ってやったのかはわからないが、用心に越したことはないだろう。
(とりあえず、訪ねてみるか)
何にせよ、会わないことには何も始まらないのだ。
俺はマイラさんを背負って食材の入った籠を抱え、カリュンの案内でその宿まで運んだ。そこで宿屋の主人でマイラさんの夫のアンザさんに、物凄く感謝された。お陰で街に入るのも宿を得るのもスムーズに進んだのは助かった。
マイラさんたちが営む宿屋は、街で唯一の宿屋だった。二階建てで部屋は十もあるかという感じだけど、この辺は辺境の地扱いであまり人が来ないらしい。それでも魔素が濃いから魔獣ハンターがよく来るし、行商人なども時々やって来る。ここにしかない植物や木の実なんかもあるらしいので、街はそれなりに賑わっているそうだ。
「さぁ、好きなだけ食えよ! お変わりいっぱいあるからな!」
そう言ってテーブルに次々料理を運んできたアンザさんは気前のいい酒場のマスターという感じだった。陽気で気さくで、しかもどの料理も美味い。天職だなと思った。
「それで、ルークは兄貴を探しているんだって?」
「あ、ああ」
その通りだが、ちょっと考えた。先に探すのは俺の元の身体だ。どうしたものかと思ったけど、どうせならどっちも兄にしてしまえばいい、と思いついた。これなら手間も省けて一石二鳥だ。ライリー兄さんがどこで行方不明になったかは分からないけれど、もしかしたら異界にいるかもしれないし。
「二人いて、一人はライリー。俺よりも五つ上だから今は三十三くらいかな。水色の髪に薄茶の目をしているんだ」
「ふむふむ」
「もう一人はルーカス。俺の双子の兄だ。ルーカスはこの辺りで似たような人物を見たって噂に聞いたから、こっちに来てみたんだ」
「ルーカスかぁ。名前は覚えがないなぁ」
「そっか。青緑の髪に、金色の目をしている」
「青緑の髪か……」
「あと、顔と上半身の左側に傷がある筈だ」
「傷痕?」
俺の方は特徴がはっきりしているから、より見つけやすいだろう。あの傷が消えているとも思えないし、だったら髪なんかの色よりもずっと印象に残っているだろう。
「ああ。魔獣に襲われて出来た傷だ。顔半分がやられている」
「それって……」
アンザさんの表情が変わった。もしかして何かあるのか?期待に鼓動が早くなるのを感じた。
「お~い、ダイン! ちょっといいか!」
「あ~ なんだよ、マスター」
ダインと呼ばれた男が、酒杯を手にこっちにやってきた。体格がよくていかにも冒険者風の男だ。赤い髪と緑の瞳で、年は三十代後半から四十代前半くらいだろうか。
「おい、ダイン。お前、以前、顔に傷がある男を見たって言ってなかったっけ?」
「え? あ、あ~ そんなこともあったかなぁ」
え? こんなにも早くに手がかりが見つかったのか。前に俺が探した時には何もなかったのに。
「そうなのか?」
思わず食いつき気味で尋ねたら、男が俺を見て驚いた顔をした。
「なんだ、にいちゃんは?」
「ああ、こいつはルークって言ってな。兄を探しているんだとよ」
「へぇ、兄貴をねぇ」
にやっと笑みを浮かべたが、何だか意味深だ。何だ? と思っていたらマスターが親指と人差し指で輪を作った。ああ、情報料ってことか。
「いや~ ルークってばいい奴だな~」
それから小一時間後、目の前にはすっかり酔っぱらったダインがいた。情報料は今日のここの支払いでいいらしい。それならと乗ったはいいが、よく食べるしよく飲む。想定していた以上の額になりそうだ。
そうは言っても、背に腹は代えられない。すっかり酔ったダインは、知っていることを殆ど話してくれた。関係ない話の方が圧倒的に多かったけど。
「それで、この先の小さな集落の外れに、顔に傷がある男がいるんだな?」
「ああ。でも、ひでぇ人嫌いらしいぞ。最近は姿を見たって話も聞かねぇし」
「そうか」
もしそいつが俺の身体だったとすると、中身はドラゴンなのだろう。多分、人語を解する方の。一体どうしてこうなったのか、偶発的なのか、それとも狙ってやったのかはわからないが、用心に越したことはないだろう。
(とりあえず、訪ねてみるか)
何にせよ、会わないことには何も始まらないのだ。
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