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サビーアという女性
兄さんと一緒に暮らしている女性はサビーアと名乗った。彼女は兄さんを支えながらこの周辺で薬草などを採取し、それを町で売ったりして暮らしていると言う。歩くのがやっとの兄さんを養いながらの生活は大変だろうと思ったが、彼女は兄さんに好意があるらしく、今の生活が今までの中で一番穏やかで幸せを感じているのだと言う。
「それにしても、兄さんはどうして倒れたんだ?」
「それは……」
サビーアは確証がないと前置きした上で、兄には記憶が欠けている部分があるらしいと言った。昔のことや身元に関することを尋ねると、時々ああして倒れてしまうのだと言った。どうやらあの怪我をした時に何か大きなショックを受けたのかもしれない、とも。確かにあの傷では死んでいてもおかしくなかっただろう。俺が負った傷なんか比じゃないくらいに酷いのは明白だった。
「それじゃ、ここにいる理由も兄さんは……」
「多分、覚えていないと思います。私も最初の頃に尋ねましたが、その度に倒れたので……よほど、怖い目に遭ったのだと、思います」
「そうか……」
確かにトラウマになるほどの恐怖に遭ったと言ってもおかしくない怪我だ。回復するまでは相当苦しんだだろうし。そう思うと、そのことを尋ねるのは難しく感じた。
だけど……兄さんの安否が知りたかっただけなのだ。今、こうして生きているならそれで十分だろう。俺の目的は、意外な形で意外にも呆気なく達成されてしまった。
「それで、このままここで暮らすつもりなのか?」
「はい。他に行くところもありませんから……」
「だったら、俺と一緒に来ないか? 俺たちは今、新しい街を造ったばかりなんだ。そこには治癒魔術が使える者もいる。兄さんの怪我も今よりはマシになる筈だ」
「え? 治癒魔術が?」
サビーアが驚きの声を上げた。確かに治癒魔術の使い手は希少だ。俺もちょっとしたけがは治せるけど、リューンには及ばない。リューンなら兄さんの怪我もかなり治せるんじゃないだろうか。
「ああ。俺と一緒に住んでいる奴が聖属性持ちなんだ。恋人の怪我も治していたから、兄さんも普通に歩けるようになると思う」
「あ、歩けるんですか?!」
「絶対とは言い切れないが、今よりマシになるのは間違いない」
そう言うとサビーアは兄さんの寝顔を見つめて黙り込んだ。兄さんの回復を一番願っているのは彼女かもしれない。どういう関係性なのかははっきりしないけど、見捨てる事無く側で支え続けているのなら、サビーアは兄さんのことが好きなんじゃないだろうか。
「ここは危険だし、生活も大変じゃないか? 街に行けば仕事もあるし、兄さんの治療も出来る。せめて兄さんの身体を治すまでは街に来ないか?」
俺としてもこのまま兄さんを放っておくことは出来そうになかった。ここにいてはいつ何時命を落とすかわからない。この周辺は魔猫はいなくても魔獣がいるのだ。走って逃げる事も出来ない兄さんには危険すぎる。
「でも……」
直ぐにイエスと言うかと思ったが、サビーアは躊躇する声を上げた。何か不安があるのだろうか。
「何か心配事でも?」
「いえ……そういう訳ではないのです……」
どうにもはっきりしないサビーアだったが、歩けると言った時の態度からして治療を受けたい気持ちはあるのだろう。サビーアは最初に会った時から何か鬱屈としたものを抱えているようにもみえて、話をしていても何というか、オドオドしていると言うか、卑屈な空気を感じた。それが何なのかがはっきりしないけど、彼女が隠れるように住んでいる理由もその辺に理由があるのかもしれない。まぁ、それを聞き出そうとは思わないけど。
「少しだけ、考えさせてくれませんか? ローリーとも相談したいですし……」
「それは構わないよ。そうだな、明日にでもまた来るから、その時に返事を貰えるだろうか?」
「え、ええ。いいんですか?」
何だろう。自分からそう提案したのに。そう思ったが、何か事情があるのかもしれない。俺は手土産代わりにと持ってきた果実や保存食を渡すと、明日の朝また来ると言ってその小屋を後にした。
「本当によかったのか?」
小屋から離れるとラーが尋ねて来た。
「まぁ、無理やり連れて行ってもいいんだけど、変な反発を食うのも面倒だし」
「まぁ、そうじゃが。だがあの娘、思いつめた顔をしていたし、あのまま逃げ出しそうにも見えるぞ」
ラーの言う通りで、彼女は兄さんが回復することを喜ぶ一方で、何か得体の知れない思いも抱えているようにも見えた。あの状況をあえて選んでいるとは思えないけど、あの環境から脱したいと思っているようにも見えなかったからだ。
「何だか事情がありそうじゃが……逃げ出されては探すのは大変じゃぞ」
「……そう思って、一応兄さんの服に探知用の魔石を忍ばせて来た」
「なんと! 策士よのう、お主は」
ラーがカラカラと笑ったが、逃げ出しても危険なだけだからそれはやめて欲しかった。それに逃げ出す理由があるのも問題だろう。何か犯罪に関与している、とかでなければいいのだが……
「それにしても、兄さんはどうして倒れたんだ?」
「それは……」
サビーアは確証がないと前置きした上で、兄には記憶が欠けている部分があるらしいと言った。昔のことや身元に関することを尋ねると、時々ああして倒れてしまうのだと言った。どうやらあの怪我をした時に何か大きなショックを受けたのかもしれない、とも。確かにあの傷では死んでいてもおかしくなかっただろう。俺が負った傷なんか比じゃないくらいに酷いのは明白だった。
「それじゃ、ここにいる理由も兄さんは……」
「多分、覚えていないと思います。私も最初の頃に尋ねましたが、その度に倒れたので……よほど、怖い目に遭ったのだと、思います」
「そうか……」
確かにトラウマになるほどの恐怖に遭ったと言ってもおかしくない怪我だ。回復するまでは相当苦しんだだろうし。そう思うと、そのことを尋ねるのは難しく感じた。
だけど……兄さんの安否が知りたかっただけなのだ。今、こうして生きているならそれで十分だろう。俺の目的は、意外な形で意外にも呆気なく達成されてしまった。
「それで、このままここで暮らすつもりなのか?」
「はい。他に行くところもありませんから……」
「だったら、俺と一緒に来ないか? 俺たちは今、新しい街を造ったばかりなんだ。そこには治癒魔術が使える者もいる。兄さんの怪我も今よりはマシになる筈だ」
「え? 治癒魔術が?」
サビーアが驚きの声を上げた。確かに治癒魔術の使い手は希少だ。俺もちょっとしたけがは治せるけど、リューンには及ばない。リューンなら兄さんの怪我もかなり治せるんじゃないだろうか。
「ああ。俺と一緒に住んでいる奴が聖属性持ちなんだ。恋人の怪我も治していたから、兄さんも普通に歩けるようになると思う」
「あ、歩けるんですか?!」
「絶対とは言い切れないが、今よりマシになるのは間違いない」
そう言うとサビーアは兄さんの寝顔を見つめて黙り込んだ。兄さんの回復を一番願っているのは彼女かもしれない。どういう関係性なのかははっきりしないけど、見捨てる事無く側で支え続けているのなら、サビーアは兄さんのことが好きなんじゃないだろうか。
「ここは危険だし、生活も大変じゃないか? 街に行けば仕事もあるし、兄さんの治療も出来る。せめて兄さんの身体を治すまでは街に来ないか?」
俺としてもこのまま兄さんを放っておくことは出来そうになかった。ここにいてはいつ何時命を落とすかわからない。この周辺は魔猫はいなくても魔獣がいるのだ。走って逃げる事も出来ない兄さんには危険すぎる。
「でも……」
直ぐにイエスと言うかと思ったが、サビーアは躊躇する声を上げた。何か不安があるのだろうか。
「何か心配事でも?」
「いえ……そういう訳ではないのです……」
どうにもはっきりしないサビーアだったが、歩けると言った時の態度からして治療を受けたい気持ちはあるのだろう。サビーアは最初に会った時から何か鬱屈としたものを抱えているようにもみえて、話をしていても何というか、オドオドしていると言うか、卑屈な空気を感じた。それが何なのかがはっきりしないけど、彼女が隠れるように住んでいる理由もその辺に理由があるのかもしれない。まぁ、それを聞き出そうとは思わないけど。
「少しだけ、考えさせてくれませんか? ローリーとも相談したいですし……」
「それは構わないよ。そうだな、明日にでもまた来るから、その時に返事を貰えるだろうか?」
「え、ええ。いいんですか?」
何だろう。自分からそう提案したのに。そう思ったが、何か事情があるのかもしれない。俺は手土産代わりにと持ってきた果実や保存食を渡すと、明日の朝また来ると言ってその小屋を後にした。
「本当によかったのか?」
小屋から離れるとラーが尋ねて来た。
「まぁ、無理やり連れて行ってもいいんだけど、変な反発を食うのも面倒だし」
「まぁ、そうじゃが。だがあの娘、思いつめた顔をしていたし、あのまま逃げ出しそうにも見えるぞ」
ラーの言う通りで、彼女は兄さんが回復することを喜ぶ一方で、何か得体の知れない思いも抱えているようにも見えた。あの状況をあえて選んでいるとは思えないけど、あの環境から脱したいと思っているようにも見えなかったからだ。
「何だか事情がありそうじゃが……逃げ出されては探すのは大変じゃぞ」
「……そう思って、一応兄さんの服に探知用の魔石を忍ばせて来た」
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