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兄さんとの再会
「それにしてもルーク。お主、その格好で街に戻るのか?」
正に今、それをどうしようかと考えていたところにラーがそう問いかけてきた。俺の身体はガルアに奪われたままだし、普段の俺は茶髪茶目の別人の姿になっている。この状況で兄さんを街に連れて行けば余計な混乱をもたらしそうな気がした。
「そうなんだよなぁ……兄さんの記憶が完全にないならまだしも……」
「今更だが、ガルアの姿を変えるのはどうじゃ?」
「それもなぁ……町の人はすっかりあの姿で認知しているし、急に変えるのもまずいだろう? 街の人には俺がドラゴンだってことは伏せているから、理由を話すのも難しいし……」
そう、今更だがガルアの姿を変えておけばよかった、と思った。どうせ向こうは人間の身体が欲しかったんだから、見た目にあまりこだわりはなかっただろう。いや、リューンの好みはある程度考慮したかもしれないけど。こうなるとせめて髪色くらいは変えておけばよかった、と思った。
「兄さんがまともな状態なら事情を話すのもありだけど……あれじゃ、またショックで倒れるかもしれないし……」
記憶が中途半端に残っている兄さんでは、この状況を受け入れるのは難しく思えた。俺のことも理解しているのかもはっきりしない。ルーカスという弟がいた記憶はあるみたいだけど、兄さんの記憶にある俺は六歳の時のままだろう。手紙のやりとりはしていても、実際に会うことは叶わなかったから。
翌朝、ルーと共に兄さんたちが住む小屋を訪ねると、意外にも二人はそこにいた。昨夜のうちに逃げるかもしれないと思っていたけれど、それが杞憂に終わっってほっとしている自分がいた。あの身体でここを出ていけばあっという間に魔獣の餌食になるか、体力的に直ぐに限界を迎えてそのまま儚くなる可能性が高いからだ。せっかく兄さんを見つけたのにここでお別れなんて冗談ではない。
昨日倒れた兄さんの体調が気になったけれど、今日は昨日に比べると顔色もよく、ベッドに腰かけている様子に不安なところはなかった。それでも記憶に関係する話になるとどうなるかわからないけれど。
「それで、二人はどうする?」
話が長引けば兄さんの負担になるかと思い、単刀直入にそう切り出した。元々長々と話をするのは好きじゃないのもある。俺はサビーアさんが用意してくれたイスに腰かけた。
「ルーク、なんだよな……」
答えを待つ俺にそう問いかけたのは兄さんだった。まだ記憶が戻らないのか、半信半疑というか、確信が持てない様子だった。それも仕方がないだろう。兄さんの中では六歳の俺しか知らないのだから。
「うん。ルーカスだよ。アールベック家の三男で六歳の時に魔術養成所に行った……」
「そう、なんだよな。すまない。俺は六歳のルークしか覚えてないから……」
「それは俺も一緒だよ。俺の記憶にある兄さんだって九歳の時のままだから」
「エリーおばさんの胡桃入りのパンと蜂蜜入りのミルクが好きで、歯に詰まるのが嫌だからとクッキーが嫌いで、五歳の時に川にはまって溺れかけたルーク、なんだよな?」
「あ、ああ……」
さすがにそんな昔のことを暴露されると恥ずかしいが、俺だと認めて貰えるなら仕方がない。
「キャシュの実と隣のテルおじさんとこの猫のクーグが大好きで、俺を庇って兄さんに殴られて歯を折ったライリー兄さん、なんだよね?」
「そ、そうだよ! クーグのこと、覚えていたのか?」
「勿論だよ。クーグは兄さんのことが大好きで、俺が撫でようとしても威嚇するのに、兄さんだけはゴロゴロ喉を鳴らせて……」
よく威嚇されただけでなく猫パンチを食らって手や頬に引っかき傷を作ったな、と懐かしく思った。あの頃は既に十年は生きていると言っていたクーグだから、もう生きてはいないだろうけど。
「ルーク……よく……よく、会いに来てくれた……」
そう言って兄さんは俺の手を取ると、静かに涙を流した。俺がルーカスだと、弟だとわかって貰えたのだろう。それだけで俺の胸の中にも温かくも懐かしく、そして微かに痛みをもたらす感情が広がった。俺たちは暫くの間、二人で手を取り合いながら静かに涙を流し合った。二十年余りの年月も、今だけはどこかに行ってしまったように感じた。
正に今、それをどうしようかと考えていたところにラーがそう問いかけてきた。俺の身体はガルアに奪われたままだし、普段の俺は茶髪茶目の別人の姿になっている。この状況で兄さんを街に連れて行けば余計な混乱をもたらしそうな気がした。
「そうなんだよなぁ……兄さんの記憶が完全にないならまだしも……」
「今更だが、ガルアの姿を変えるのはどうじゃ?」
「それもなぁ……町の人はすっかりあの姿で認知しているし、急に変えるのもまずいだろう? 街の人には俺がドラゴンだってことは伏せているから、理由を話すのも難しいし……」
そう、今更だがガルアの姿を変えておけばよかった、と思った。どうせ向こうは人間の身体が欲しかったんだから、見た目にあまりこだわりはなかっただろう。いや、リューンの好みはある程度考慮したかもしれないけど。こうなるとせめて髪色くらいは変えておけばよかった、と思った。
「兄さんがまともな状態なら事情を話すのもありだけど……あれじゃ、またショックで倒れるかもしれないし……」
記憶が中途半端に残っている兄さんでは、この状況を受け入れるのは難しく思えた。俺のことも理解しているのかもはっきりしない。ルーカスという弟がいた記憶はあるみたいだけど、兄さんの記憶にある俺は六歳の時のままだろう。手紙のやりとりはしていても、実際に会うことは叶わなかったから。
翌朝、ルーと共に兄さんたちが住む小屋を訪ねると、意外にも二人はそこにいた。昨夜のうちに逃げるかもしれないと思っていたけれど、それが杞憂に終わっってほっとしている自分がいた。あの身体でここを出ていけばあっという間に魔獣の餌食になるか、体力的に直ぐに限界を迎えてそのまま儚くなる可能性が高いからだ。せっかく兄さんを見つけたのにここでお別れなんて冗談ではない。
昨日倒れた兄さんの体調が気になったけれど、今日は昨日に比べると顔色もよく、ベッドに腰かけている様子に不安なところはなかった。それでも記憶に関係する話になるとどうなるかわからないけれど。
「それで、二人はどうする?」
話が長引けば兄さんの負担になるかと思い、単刀直入にそう切り出した。元々長々と話をするのは好きじゃないのもある。俺はサビーアさんが用意してくれたイスに腰かけた。
「ルーク、なんだよな……」
答えを待つ俺にそう問いかけたのは兄さんだった。まだ記憶が戻らないのか、半信半疑というか、確信が持てない様子だった。それも仕方がないだろう。兄さんの中では六歳の俺しか知らないのだから。
「うん。ルーカスだよ。アールベック家の三男で六歳の時に魔術養成所に行った……」
「そう、なんだよな。すまない。俺は六歳のルークしか覚えてないから……」
「それは俺も一緒だよ。俺の記憶にある兄さんだって九歳の時のままだから」
「エリーおばさんの胡桃入りのパンと蜂蜜入りのミルクが好きで、歯に詰まるのが嫌だからとクッキーが嫌いで、五歳の時に川にはまって溺れかけたルーク、なんだよな?」
「あ、ああ……」
さすがにそんな昔のことを暴露されると恥ずかしいが、俺だと認めて貰えるなら仕方がない。
「キャシュの実と隣のテルおじさんとこの猫のクーグが大好きで、俺を庇って兄さんに殴られて歯を折ったライリー兄さん、なんだよね?」
「そ、そうだよ! クーグのこと、覚えていたのか?」
「勿論だよ。クーグは兄さんのことが大好きで、俺が撫でようとしても威嚇するのに、兄さんだけはゴロゴロ喉を鳴らせて……」
よく威嚇されただけでなく猫パンチを食らって手や頬に引っかき傷を作ったな、と懐かしく思った。あの頃は既に十年は生きていると言っていたクーグだから、もう生きてはいないだろうけど。
「ルーク……よく……よく、会いに来てくれた……」
そう言って兄さんは俺の手を取ると、静かに涙を流した。俺がルーカスだと、弟だとわかって貰えたのだろう。それだけで俺の胸の中にも温かくも懐かしく、そして微かに痛みをもたらす感情が広がった。俺たちは暫くの間、二人で手を取り合いながら静かに涙を流し合った。二十年余りの年月も、今だけはどこかに行ってしまったように感じた。
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