【完結】入れ替われと言ったのはあなたです!

灰銀猫

文字の大きさ
26 / 68

身体がおかしいんですが・・・

しおりを挟む
 エヴェリーナ様を交えての恒例のお茶会。異母姉がエヴェリーナ様を侮辱して、私が謝罪した。この時点でまずおかしい。しかもその後、誠意を見せろと言われて出された薬を飲んだら媚薬だった。どうして私が異母姉のために謝罪して媚薬まで飲んでいるのだろう……
 目の前で舌戦を繰り広げる二人を眺めながら、私は回らなくなってきた頭でそんなことを考えていた。身体が変だ。どこがどうという訳じゃないけど。頭がぼ~っとしているし怠い。暑い。いつの間にか風が強くなっていて、風が当たると余計に暑く感じる。喉が渇いたから何か飲みたいけれど、侍女たちも二人の言い合いの激しさに動けずにいる。

「アンジェリカ様、大丈夫ですか?」

 そんな中で声をかけてくれたのはティアだった。さすがだ。この状況で動けた彼女は侍女の鑑だと思う。

「大丈夫じゃないかもしれないけど……喉が渇いたわ」
「……では、冷たいお水をどうぞ」

 少しの間の後、そう言って冷たい水を出してくれた。嬉しい。

「……ッ!」

 冷たいグラスを手にして、その冷たさにビクッとなった。そんなに冷たかったのだろうか。飲んでも大丈夫? お腹壊さない? そう思いながらも喉の渇きには耐えられず水を一気に飲んだ。

(っつ……!)

 冷たい水が喉を通った後で酷く熱く感じた。それは喉からお腹へと、そして下腹へと向かった。背筋がぞくぞくする。何、これ……?

「アンジェリカ様?」

 異変を感じたティアに声をかけられたけど、身体の変化に戸惑って返事が出来なかった。

「やだ、効き始めちゃってるわ」
「何だって?」
「ちょっと、大丈夫?」

 身体の変化に耐えていたらあの二人が声をかけてきたけれど、それどころじゃない。好きなだけ言い合ってていいから、部屋に戻ってもいいだろうか。横になって休みたい。

「あの……部屋に戻って、も、いいですか?」

 座っているのが大分辛くなってきたし、そろそろ立てなくなりそうな気がした。それは困る。頭も回らなくなっているし、マズい。前後不覚になる前に部屋に戻りたい……

「失礼するぞ!」

 そんな声が聞こえたと思ったら視界が回った。急な変化に身体が強張る。何事と思ったら……皇子に抱きかかえられていた。何で?

「アンジェリカ嬢を部屋にお連れする。ティア、部屋に戻ったら着替えの準備を。念のために医者も呼べ。エヴェリーナ、解毒剤は?」

 皇子が何か言っているけれど、まだお怒りだ。下から見上げると眼光の鋭さが増している気がした。何だか魔王に捕まった気分だ。怖いから下ろして欲しいし、出来れば放っておいてほしい……

「へ、部屋に行けば……」
「あるんだな!?」
「え、ええ……」
「だったら大至急アンジェリカ嬢の部屋に持って来い!!」

 そう言うと皇子は返事も待たずに歩き出した。歩き出したんだけど……身体に触れるあれこれと振動のせいか、身体の表面全てが変になっていった。ドレスが擦れるだけでもゾクゾクする……

「お、下ろして下さい……!」
「暴れるな。落ちるぞ」

 嫌だ、皇子の声にまでゾクゾクする。やっぱり魔王だったんだ。なんだかすごくいい匂いがして、吸い込むたびに頭がクラクラしてくる……魔王は媚薬効果もあったのか……このままくっ付いている方が危険な気がする……

「あの、本当に下ろして下さい」
「いいからじっとしていろ」

 問答無用で却下された。少しは私の意見も聞いて欲しい。皇子の存在そのものが危険なんだと言いたいけれど、口にするなんて恐ろしいことは出来そうになかった。

(も、下ろしてぇ……)

 階段は地獄だった。振動で身体も頭もおかしくなりそうになった。幸いだったのは魔王の迫力に肝が冷えていたことだろうか。体が熱いけれど恐怖で冷静な頭が僅かだけど残っていた、と思う。多分。でもおかしい……これがあの薬の効果だったのかと動かない頭で必死に考えた。何か考えていなければおかしいことを口走ってしまいそうだ。

(……媚薬なんて、この世にあったんだ……)

 必死に頭をフル稼働させて身体の感覚を忘れようとした。はぁ、どうしてそんなものをエヴェリーナ様が持っていたのか。もしかしたら今のエヴェリーナ様は別人で、影武者だったりするのだろうか。あの淑やかで気品に満ちた人がどうして媚薬なんて持っていたのか……持っているなら私じゃなく皇子に使えばよかったのに……さすがに純潔を奪われたら結婚するしかないんじゃない? 婚約者候補だったんだし、何の問題もなかったはず……

 そんなことを考えていたら部屋に着いたらしい。もう色々限界だ。今すぐ湯あみしたい。出来れば水風呂でお願いしたい……
 直ぐに着替えをさせられて夜着を着せられた。湯あみしたかったけれど薬を飲んでいるから危険だと却下された。そう言われてしまえば仕方がない。ベッドに潜り込みたいのに、皇子がいるからそれもままならない。ソファに座たされたけれど……息まで苦しくなってきた気がする……もう限界かもしれない……

「ほら、解毒剤だ。口を開けろ」

 ぼ~っと意識が霞み始めていたら急に声をかけられた。そう言われて口を開いたら、顎を掴まれて上を向かされた。口にとろりとした何かが流れ込んでくる。

「グェ……!」

 余りの不味さに思わずえずきそうになったけれど、薬だから飲み込めと言われて仕方なく飲み込んだ。苦さが熱を持って喉を通っていく。思わず顔を顰めてしまった。顎が解放されると水だと言って口元に固い何かが当てられた。コップかと気付いて口を開けると冷たい水が流れ込んできた。美味しい……けど、熱い……温いお湯がいいかもしれない……

 それからの記憶は曖昧だった。ベッドに行こうと言われて立ち上がったけれど真面に歩けなかった。再び浮遊感があって、柔らかい何かが触れて、匂いで自分のベッドだと気付いて……そこで私の意識は白くなった。



しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...