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ウィル様の呪い
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「痛み、か……」
私の問いかけにウィル様はそう呟きました。でも、声には感情が感じられませんし、表情はローブのせいで未だにわかりません。もしかして聞いてはいけなかったでしょうか……
でも、これだけの呪いを受けていれば、絶対に身体に不調があるはずです。弱い人なら一つでも体が弱り、最悪死に至る場合もあるのです。ウィル様はかなりの量の魔力をお持ちですし、常に平然としていらっしゃるので苦痛を感じていないのかもしれない、と思ったりもしましたが、それにしては呪いの数が多すぎます。
「全く影響がない、とは言い難いな」
「そ、そうですか。あの、私に出来ることは……」
エンゲルス先生でも解けない呪いなら、私に出来ることは微々たることでしょう。それでもこれまでのご恩を思えば少しでもその苦痛を減らして差し上げたいのです。でも、しっぺ返しなどが起きれば私一人で済まない可能性もあるので、どうしても手を出しにくいと感じてしまうのですが……
「心配してくれるのか。ありがとう。だが幸いにも私は魔力量が多いし、受けた呪いは魔獣からのものが殆どだからな。それほど影響はないんだ」
「ですが……」
「解呪が難しいのは数の多さゆえだと先生は仰っていた。今は定期的に王家から解呪師が派遣されている。だから心配は無用だ」
「王家から解呪師が?」
「ああ。以前はエンゲルス先生に定期的に診て頂いていたのだが、あの通りご高齢だからな。今は若い王宮解呪師が交代で来てくれる。だから大丈夫だ」
「そ、そうですか」
解呪にはどうしても集中力と体力が必要ですから、ご高齢の先生には厳しいでしょう。でも若い解呪師なら体力もありますし、時間をかければ解呪出来そうな気がします。私もお手伝い出来ればいいのですが……
(それにしても……)
時々ウィル様から感じる呪いとは違う何かが気になります。禍々しい感じはしないのですが、一体何でしょうか。尋ねてみようかとも思いましたが、ライナーがウィル様を呼びに来てしまったので、結局聞くことは出来ませんでした。
それからの私は、毎日お屋敷にある呪いを解いて回りました。幸いにも大きなものは殆どなかったので、一日に十個ほど消した日もあります。それでもマーゴたちが心配するのでかなり控えていたのですが。それでも七日目にはお屋敷の呪いは綺麗さっぱりなくなりました。呪いが解ける毎に精霊の数も少しずつ増えてきました。
「何だか空気がすっきりした気がするな」
「そうですか?」
「ああ。使用人の中にも鬱々とした気分が晴れたと言う者が何人かいる。彼らは魔力があるから呪いの影響を受けていたのだろう」
解呪が終わった報告をしにウィル様の執務室を訪ねた私に、ウィル様がそう仰いました。気分的なものと言われればそれまでですが、呪いがあるのとないのでは心身への影響が全く違います。だから解呪するとその場の居心地が凄く良くなるのですよね。中には明らかに体調が良くなる方もいるくらいです。
「あの……お屋敷の解呪が終わったので、もしよろしければウィル様の呪いを見せて頂くことは出来ますか?」
「私のか?」
「はい。強い呪いは出来ませんが、軽微な物なら解除出来ると思います。軽い物でも数があれば負担は大きくなりますから……」
「しかし……」
私が初めて踏み込んだことを言うと、ウィル様が躊躇されました。やはり私では力不足でしょうか……
「ああ、エル―シアの能力が足りないとか、そういうことではないのだ。ただ……」
「ただ?」
「……そうなれば、私の真の姿を見せることになる。さすがに若い令嬢には恐ろしいのではと……今はローブで隠しているが、実体を見れば、その……」」
どうやらウィル様は私が今のお姿を見ると恐怖心を持つのではないかと案じて下さっているようです。ここでお世話になってからそれほど日は経っていませんが、ウィル様は常にご自身ではなく相手を気遣って下さるのをもう何度も見ています。それは私だけでなくお屋敷の皆さん全て、いえ、領民の皆さんに対してもです。
(なんてお心の優しい方なのかしら……)
悪鬼だの鬼神だのと言われていますが、とてもそんな風には思えません。益々心からお仕えしたいとの思いが強くなってしまいましたわ。
「ウィル様、私は解呪師になるために今まで頑張ってきました。だから呪われた姿は仮のものだとも知っています。ウィル様は行き場のない私に居場所を与えて下さった恩人です。どんなお姿であろうとも怖がったりなんて致しませんわ」
そりゃあ少しは怖い気持ちもありますが、それ以上に尊敬する想いの方がずっと大きく、それは見た目で左右されるような軟なものではないと誓えます。むしろそんなお姿でも優しさを失わないウィル様だからこそ、お役に立ちたいのです。
「……しかし……」
「ウィル様、私は恩をお返ししたいのです。でも私に出来ることは限られていて、その数少ない一つが解呪なのです。もしウィル様の呪いを全て解くことが出来るのなら、私が代わりにその呪いを受けても構わないとすら思っています」
「いや待て、早まるな!」
「実際にそんなことはしませんし出来ないので大丈夫です。でも、それくらいのご恩を感じているとわかって頂きたかったのです」
「そうか……」
まだ納得しきれない様子のウィル様でしたが、私の熱意は伝わったようです。でも、これほどのお方なら一生お仕えしたいと今は思いますわ。お父様などに比べたら仕え甲斐が断然違いますもの。
「わかった。だが、恐ろしいと思ったら遠慮なく言ってほしい。私も怖がらせたいわけではないのだ」
やはりウィル様はお優しいですわ。ウィル様の呪いを解くためにも、私は本来のお姿としっかりと向き合うべく、心を落ち着かせました。
私の問いかけにウィル様はそう呟きました。でも、声には感情が感じられませんし、表情はローブのせいで未だにわかりません。もしかして聞いてはいけなかったでしょうか……
でも、これだけの呪いを受けていれば、絶対に身体に不調があるはずです。弱い人なら一つでも体が弱り、最悪死に至る場合もあるのです。ウィル様はかなりの量の魔力をお持ちですし、常に平然としていらっしゃるので苦痛を感じていないのかもしれない、と思ったりもしましたが、それにしては呪いの数が多すぎます。
「全く影響がない、とは言い難いな」
「そ、そうですか。あの、私に出来ることは……」
エンゲルス先生でも解けない呪いなら、私に出来ることは微々たることでしょう。それでもこれまでのご恩を思えば少しでもその苦痛を減らして差し上げたいのです。でも、しっぺ返しなどが起きれば私一人で済まない可能性もあるので、どうしても手を出しにくいと感じてしまうのですが……
「心配してくれるのか。ありがとう。だが幸いにも私は魔力量が多いし、受けた呪いは魔獣からのものが殆どだからな。それほど影響はないんだ」
「ですが……」
「解呪が難しいのは数の多さゆえだと先生は仰っていた。今は定期的に王家から解呪師が派遣されている。だから心配は無用だ」
「王家から解呪師が?」
「ああ。以前はエンゲルス先生に定期的に診て頂いていたのだが、あの通りご高齢だからな。今は若い王宮解呪師が交代で来てくれる。だから大丈夫だ」
「そ、そうですか」
解呪にはどうしても集中力と体力が必要ですから、ご高齢の先生には厳しいでしょう。でも若い解呪師なら体力もありますし、時間をかければ解呪出来そうな気がします。私もお手伝い出来ればいいのですが……
(それにしても……)
時々ウィル様から感じる呪いとは違う何かが気になります。禍々しい感じはしないのですが、一体何でしょうか。尋ねてみようかとも思いましたが、ライナーがウィル様を呼びに来てしまったので、結局聞くことは出来ませんでした。
それからの私は、毎日お屋敷にある呪いを解いて回りました。幸いにも大きなものは殆どなかったので、一日に十個ほど消した日もあります。それでもマーゴたちが心配するのでかなり控えていたのですが。それでも七日目にはお屋敷の呪いは綺麗さっぱりなくなりました。呪いが解ける毎に精霊の数も少しずつ増えてきました。
「何だか空気がすっきりした気がするな」
「そうですか?」
「ああ。使用人の中にも鬱々とした気分が晴れたと言う者が何人かいる。彼らは魔力があるから呪いの影響を受けていたのだろう」
解呪が終わった報告をしにウィル様の執務室を訪ねた私に、ウィル様がそう仰いました。気分的なものと言われればそれまでですが、呪いがあるのとないのでは心身への影響が全く違います。だから解呪するとその場の居心地が凄く良くなるのですよね。中には明らかに体調が良くなる方もいるくらいです。
「あの……お屋敷の解呪が終わったので、もしよろしければウィル様の呪いを見せて頂くことは出来ますか?」
「私のか?」
「はい。強い呪いは出来ませんが、軽微な物なら解除出来ると思います。軽い物でも数があれば負担は大きくなりますから……」
「しかし……」
私が初めて踏み込んだことを言うと、ウィル様が躊躇されました。やはり私では力不足でしょうか……
「ああ、エル―シアの能力が足りないとか、そういうことではないのだ。ただ……」
「ただ?」
「……そうなれば、私の真の姿を見せることになる。さすがに若い令嬢には恐ろしいのではと……今はローブで隠しているが、実体を見れば、その……」」
どうやらウィル様は私が今のお姿を見ると恐怖心を持つのではないかと案じて下さっているようです。ここでお世話になってからそれほど日は経っていませんが、ウィル様は常にご自身ではなく相手を気遣って下さるのをもう何度も見ています。それは私だけでなくお屋敷の皆さん全て、いえ、領民の皆さんに対してもです。
(なんてお心の優しい方なのかしら……)
悪鬼だの鬼神だのと言われていますが、とてもそんな風には思えません。益々心からお仕えしたいとの思いが強くなってしまいましたわ。
「ウィル様、私は解呪師になるために今まで頑張ってきました。だから呪われた姿は仮のものだとも知っています。ウィル様は行き場のない私に居場所を与えて下さった恩人です。どんなお姿であろうとも怖がったりなんて致しませんわ」
そりゃあ少しは怖い気持ちもありますが、それ以上に尊敬する想いの方がずっと大きく、それは見た目で左右されるような軟なものではないと誓えます。むしろそんなお姿でも優しさを失わないウィル様だからこそ、お役に立ちたいのです。
「……しかし……」
「ウィル様、私は恩をお返ししたいのです。でも私に出来ることは限られていて、その数少ない一つが解呪なのです。もしウィル様の呪いを全て解くことが出来るのなら、私が代わりにその呪いを受けても構わないとすら思っています」
「いや待て、早まるな!」
「実際にそんなことはしませんし出来ないので大丈夫です。でも、それくらいのご恩を感じているとわかって頂きたかったのです」
「そうか……」
まだ納得しきれない様子のウィル様でしたが、私の熱意は伝わったようです。でも、これほどのお方なら一生お仕えしたいと今は思いますわ。お父様などに比べたら仕え甲斐が断然違いますもの。
「わかった。だが、恐ろしいと思ったら遠慮なく言ってほしい。私も怖がらせたいわけではないのだ」
やはりウィル様はお優しいですわ。ウィル様の呪いを解くためにも、私は本来のお姿としっかりと向き合うべく、心を落ち着かせました。
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