【完結】呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私

灰銀猫

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王宮解呪師

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 両親とお姉様が騎士によって連れていかれた後、私たちは応接室へと案内されました。今ここにいるのはウィル様とレオ、お祖母様だけです。侍女が淹れてくれたお茶を飲むと、ほっとため息が漏れました。あるべきところに落ち着いたのでしょうが、後味の悪さは否めません。それでも、命が助かったことは私の精神的負担を大きく和らげてくれました。あんな人たちでも家族ですし、嫌っているとしてもレオにとってはそう悪くない両親であり姉であった筈です。まだ十五歳のレオに両親と姉の処刑は重過ぎますし、今後の社交界での評判は生死の差も大きく関わってきます。これから当主としてリルケ家を背負わねばならないレオのためにも、罪は軽い方がいいのです。

「それにしても皮肉なものじゃな」
「お祖母様?」

 カップを手にしたお祖母様がため息と共にそう呟きました。

「散々蔑ろにしていたエルのために、あの三人はこれから生きなければならなくなったんじゃ。不本意であろうな。まぁ、本当のことを知らぬのはあ奴らにとっては幸いじゃろうが」
「確かに仰る通りですね。知ればこれほど屈辱を感じることはないでしょうから」

 ウィル様も同意見ですが、確かにその通りですわね。これからは私のために魔力を提供する為だけに生かされるのですから。

「まぁ、知れば自殺しかねんから黙っているのが一番じゃろうて。それでなくてもエルが公爵夫人として幸せに暮らして居れば、それだけで地団駄を踏みそうじゃぞ?」
「確かにお祖母様の言う通りですね」

 レオまで笑みを浮かべてそう言いました。地団駄のところがツボに入ってしまったようですが、容易に想像できるのが何とも残念です。

「でもウィル様、あの三人はどこで働かせるのです?」

 そうなのです、どこで働かせるかが問題ですよね。どこに置いても周りの使用人が迷惑するのが容易に想像出来ますし、正直言って役に立てるとは思えません。皆さんに申し訳ないのですが……

「そうだなぁ、外の仕事は逃げ出す可能性があるし、体力を使いすぎると魔力を集められないし……」
「よからぬことを考える可能性もある。厨房は無理じゃな」
「それなら執務室などもですね。あと武器になるものを手に出来る部署も」
「うむ……そうなると中々難しいのう」
「そうですね……」

 私も色々考えましたが、確かに何をするかわからないのでどこに配置するかが難しいですわね。下手をすると余計な仕事を増やしてしまいそうですし。いえ、その可能性の方が高いでしょうか……

「いっそ、地下室にでも放り込んでおけばいいのではないか?」
「確かにその方が逃亡も防げますし、楽で安心ですね」
「あの三人が改心するのは絶望的だと思います」

 レオまで身も蓋もないことを言い出しましたが、否定出来ないのが悲しいところです。確かに軟禁しておいた方が安心ではあります。

「領地に戻ったら使用人の意見を聞いて、使えなさそうだったら地下牢だな……」

 思った以上に難問でしたわね。でも、長く生かすためには管理が必要ですし、それが一番かもしれません。そんな風に事務的に考えてしまう自分はなんて薄情な娘なんだろうと思うのですが、困ったことに全く罪悪感が湧いてこないのですよね。そのことが自分でも信じられませんでした。



 その後、陛下からレオをリルケ家の当主として認めるとの宣言を賜りました。お祖母様が筆頭魔術師を辞して家に戻り、レオの後見となることになりました。お祖母様もいいお年ですし、レオは未成年で学園がまだ三年残っているので、当面はお祖母様が当主代行になりました。

「聖域のことが片付いたんじゃ。いい加減引退させて貰わぬとな」

 お祖母様は魔力量も魔術の腕も規格外で、しかもバイタリティのある方です。しかも他国にも顔が知れているので今までは聖域の呪いの解除のために筆頭魔術師の地位を賜っていましたが、聖域のことがなければとっくに引退していたのだとか。それでも、後任の魔術師に泣きつかれたとかで、当面は相談役として籍は残しておくそうです。

「色々と片付いたな。これもエルのお陰じゃな」
「そんな……私は何も……」

 お祖母様はそう言いましたが、私はちょっとお手伝いをしただけです。ウィル様の呪いをトーマス様が解いてくれたから聖域の討伐に行けたのですし、聖域の解呪が出来たのもウィル様が本来持つ力を存分に出せるようになったからです。私はそのきっかけを作っただけなのですが……

「ほんにエルは自己肯定感が低いのう。じゃがそのせいであの馬鹿どもをのさばらせたんじゃ。ちょっとは自己肯定感を上げていかねばな」
「お祖母様、それは買いかぶり過ぎです」
「謙虚も過ぎれば驕慢になる。エルはもっと自分の能力を自覚し認めるきじゃ。という訳で、陛下からこれを預かってきた」

 そう言ってお祖母様がテーブルに置いたのは、一通の書状でした。

「これって……」

 お祖母様が目で促すので中身を空けると、そこにあったのは……

「王宮解呪師の、辞令?」

 そこには陛下の御名で私を王宮解呪師に命じるとありました。ですが……

「あ、あり得ませんわ。こんなの! だって私は試験も受けていませんし、その為の教育だって……」
「そんなことはなかろう。公爵の呪いの大半を解き、聖域も解呪したんじゃ。資格としては十分じゃよ」
「ですが……」
「試験も教育も足りない者には必要なものじゃ。だが、エルはエンゲルスが認めるほどの知識も技術もある。何ら問題はないよ。のう、公爵もそう思わぬか?」
「仰る通りです。試験は求めるレベルに達しているかを見極めるため、教育は足りない知識を補うためのもの。聖域にあったあれだけの呪いを解いたのに資格がないなどというのは、他の解呪師に失礼だよ」
「ですが……」
「エルはもっと自信を持っていいんだ。ちなみに陛下は筆頭解呪師にと仰っていたんだよ」
「ええっ?」
「それでは王都に留まらねばならないからね。絶対に認められないと抗議したんだ」
「…………」

 いつの間にそんなことになっていたのでしょうか。ですが……

「エル、あの両親のせいで自信が持てないのかもしれないが、それは違う。あなたは十分に価値がある立派な解呪師だ。もっと自信を持ってくれ」

 ウィル様にそう言われてしまえば、否定など出来ませんでした。ずっと私は自分の価値を求めていたのです。認められたいと、私でも出来ることがあるのだと言われたかった……

「姉上は私の自慢の姉上です! アル姉様なんかよりもずっとです!」
「レオの言う通りじゃ、わしにとっても自慢の孫じゃよ。そなたの能力はエンゲルスお墨付きじゃ」
「そうだよ、エル。君は私の自慢の妻で恩人だ。そうだな、君のその低い自尊心を人並みに戻すために、これからは褒めて褒めて褒めまくろう」

 ウィル様が楽しそうにそう言うと、レオとお祖母様まで同意してしまい、この後私は三人からことある毎に褒められることになって……恥ずかしさに悶絶することになるのでした。



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