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婚約の行方は…
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二人とお茶をした翌日、私はローウェル侯爵邸で、アイザック様の隣に座ってお茶をしていた。
闇から戻ってきたアイザック様は、私が自分の身体を他人に触られるのが不快だと言った事を覚えていて、あの時から必要以上にセラフィーナの身体に触れる事はしなかった。つまりは膝の上の定位置は、一先ずなしになったのだ。
まぁ、私からすると『私』が中にいても『私』の身体じゃないから、他の女性をお触りしている…とも言える訳で…その辺の機微を察してくれたのかな、と思う。残念に思う気持ちもあったけれど、セラフィーナの事を思うとこの距離感が妥当だろう。こういう気遣いの上手さはさすが出来る男は違う!と思う。
触れるかどうかの程度の距離で、他愛もない話をしているのは至福の時間だ。今日は隣国の有名な紅茶と街で話題のケーキを前に、先日クローディア達とお茶をした時の話をしていた。クローディアが元の世界に帰らずに元の身体に戻れる方法を探してくれると言ったと伝えると、そんな方法があるなら幸いだ、是非見つけて欲しいと言ってくれた。
「あの…アイザック様」
「何だ?」
「元の身体に戻ったら…婚約は…」
「その時はセラフィーナ嬢とは解消して、貴女とし直せばいい」
「でも…」
「貴女の身体は既にリット子爵家の令嬢だ。セラフィーナ嬢と同じ子爵家だし、リット家はうちの分家の一つ。特に問題はない」
そう言えばルシアは子爵家の、それもローウェル侯爵家の分家筋の養女になっていたのだった。だったら問題ないのか…
「そうですか…でも、国王陛下には…」
「陛下には私から内々に事情を話そうと思う。殿下の事もあるしな、このままという訳にもいくまい」
「そうですか…でも、よかったです。婚約し直すのは難しいかと思っていましたから」
「いや、むしろその方が好ましい。ハットン家はレイトン侯爵家の分家だから、侯爵が介入してくる可能性もあるからな」
「そうなんですね」
「貴族とは既得権の奪い合いだからな。最も、貴女がセラフィーナ嬢の姿のままを選ぶのであれば、レイトン侯爵の介入など排除するだけだ。どちらにしても私にはその力がある。心配はいらない」
何とも頼もしく、そして揺るぎない考え方の方だ。私の本当の姿がアラサーの平凡なものでも、アイザック様はそれでいいと言ってくれる。
今だって王子が中にいる私の身体にも、マッサージなどを手配してくれているのだから有難い。うん、私もお肌の曲がり角をとうに超えているからね、お手入れがあるのとないのでは雲泥の差だろう。
「ありがとうございます、アイザック様」
言い過ぎる事はないだろうお礼を口にすると、アイザック様が目元を和らげて笑みを浮かべた。巷では子供が怯えると言われている笑顔だけど、その言い方は悪意を含んで大げさに誇張されたものだ。実際にはとても心が温かくなる笑顔なのだから。
(ああ、この人が好きだなぁ…)
こうも素直にそう思える相手に出会えるなんて…今までの元彼は何と言うか、友達や戦友の延長という感じで、甘えるとかそんな感情は持てなかった。彼らとは…寂しさや傷の舐め合いの延長で、恋ではなかったのかもしれない…
その翌日、私はアイザック様と一緒に、王子に魔道具について話を聞いていた。クローディアから殿下の話も聞いて欲しいと言われたからだ。さすがにクローディアがここに来るのは理由がなく、かと言って王子をマクニール侯爵家に連れて行こうにも本人が嫌がるので、私が代わりに話を聞く事になったのだ。
それは、突然の事だった。
(…え?)
ふと、何かが割れるような、そんな音が身体の奥からした気がして、私は思わず自分の身体を抱きしめていた。身体の奥から言い様のない違和感が這い上がってくる…
(な、何…?)
「セイナ、どうした?」
私の違和感を察したのか、アイザック様が声をかけてくれたけど…何だか嫌な予感がする…何が…とはわからないけれど…
ふと向かい側に座る私を見ると、王子も何かを感じているらしく、表情を強張らせていた。
「セイナ!」
何かを察したのか、アイザック様は私を抱きしめて…私も思わずその腕にしがみついた。何?何だか気持ち悪くて…身体がバラバラになる感覚がする…
(え?これって…もしかして元の身体に…?)
その事が頭に浮かんだ瞬間、私の身体の血が凍り付いたような感覚を覚えた。そんな、それじゃ、私はもう二度とアイザック様と…その想いに恐怖を感じた私は、必死に腕に力を込めてアイザック様に縋りついた。
「あ、アイザック様…!もしかして…身体が…!」
「セイナ?!まさか?!!!」
「うそ…ラス!助けて!」
必死にその身体に縋りつくのに…段々その感覚が薄れていくのを感じた。アイザック様は目を見開いて驚きの表情を浮かべたが、それで私が言いたい事を察して下さったのだろう。
「アイザック様、わ、私の身体を!」
そうだった。今はセラフィーナの姿でアイザック様に縋りついている場合じゃない。それよりも『私の』身体を…その思いは直ぐにアイザック様に伝わったらしい。
「セイナ!行かせるか!」
そう言いならテーブルを跨いだアイザック様は、私の身体をかき抱いた。それは私を元の世界に戻さないという想いの表れだろう。
(お願い、アイザック様!『私』を捕まえていて…!)
そう思う間にも私の意識は、感覚は、徐々に薄れていった。
(嫌!絶対に戻りたくない!私は…アイザック様と一緒に…!)
ああ、私をそのまま抱きしめて放さないで。そう強く願った私だったけれど…私の意識はうす暗い闇に落ちるように途切れた。遠くでアイザック様の私の名を呼ぶ声が聞こえた気がした…
闇から戻ってきたアイザック様は、私が自分の身体を他人に触られるのが不快だと言った事を覚えていて、あの時から必要以上にセラフィーナの身体に触れる事はしなかった。つまりは膝の上の定位置は、一先ずなしになったのだ。
まぁ、私からすると『私』が中にいても『私』の身体じゃないから、他の女性をお触りしている…とも言える訳で…その辺の機微を察してくれたのかな、と思う。残念に思う気持ちもあったけれど、セラフィーナの事を思うとこの距離感が妥当だろう。こういう気遣いの上手さはさすが出来る男は違う!と思う。
触れるかどうかの程度の距離で、他愛もない話をしているのは至福の時間だ。今日は隣国の有名な紅茶と街で話題のケーキを前に、先日クローディア達とお茶をした時の話をしていた。クローディアが元の世界に帰らずに元の身体に戻れる方法を探してくれると言ったと伝えると、そんな方法があるなら幸いだ、是非見つけて欲しいと言ってくれた。
「あの…アイザック様」
「何だ?」
「元の身体に戻ったら…婚約は…」
「その時はセラフィーナ嬢とは解消して、貴女とし直せばいい」
「でも…」
「貴女の身体は既にリット子爵家の令嬢だ。セラフィーナ嬢と同じ子爵家だし、リット家はうちの分家の一つ。特に問題はない」
そう言えばルシアは子爵家の、それもローウェル侯爵家の分家筋の養女になっていたのだった。だったら問題ないのか…
「そうですか…でも、国王陛下には…」
「陛下には私から内々に事情を話そうと思う。殿下の事もあるしな、このままという訳にもいくまい」
「そうですか…でも、よかったです。婚約し直すのは難しいかと思っていましたから」
「いや、むしろその方が好ましい。ハットン家はレイトン侯爵家の分家だから、侯爵が介入してくる可能性もあるからな」
「そうなんですね」
「貴族とは既得権の奪い合いだからな。最も、貴女がセラフィーナ嬢の姿のままを選ぶのであれば、レイトン侯爵の介入など排除するだけだ。どちらにしても私にはその力がある。心配はいらない」
何とも頼もしく、そして揺るぎない考え方の方だ。私の本当の姿がアラサーの平凡なものでも、アイザック様はそれでいいと言ってくれる。
今だって王子が中にいる私の身体にも、マッサージなどを手配してくれているのだから有難い。うん、私もお肌の曲がり角をとうに超えているからね、お手入れがあるのとないのでは雲泥の差だろう。
「ありがとうございます、アイザック様」
言い過ぎる事はないだろうお礼を口にすると、アイザック様が目元を和らげて笑みを浮かべた。巷では子供が怯えると言われている笑顔だけど、その言い方は悪意を含んで大げさに誇張されたものだ。実際にはとても心が温かくなる笑顔なのだから。
(ああ、この人が好きだなぁ…)
こうも素直にそう思える相手に出会えるなんて…今までの元彼は何と言うか、友達や戦友の延長という感じで、甘えるとかそんな感情は持てなかった。彼らとは…寂しさや傷の舐め合いの延長で、恋ではなかったのかもしれない…
その翌日、私はアイザック様と一緒に、王子に魔道具について話を聞いていた。クローディアから殿下の話も聞いて欲しいと言われたからだ。さすがにクローディアがここに来るのは理由がなく、かと言って王子をマクニール侯爵家に連れて行こうにも本人が嫌がるので、私が代わりに話を聞く事になったのだ。
それは、突然の事だった。
(…え?)
ふと、何かが割れるような、そんな音が身体の奥からした気がして、私は思わず自分の身体を抱きしめていた。身体の奥から言い様のない違和感が這い上がってくる…
(な、何…?)
「セイナ、どうした?」
私の違和感を察したのか、アイザック様が声をかけてくれたけど…何だか嫌な予感がする…何が…とはわからないけれど…
ふと向かい側に座る私を見ると、王子も何かを感じているらしく、表情を強張らせていた。
「セイナ!」
何かを察したのか、アイザック様は私を抱きしめて…私も思わずその腕にしがみついた。何?何だか気持ち悪くて…身体がバラバラになる感覚がする…
(え?これって…もしかして元の身体に…?)
その事が頭に浮かんだ瞬間、私の身体の血が凍り付いたような感覚を覚えた。そんな、それじゃ、私はもう二度とアイザック様と…その想いに恐怖を感じた私は、必死に腕に力を込めてアイザック様に縋りついた。
「あ、アイザック様…!もしかして…身体が…!」
「セイナ?!まさか?!!!」
「うそ…ラス!助けて!」
必死にその身体に縋りつくのに…段々その感覚が薄れていくのを感じた。アイザック様は目を見開いて驚きの表情を浮かべたが、それで私が言いたい事を察して下さったのだろう。
「アイザック様、わ、私の身体を!」
そうだった。今はセラフィーナの姿でアイザック様に縋りついている場合じゃない。それよりも『私の』身体を…その思いは直ぐにアイザック様に伝わったらしい。
「セイナ!行かせるか!」
そう言いならテーブルを跨いだアイザック様は、私の身体をかき抱いた。それは私を元の世界に戻さないという想いの表れだろう。
(お願い、アイザック様!『私』を捕まえていて…!)
そう思う間にも私の意識は、感覚は、徐々に薄れていった。
(嫌!絶対に戻りたくない!私は…アイザック様と一緒に…!)
ああ、私をそのまま抱きしめて放さないで。そう強く願った私だったけれど…私の意識はうす暗い闇に落ちるように途切れた。遠くでアイザック様の私の名を呼ぶ声が聞こえた気がした…
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