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衝撃の事実
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元の身体に戻らないのが確定的…という空気は、身体がまだ本調子じゃないのも相まって、鬱々とした気分をもたらした。
(やっぱり…自分の身体がよかったよなぁ…)
鏡に映る自分を眺めながら出てきたのは、そんな想いだった。
そりゃあ、十人が十人美少女と答えるだろうセラフィーナに比べたら、本来の私は地味で平凡で年増ですらある。自分でいうのもなんだけど、二人を並べてどっちがいいか聞かれたら、こっちも十人がセラフィーナを選ぶだろう。
私だって生まれる前に神様からどっちにする?なんて聞かれたらセラフィーナ一択だ。どうせ生きるなら可愛い方が何かとお得なのは…これまでの人生で嫌って程味わってきた。
それでも…三十年近く一緒だった身体を手放すと言うのはまた別だ。あれは私の歴史でもあり人生そのものだ。顔だって二十歳過ぎたら自己責任って誰かが言っていたけど、あの見た目全てが私のこれまでの人生とも言える。内面も生活習慣も顔や体に出るんだから。
そういう意味でも、いくらセラフィーナが可愛くて若くても、そう簡単にじゃこっち!とは思いきれなかった。
(そんなに簡単に割り切れたら…整形とか出来たんだろうなぁ…)
別に親に貰った身体を云々は気にしていなかったけど、整形は自分を否定するみたいな気がして手が出せなかった。そんなに固く考えなくていいって、と友達は言ってたけど…まぁ、そこまで見た目にこだわっていなかった私なんだけど…それでも身体を交換…は受け容れるにはハードルが高かった。
こんな感じで、私は今更ながら元の身体が惜しく感じていたのだけど…
そんな未練?が吹き飛ぶほどの事態が起きた。
意識を失ってから一月が経ち、私の生活は日常に戻っていた。まだ無理はしない方がいいと、侯爵夫人としての勉強は半分くらいに減らされていたけれど、そろそろ元に戻そうか…という感じになっていた。
一方、一時体調不良を訴えていた私の中にいる王子も落ち着いてきて、最近では淑女教育も始まっていた。中身が王子だからマナーは出来ているんだけど、それも男性向けだから、女性としてのマナーを、となったのだ。
これもまた王子をこの屋敷に引き留めるための方便だったりもする。ローウェル侯爵の分家から嫁ぐのであれば、それなりのマナーは必須というのが名目だった。
まぁ、最初は異母兄がそれなら教育は我が家で…と言っていたけれど、今は王子はリット子爵家の養女だ。まだ婚約者でもないのにそんな事はさせられない、とアイザック様が言ったので、異母兄も何も言えなかったのだ。
その代わりに、定期的に我が家で会うのは目をつぶっていたが、しっかりと監視はされていた。全ては私の身体の保護のためだった。
その日、再び気分が悪いと言い出した王子に、医者を手配して貰ったんだけど…
「おめでたですね」
「え…?」
「な…!」
「お、めでた…?」
「ええ、そろそろ三か月目に入る事ですね」
「…ラ、ラスの、赤ちゃんが…」
(はぁああああああっ?!!)
目の前で繰り広げられる会話に、私は軽く口を開けたまま心の中でしか叫べなかった。いや、本当に驚くと身体がフリーズして声も出せなかったんだってば!息するのもしばらく忘れてたくらいなんですけどぉ…?
一方、妊娠を告げられた王子は、目の前で頬に両手を添えて感極まっていた。その様子を、私は口を開けたままただ茫然と眺めるしか出来なかった。
(…お、王子が、妊娠?)
でも、戸惑っても仕方ないと思わない?自分の身体が預かり知らぬところで致していて、しかも妊娠したなんて…
医師が告げた言葉を何度も頭の中で繰り返すのだけど…バリアでも張られたかのように、意味が私の頭の中に全く入ってこなかった。実感がなさ過ぎると言うか、現実味が湧かないと言うか…
思わずアイザック様の顔を見上げたけれど…アイザック様も戸惑いの表情を浮かべていた。それを見て、ああ、かなりショックな事を言われてるんだな、とは感じたけど…まるで夢の中にいるような感覚だった。
「間違いないのか?」
「ええ、間違いございません。そろそろ三か月目に入る頃でしょうか」
「三か月だと…」
アイザック様と医師のやり取りを聞きながら、そんな…いつの間に…と、そんな言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。そりゃあ、ローウェル侯爵邸に引き取る前は騎士団の寮にいて、その間はどうとでもなった、んだよね…
でも、この世界では婚前交渉はタブーじゃなかったっけ?だからそれはないと思っていたのに…
「セイナ、顔が真っ青だ。大丈夫か?」
「…ア、イザック様…」
何だか自分の足元がなくなるような、深い闇に落ちていきそうな心許ない感覚に襲われて、思わず名を呼んだけれど…アイザック様にそう言われて、自分が思っている以上にショックを受けているんだと感じた。
(何なの…)
嬉し泣きを始めた王子が、何だか不気味で気持ち悪く見えた…何だろう、理解不能の未知の生物…そんな感覚に近い気がした。あれが自分の身体だった事が信じられないし、おぞましくて吐き気まで込み上げてくる気がした…
「セイナ、部屋に戻って休もう」
そう言うとアイザック様は私を抱き上げ、王子と彼に付けている侍女に体調を第一に静かに過ごす様にと告げて部屋を後にしたけれど…私はお姫様抱っこをされているにも関わらず、感情がなくなってしまったのか、何の感慨も持てずにいた。
部屋に戻っても、暫くはソファに座って呆然としているしか出来なかった。殆ど知らない人に抱かれていた自分の身体が、何だか得体のしれない何かにしか感じられない。本人の意識のない時にというのも…眠っている間に犯されたようで、ただただ気持ち悪かった。
(やっぱり…自分の身体がよかったよなぁ…)
鏡に映る自分を眺めながら出てきたのは、そんな想いだった。
そりゃあ、十人が十人美少女と答えるだろうセラフィーナに比べたら、本来の私は地味で平凡で年増ですらある。自分でいうのもなんだけど、二人を並べてどっちがいいか聞かれたら、こっちも十人がセラフィーナを選ぶだろう。
私だって生まれる前に神様からどっちにする?なんて聞かれたらセラフィーナ一択だ。どうせ生きるなら可愛い方が何かとお得なのは…これまでの人生で嫌って程味わってきた。
それでも…三十年近く一緒だった身体を手放すと言うのはまた別だ。あれは私の歴史でもあり人生そのものだ。顔だって二十歳過ぎたら自己責任って誰かが言っていたけど、あの見た目全てが私のこれまでの人生とも言える。内面も生活習慣も顔や体に出るんだから。
そういう意味でも、いくらセラフィーナが可愛くて若くても、そう簡単にじゃこっち!とは思いきれなかった。
(そんなに簡単に割り切れたら…整形とか出来たんだろうなぁ…)
別に親に貰った身体を云々は気にしていなかったけど、整形は自分を否定するみたいな気がして手が出せなかった。そんなに固く考えなくていいって、と友達は言ってたけど…まぁ、そこまで見た目にこだわっていなかった私なんだけど…それでも身体を交換…は受け容れるにはハードルが高かった。
こんな感じで、私は今更ながら元の身体が惜しく感じていたのだけど…
そんな未練?が吹き飛ぶほどの事態が起きた。
意識を失ってから一月が経ち、私の生活は日常に戻っていた。まだ無理はしない方がいいと、侯爵夫人としての勉強は半分くらいに減らされていたけれど、そろそろ元に戻そうか…という感じになっていた。
一方、一時体調不良を訴えていた私の中にいる王子も落ち着いてきて、最近では淑女教育も始まっていた。中身が王子だからマナーは出来ているんだけど、それも男性向けだから、女性としてのマナーを、となったのだ。
これもまた王子をこの屋敷に引き留めるための方便だったりもする。ローウェル侯爵の分家から嫁ぐのであれば、それなりのマナーは必須というのが名目だった。
まぁ、最初は異母兄がそれなら教育は我が家で…と言っていたけれど、今は王子はリット子爵家の養女だ。まだ婚約者でもないのにそんな事はさせられない、とアイザック様が言ったので、異母兄も何も言えなかったのだ。
その代わりに、定期的に我が家で会うのは目をつぶっていたが、しっかりと監視はされていた。全ては私の身体の保護のためだった。
その日、再び気分が悪いと言い出した王子に、医者を手配して貰ったんだけど…
「おめでたですね」
「え…?」
「な…!」
「お、めでた…?」
「ええ、そろそろ三か月目に入る事ですね」
「…ラ、ラスの、赤ちゃんが…」
(はぁああああああっ?!!)
目の前で繰り広げられる会話に、私は軽く口を開けたまま心の中でしか叫べなかった。いや、本当に驚くと身体がフリーズして声も出せなかったんだってば!息するのもしばらく忘れてたくらいなんですけどぉ…?
一方、妊娠を告げられた王子は、目の前で頬に両手を添えて感極まっていた。その様子を、私は口を開けたままただ茫然と眺めるしか出来なかった。
(…お、王子が、妊娠?)
でも、戸惑っても仕方ないと思わない?自分の身体が預かり知らぬところで致していて、しかも妊娠したなんて…
医師が告げた言葉を何度も頭の中で繰り返すのだけど…バリアでも張られたかのように、意味が私の頭の中に全く入ってこなかった。実感がなさ過ぎると言うか、現実味が湧かないと言うか…
思わずアイザック様の顔を見上げたけれど…アイザック様も戸惑いの表情を浮かべていた。それを見て、ああ、かなりショックな事を言われてるんだな、とは感じたけど…まるで夢の中にいるような感覚だった。
「間違いないのか?」
「ええ、間違いございません。そろそろ三か月目に入る頃でしょうか」
「三か月だと…」
アイザック様と医師のやり取りを聞きながら、そんな…いつの間に…と、そんな言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。そりゃあ、ローウェル侯爵邸に引き取る前は騎士団の寮にいて、その間はどうとでもなった、んだよね…
でも、この世界では婚前交渉はタブーじゃなかったっけ?だからそれはないと思っていたのに…
「セイナ、顔が真っ青だ。大丈夫か?」
「…ア、イザック様…」
何だか自分の足元がなくなるような、深い闇に落ちていきそうな心許ない感覚に襲われて、思わず名を呼んだけれど…アイザック様にそう言われて、自分が思っている以上にショックを受けているんだと感じた。
(何なの…)
嬉し泣きを始めた王子が、何だか不気味で気持ち悪く見えた…何だろう、理解不能の未知の生物…そんな感覚に近い気がした。あれが自分の身体だった事が信じられないし、おぞましくて吐き気まで込み上げてくる気がした…
「セイナ、部屋に戻って休もう」
そう言うとアイザック様は私を抱き上げ、王子と彼に付けている侍女に体調を第一に静かに過ごす様にと告げて部屋を後にしたけれど…私はお姫様抱っこをされているにも関わらず、感情がなくなってしまったのか、何の感慨も持てずにいた。
部屋に戻っても、暫くはソファに座って呆然としているしか出来なかった。殆ど知らない人に抱かれていた自分の身体が、何だか得体のしれない何かにしか感じられない。本人の意識のない時にというのも…眠っている間に犯されたようで、ただただ気持ち悪かった。
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