56 / 74
王子の今後
しおりを挟む
アイザック様の前で恥ずかしくも大泣きしたうえ、セラフィーナからの告白は…これまでの私の鬱々とした気持ちを一掃してくれたらしい。そう思うほどに、あの後の私は…すっきりした気分になっていた。
元の身体に戻りたがっていたセラフィーナだったけれど、彼女は現状を受け入れてクローディアとして生きていく事を選んでいたのだ。それはクローディアも同様で、彼女たちは既に新しい身体での人生を受け入れ、それぞれに歩み始めていた。
だったら私も、セラフィーナからよろしく頼むと託された身体を大切に守りながら生きていくだけだ。彼女がそう願うのなら、その想いを否定する事は出来そうになかった。
彼女が嬉々として現状を受け入れたと思えるほど、私もおめでたくはない。彼女が両親を大切に思っていた事も、両親にも話していない夢を持っていた事も…私はエレンから聞いて知っていたから。
それでも、彼女は今を生きる事を選び、私の背中を押すためにそう言ってくれたのだろう。私がアイザック様を好きだと言う気持ちを気遣って。
何と言うか、こうなると意外に吹っ切れてしまうもので、私は今度こそセラフィーナとして生きると腹を括った。単純かもしれないけど、元より私はこんな感じだ。嘆いたところで何かがよくなるわけではないのは…日本でも散々思い知らされた。元に戻れないならここで踏ん張るしかない。
妊娠が発覚してからの王子は絶賛悪阻中で、食欲もなくかなり体調が悪いらしい。侍女が栄養価の高い食べられる物を探して食事をさせてくれているけれど、中々大変そうだった。
そんな状態なので、王子と話をしたいとは思っても、体調が心配で訪ねるのは憚られた。
いや、だって、妊婦にストレスは大敵って言うじゃない?それに安定期に入るまでは危険だって言うし。妊娠した友達や同僚もそんな事言っていたし、私もそんな時期は彼女たちに凄く気を使ったものだ。
そりゃあ、王子には言いたい事は山ほどある。何なら一発どころか十発くらい殴らせろ――!!!と思わなくもないけど、殴られるのは自分の身体だし、更に言えば赤ちゃんに罪はない。
非常に腹立たしいが、理不尽だとは思うが、赤ちゃんに罪はない。さすがに感情のままに怒鳴って殴りつける…なんて事は出来そうもなかった。十年若かったら突撃しただろうけど…
王子に対しては消化し切れない思いを抱いて過ごしていた私だったけれど、アイザック様から王子の事で相談があると言われた。
案の定と言うべきか、それは王子―私の身体―の今後の身の振り方だ。今の私の身体はルシア=リット子爵令嬢という肩書がある。ローウェル侯爵家の分家の養女になっているけど、異母兄との婚約に関しては…まだ何も決まっていなかった。ただ、さすがに子供が出来ればこのまま、という訳にもいかなかった。
それに関しては…私も腹を括るしかないんだよね。
王子には言いたい事が五万とあるし、何ならそれは異母兄に対してもだけど…色々考えたところで子どもに罪はない、ここに行き着いちゃうんだよなぁ…
きっとあのお腹のいる子も、こんな形で生を受けたくなかっただろうに、とちょっと同情する。子は親を選べないから。私だったらこんな母親の元に生まれたくなかったし、将来事実を知ったら軽く絶望するだろうな、と思う。
そもそも、王子のメンタルが理解不能だ。自分の身体じゃないってのに、元の持ち主がわかっているのに、その上で致すか?その神経が理解出来ないし、理解したくもない。うん、あれは未知の生物なのだ。あれはその一つだと結論づけ、私は無駄な労力を費やす事は諦めた。世の中には理解しようとしても不可能な事は多々あるのだ。
でも、こうしている間にも子どもは育っているんだからどうしようもない。王子も異母兄も子どもが出来た事は喜んでいるし、育てる気はあるらしいから、それだけは救いかな、と思っている。そうでなかったら…私の身体でもグーで殴っていたと思う。
「ハットン子爵から、早めに婚姻をとの連絡がきた」
「クリフォードさんが…」
そう言ってアイザック様がクリフォードさんからの手紙を見せてくれた。そこには、ルシアに子供が出来たから責任を取る意味でも早めに婚姻させてしまいたい。異母兄も強く婚姻を望んでいるとあった。クリフォードさんは真面目だから、きっと今頃は頭を悩ませているだろう。胃痛に効く薬を送ってあげるべきだろうか…
「ライナス殿は、反対されるなら勘当も辞さぬと言っているらしい」
「勘当ですか」
勝手に何ぬかしているんだ?と思った私は間違っていない筈だ。何?異母兄まで悲劇の恋人同士だと酔ってるの?
「ああ。さすがに婚約もまだの段階で子供が出来たのは看過できない。かと言って…このまま駆け落ちされるのもどうかと…」
「そうですね。駆け落ちされるのは、私も嫌、ですね…」
うん、勝手に目の届かないところに行かれるのは困る。元に戻れないとしても、何かあった時のためにも所在は明らかにしておきたい。
「この件に関しては、セイナの気持ちを最優先にしたい。元は君の身体なのだから」
「でも…」
「ルシアに関してなら心配は無用だ。彼女は分家の養女だから、駆け落ちしても誘拐として追う事も出来る」
「誘拐、ですか?」
「ああ、我が国ではいくら想い合っていても、婚約者でない娘を連れて駆け落ちすれば誘拐とみなされるのだ」
アイザック様の話によると、以前駆け落ちと見せかけて、意中の令嬢を誘拐して妻にした悪質な事件が続いたらしい。その為、貴族では同意の上での駆け落ちであっても、婚約していない場合は誘拐とみなされるようになったのだと言う。
「セイナが許せない、子どもも認められない、というのであれば、それに合わせた対応をしよう」
「それに合わせたって…子供は…」
「どうしても嫌だと言うなら…堕胎も選択肢としてはある」
「それ、は…」
アイザック様もあまり乗り気でないのは一目瞭然だったけれど、私が嫌だと言えばその選択肢を選ぶつもりであるのははっきりしていた。全ては私の気持ち一つ…そう言われて、私は思わず喉が鳴った。
「そうですか…それなら…」
私は自分の考えをアイザック様に伝えた。
元の身体に戻りたがっていたセラフィーナだったけれど、彼女は現状を受け入れてクローディアとして生きていく事を選んでいたのだ。それはクローディアも同様で、彼女たちは既に新しい身体での人生を受け入れ、それぞれに歩み始めていた。
だったら私も、セラフィーナからよろしく頼むと託された身体を大切に守りながら生きていくだけだ。彼女がそう願うのなら、その想いを否定する事は出来そうになかった。
彼女が嬉々として現状を受け入れたと思えるほど、私もおめでたくはない。彼女が両親を大切に思っていた事も、両親にも話していない夢を持っていた事も…私はエレンから聞いて知っていたから。
それでも、彼女は今を生きる事を選び、私の背中を押すためにそう言ってくれたのだろう。私がアイザック様を好きだと言う気持ちを気遣って。
何と言うか、こうなると意外に吹っ切れてしまうもので、私は今度こそセラフィーナとして生きると腹を括った。単純かもしれないけど、元より私はこんな感じだ。嘆いたところで何かがよくなるわけではないのは…日本でも散々思い知らされた。元に戻れないならここで踏ん張るしかない。
妊娠が発覚してからの王子は絶賛悪阻中で、食欲もなくかなり体調が悪いらしい。侍女が栄養価の高い食べられる物を探して食事をさせてくれているけれど、中々大変そうだった。
そんな状態なので、王子と話をしたいとは思っても、体調が心配で訪ねるのは憚られた。
いや、だって、妊婦にストレスは大敵って言うじゃない?それに安定期に入るまでは危険だって言うし。妊娠した友達や同僚もそんな事言っていたし、私もそんな時期は彼女たちに凄く気を使ったものだ。
そりゃあ、王子には言いたい事は山ほどある。何なら一発どころか十発くらい殴らせろ――!!!と思わなくもないけど、殴られるのは自分の身体だし、更に言えば赤ちゃんに罪はない。
非常に腹立たしいが、理不尽だとは思うが、赤ちゃんに罪はない。さすがに感情のままに怒鳴って殴りつける…なんて事は出来そうもなかった。十年若かったら突撃しただろうけど…
王子に対しては消化し切れない思いを抱いて過ごしていた私だったけれど、アイザック様から王子の事で相談があると言われた。
案の定と言うべきか、それは王子―私の身体―の今後の身の振り方だ。今の私の身体はルシア=リット子爵令嬢という肩書がある。ローウェル侯爵家の分家の養女になっているけど、異母兄との婚約に関しては…まだ何も決まっていなかった。ただ、さすがに子供が出来ればこのまま、という訳にもいかなかった。
それに関しては…私も腹を括るしかないんだよね。
王子には言いたい事が五万とあるし、何ならそれは異母兄に対してもだけど…色々考えたところで子どもに罪はない、ここに行き着いちゃうんだよなぁ…
きっとあのお腹のいる子も、こんな形で生を受けたくなかっただろうに、とちょっと同情する。子は親を選べないから。私だったらこんな母親の元に生まれたくなかったし、将来事実を知ったら軽く絶望するだろうな、と思う。
そもそも、王子のメンタルが理解不能だ。自分の身体じゃないってのに、元の持ち主がわかっているのに、その上で致すか?その神経が理解出来ないし、理解したくもない。うん、あれは未知の生物なのだ。あれはその一つだと結論づけ、私は無駄な労力を費やす事は諦めた。世の中には理解しようとしても不可能な事は多々あるのだ。
でも、こうしている間にも子どもは育っているんだからどうしようもない。王子も異母兄も子どもが出来た事は喜んでいるし、育てる気はあるらしいから、それだけは救いかな、と思っている。そうでなかったら…私の身体でもグーで殴っていたと思う。
「ハットン子爵から、早めに婚姻をとの連絡がきた」
「クリフォードさんが…」
そう言ってアイザック様がクリフォードさんからの手紙を見せてくれた。そこには、ルシアに子供が出来たから責任を取る意味でも早めに婚姻させてしまいたい。異母兄も強く婚姻を望んでいるとあった。クリフォードさんは真面目だから、きっと今頃は頭を悩ませているだろう。胃痛に効く薬を送ってあげるべきだろうか…
「ライナス殿は、反対されるなら勘当も辞さぬと言っているらしい」
「勘当ですか」
勝手に何ぬかしているんだ?と思った私は間違っていない筈だ。何?異母兄まで悲劇の恋人同士だと酔ってるの?
「ああ。さすがに婚約もまだの段階で子供が出来たのは看過できない。かと言って…このまま駆け落ちされるのもどうかと…」
「そうですね。駆け落ちされるのは、私も嫌、ですね…」
うん、勝手に目の届かないところに行かれるのは困る。元に戻れないとしても、何かあった時のためにも所在は明らかにしておきたい。
「この件に関しては、セイナの気持ちを最優先にしたい。元は君の身体なのだから」
「でも…」
「ルシアに関してなら心配は無用だ。彼女は分家の養女だから、駆け落ちしても誘拐として追う事も出来る」
「誘拐、ですか?」
「ああ、我が国ではいくら想い合っていても、婚約者でない娘を連れて駆け落ちすれば誘拐とみなされるのだ」
アイザック様の話によると、以前駆け落ちと見せかけて、意中の令嬢を誘拐して妻にした悪質な事件が続いたらしい。その為、貴族では同意の上での駆け落ちであっても、婚約していない場合は誘拐とみなされるようになったのだと言う。
「セイナが許せない、子どもも認められない、というのであれば、それに合わせた対応をしよう」
「それに合わせたって…子供は…」
「どうしても嫌だと言うなら…堕胎も選択肢としてはある」
「それ、は…」
アイザック様もあまり乗り気でないのは一目瞭然だったけれど、私が嫌だと言えばその選択肢を選ぶつもりであるのははっきりしていた。全ては私の気持ち一つ…そう言われて、私は思わず喉が鳴った。
「そうですか…それなら…」
私は自分の考えをアイザック様に伝えた。
61
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる