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番外編
アルヴァン⑥
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「婚約……破棄?」
その日、グローリア様の私室に向かっていた俺は、前職の同僚から自分が婚約破棄されたと聞かされた。あまりにも想定外すぎて、直ぐにはその意味が頭の中に入ってこなかったほどだった。
「お前は何をやっていたのだ?!!」
慌てて実家に戻った俺を待っていたのは父上の鉄拳だった。聞けばこれまでに何度も、俺宛に警告の手紙を送っていたという。しかもヴィオラからも何度も手紙が送られていたとも。だが……
「手紙、なんて……そんなものは……」
「そんな筈はないだろう! 何度も何度も送ったんだぞ!」
「ほ、本当です! そうだよな、カイン?」
手紙を管理するのは昔からカインの役目だった。これまでも、時々は実家やヴィオラからの手紙が届いていると報告を受けたし、彼が読み聞かせてくれたものもあった。でも……
「カイン、どうして……」
よくよく調べて分かったが、カインは俺宛の手紙を悉く握りつぶしていた。
「こんなにも努力されているアルヴァン様が、次男だというだけで子爵位しか得られないのに納得出来なかったからです」
淡々とそう告げるカインは、俺の知るカインではなかった。こんな冷めた目をするような奴じゃなかったし、ヴィオラとの婚約を喜び、お似合いだとまで言ってくれたのは彼だった筈だ。なのに、どうして……目の前のカインが、全く知らない人物に見えた。
その後、何とかヴィオラに話を聞きたいと思ってリード侯爵家を訪ねたが、夫人に冷たい目で拒絶されるだけだった。あんなにも親しくし、俺を息子のように可愛がってくださったのに、その変わり様に俺は婚約破棄が現実だったのだと悟って体の中心が冷えていくのを感じた。来るなら両親と共に事前に連絡してから来るようにと素っ気なく言われて、俺は引き下がるしかなかった。
後日、両親と共にリード侯爵家を訪れたが……ヴィオラも、侯爵夫妻も、クリスも、そしていつも温かい目で俺を見ていた使用人たちも、冷え凍りそうな視線を俺に向けていた。馴染みのあるこの屋敷が、初めて来た場所のようにすら感じた。
この一年余りの間に何かあったのかを突きつけられた俺は、反論出来るものが何もなかった。グローリア様との噂が学園にも広まっていたことも、その事でヴィオラが悪女だと言われていたことも……知らなかった。
(グローリア様と恋仲だなんて、あり得ないのに……)
妹のように思い、お守りしたいと言う感情はあった。毎日のように接していれば情も湧く。だが、それ以上の感情はない。少なくとも恋愛対象としての想いなど持ちようもなかった。それはラファティに行った際のグローリア様の言動で一層強くなった。あの方と恋愛など、どうして出来ようか……
だが、そんな俺の想いが伝わることはなかった。この一年の不義理の代償は予想以上に大きく、俺の世界は一転してしまった。
カインには何度も理由を問いただしたが、彼は俺が子爵位しか得られないことが許せなかったと言うばかりだった。それだけの理由ではないと思うのだが、誰が聞いてもそう答えるばかりで、とうとう彼は我が家から追い出されてしまった。出て行く時の彼はどこか満足げな、安堵した表情だったように見えて、やはり何か裏があるのだろうと思った。
婚約破棄された件はグローリア様の耳にも入ったせいか、俺がこの一年出しても却下されていた長期休暇の申請が呆気なく降りた。俺は屋敷でこれまでのことを考えながら今後について考え込んでいた。この時点ではグローリア様にお仕えする気はすっかり失われていた。
ヴィオラのことだけではない。俺が一年余り、グローリア様に親身になって寄り添い、忠告していたことが全くあの方に理解されていないと分かったからだ。薄情かもしれないが、あんなにも理解出来ずにいたとは思いもよらず、何をおいてもお仕えしていた自分が馬鹿馬鹿しくなったのだ。
いくら王太子殿下から頼まれたとはいえ、婚約者と引き換えにしてまでやりたかったわけではない。全てはヴィオラとの将来に有利になるだろうとの思いから受けた話だったのだ。誠心誠意お仕えした結果がこれなのかと、不満と失望ばかりが膨れ上がっていった。
そんな時だった。同僚のマーカスが俺を訪ねてきたのは。
その日、グローリア様の私室に向かっていた俺は、前職の同僚から自分が婚約破棄されたと聞かされた。あまりにも想定外すぎて、直ぐにはその意味が頭の中に入ってこなかったほどだった。
「お前は何をやっていたのだ?!!」
慌てて実家に戻った俺を待っていたのは父上の鉄拳だった。聞けばこれまでに何度も、俺宛に警告の手紙を送っていたという。しかもヴィオラからも何度も手紙が送られていたとも。だが……
「手紙、なんて……そんなものは……」
「そんな筈はないだろう! 何度も何度も送ったんだぞ!」
「ほ、本当です! そうだよな、カイン?」
手紙を管理するのは昔からカインの役目だった。これまでも、時々は実家やヴィオラからの手紙が届いていると報告を受けたし、彼が読み聞かせてくれたものもあった。でも……
「カイン、どうして……」
よくよく調べて分かったが、カインは俺宛の手紙を悉く握りつぶしていた。
「こんなにも努力されているアルヴァン様が、次男だというだけで子爵位しか得られないのに納得出来なかったからです」
淡々とそう告げるカインは、俺の知るカインではなかった。こんな冷めた目をするような奴じゃなかったし、ヴィオラとの婚約を喜び、お似合いだとまで言ってくれたのは彼だった筈だ。なのに、どうして……目の前のカインが、全く知らない人物に見えた。
その後、何とかヴィオラに話を聞きたいと思ってリード侯爵家を訪ねたが、夫人に冷たい目で拒絶されるだけだった。あんなにも親しくし、俺を息子のように可愛がってくださったのに、その変わり様に俺は婚約破棄が現実だったのだと悟って体の中心が冷えていくのを感じた。来るなら両親と共に事前に連絡してから来るようにと素っ気なく言われて、俺は引き下がるしかなかった。
後日、両親と共にリード侯爵家を訪れたが……ヴィオラも、侯爵夫妻も、クリスも、そしていつも温かい目で俺を見ていた使用人たちも、冷え凍りそうな視線を俺に向けていた。馴染みのあるこの屋敷が、初めて来た場所のようにすら感じた。
この一年余りの間に何かあったのかを突きつけられた俺は、反論出来るものが何もなかった。グローリア様との噂が学園にも広まっていたことも、その事でヴィオラが悪女だと言われていたことも……知らなかった。
(グローリア様と恋仲だなんて、あり得ないのに……)
妹のように思い、お守りしたいと言う感情はあった。毎日のように接していれば情も湧く。だが、それ以上の感情はない。少なくとも恋愛対象としての想いなど持ちようもなかった。それはラファティに行った際のグローリア様の言動で一層強くなった。あの方と恋愛など、どうして出来ようか……
だが、そんな俺の想いが伝わることはなかった。この一年の不義理の代償は予想以上に大きく、俺の世界は一転してしまった。
カインには何度も理由を問いただしたが、彼は俺が子爵位しか得られないことが許せなかったと言うばかりだった。それだけの理由ではないと思うのだが、誰が聞いてもそう答えるばかりで、とうとう彼は我が家から追い出されてしまった。出て行く時の彼はどこか満足げな、安堵した表情だったように見えて、やはり何か裏があるのだろうと思った。
婚約破棄された件はグローリア様の耳にも入ったせいか、俺がこの一年出しても却下されていた長期休暇の申請が呆気なく降りた。俺は屋敷でこれまでのことを考えながら今後について考え込んでいた。この時点ではグローリア様にお仕えする気はすっかり失われていた。
ヴィオラのことだけではない。俺が一年余り、グローリア様に親身になって寄り添い、忠告していたことが全くあの方に理解されていないと分かったからだ。薄情かもしれないが、あんなにも理解出来ずにいたとは思いもよらず、何をおいてもお仕えしていた自分が馬鹿馬鹿しくなったのだ。
いくら王太子殿下から頼まれたとはいえ、婚約者と引き換えにしてまでやりたかったわけではない。全てはヴィオラとの将来に有利になるだろうとの思いから受けた話だったのだ。誠心誠意お仕えした結果がこれなのかと、不満と失望ばかりが膨れ上がっていった。
そんな時だった。同僚のマーカスが俺を訪ねてきたのは。
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