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番外編
アルヴァン⑤
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ヴィオラの誕生日が近づいてきた。昨年は急にグローリア様の護衛を命じられて行けなかったから、今年は一月以上前から休暇の申請をし、誕生祝いのパーティーに出るために手を尽くした。早く動いたのが功を奏したか無事に許可が出て、俺は胸を撫で下ろした。さすがに二年連続で欠席など出来る筈もない。
その後も誕生日のプレゼントを手配し、後はその日が来るのを待つだけだった。なのに……
「ラファティに、ですか? 今から?」
「ああ。予定されていたハロルド殿下が急病だそうだ。医師たちからもラファティ行きは難しいとの診断も出ている」
「しかし、ラファティ国王の誕生祭です。行くなら陛下か王太子殿下でなければ……」
「その陛下も王太子殿下も視察中だ。今から向かったのでは間に合わない」
確かに陛下も王太子殿下も、国内の視察に出られて不在だった。だが、ラファティ国王の誕生祭に次期女王でもない王女が出るなんて前代未聞だろうに……
「ラファティに誰も行かない選択肢はない。あちらの方が格上なのだから」
「では、同行は別の者にお頼みください。私は休暇を申請しているのです」
「馬鹿を言うな。今から人数を集めるのにどれだけ大変かわかっているのか?」
「ですが、婚約者の誕生日なのです。昨年も、デビュタントも、グローリア様の警護でエスコート出来なかったのです」
「何を言っているのだ? 大国ラファティと婚約者、どちらが上かもわからないのか?」
結局、ラファティ行きを断ることは出来なかった。急に決まったせいで同行出来る者が限られているのもあっただろう。
「アルヴァン様……」
「カイン、すまない……明日朝一で実家に連絡を。それと、ヴィオラに誕生祝いとは別にお詫びの品を届けておいてくれ」
「……はい」
失意は思った以上に深かった。どうせならもう二、三日早くに決まって欲しかった。そうすれば俺自らお詫びにも行けただろうに。急に決まったせいで手紙を書いている暇も与えられなかった俺は、カインに後を託してラファティに発つしかなかった。
ラファティには片道十日、滞在期間を含めると一月ほどの旅程になった。その間もヴィオラのことが気になって仕方がなかった。必ず行くと手紙で伝えていただけに、一層落胆させてしまっただろう。近衛になってからは先輩方のやっかみもあってか、休暇が思うように取れなかった。それは恣意的なものを強く感じるものだっただけに、このまま近衛を続けていいのかとの考えが過った。
ただ、近衛は騎士の中でも別格だから、彼女のためにも続けたい気持ちもあった。制限が多い分だけ報酬も社会的な地位も高いからだ。だが、それで彼女を蔑ろにするなら本末転倒だ。俺は近衛を辞することも考え始めていた。
急に決まったラファティ訪問なだけに、万時上手くいったとは言い難かった。その最たるものが、グローリア様ご自身がラファティ国王陛下に、自身と第三王子との婚約を直訴した事だった。誰がそんなことをするなどと想像出来ただろうか。グローリア様とコンラッド殿下との婚約はラファティの王太子殿下主導で行われただけに、ラファティ王族の助力を軽んじているとの印象を与えてしまったのだ。
そのグローリア様は、自身とラファティ王子が婚約した方が国益に適うのに、どうしてラファティ王がお怒りになったのか、理解出来ないと言って俺や副宰相を戸惑わせた。
更には、ラファティの第二王子の件を引き合いに出して、どうして自分は許されないのか、ラファティと同じことをしただけなのに、と言い出したのだ。まさかそんな風にお考えだったとは思いもしなかった。
そしてそれ以上に俺を困惑させたのは、これまでやって来たことがグローリア様に理解されていなかったという事実だった。噛んで含めるように説明してきたことが、グローリア様の中では全くと言っていいほどに定着していなかったのだ。それは思った以上に俺に大きな失望をもたらした。
更に残念なことにこの件は帰国後も尾を引き、帰国後も俺は直ぐにヴィオラの元に行けなかった。陛下や王太子殿下からの聞き取りや、随行後の報告書の作成などに忙殺されていたからだった。
そんな失意の中だった。俺とヴィオラの婚約が破棄されたと聞かされたのは。
その後も誕生日のプレゼントを手配し、後はその日が来るのを待つだけだった。なのに……
「ラファティに、ですか? 今から?」
「ああ。予定されていたハロルド殿下が急病だそうだ。医師たちからもラファティ行きは難しいとの診断も出ている」
「しかし、ラファティ国王の誕生祭です。行くなら陛下か王太子殿下でなければ……」
「その陛下も王太子殿下も視察中だ。今から向かったのでは間に合わない」
確かに陛下も王太子殿下も、国内の視察に出られて不在だった。だが、ラファティ国王の誕生祭に次期女王でもない王女が出るなんて前代未聞だろうに……
「ラファティに誰も行かない選択肢はない。あちらの方が格上なのだから」
「では、同行は別の者にお頼みください。私は休暇を申請しているのです」
「馬鹿を言うな。今から人数を集めるのにどれだけ大変かわかっているのか?」
「ですが、婚約者の誕生日なのです。昨年も、デビュタントも、グローリア様の警護でエスコート出来なかったのです」
「何を言っているのだ? 大国ラファティと婚約者、どちらが上かもわからないのか?」
結局、ラファティ行きを断ることは出来なかった。急に決まったせいで同行出来る者が限られているのもあっただろう。
「アルヴァン様……」
「カイン、すまない……明日朝一で実家に連絡を。それと、ヴィオラに誕生祝いとは別にお詫びの品を届けておいてくれ」
「……はい」
失意は思った以上に深かった。どうせならもう二、三日早くに決まって欲しかった。そうすれば俺自らお詫びにも行けただろうに。急に決まったせいで手紙を書いている暇も与えられなかった俺は、カインに後を託してラファティに発つしかなかった。
ラファティには片道十日、滞在期間を含めると一月ほどの旅程になった。その間もヴィオラのことが気になって仕方がなかった。必ず行くと手紙で伝えていただけに、一層落胆させてしまっただろう。近衛になってからは先輩方のやっかみもあってか、休暇が思うように取れなかった。それは恣意的なものを強く感じるものだっただけに、このまま近衛を続けていいのかとの考えが過った。
ただ、近衛は騎士の中でも別格だから、彼女のためにも続けたい気持ちもあった。制限が多い分だけ報酬も社会的な地位も高いからだ。だが、それで彼女を蔑ろにするなら本末転倒だ。俺は近衛を辞することも考え始めていた。
急に決まったラファティ訪問なだけに、万時上手くいったとは言い難かった。その最たるものが、グローリア様ご自身がラファティ国王陛下に、自身と第三王子との婚約を直訴した事だった。誰がそんなことをするなどと想像出来ただろうか。グローリア様とコンラッド殿下との婚約はラファティの王太子殿下主導で行われただけに、ラファティ王族の助力を軽んじているとの印象を与えてしまったのだ。
そのグローリア様は、自身とラファティ王子が婚約した方が国益に適うのに、どうしてラファティ王がお怒りになったのか、理解出来ないと言って俺や副宰相を戸惑わせた。
更には、ラファティの第二王子の件を引き合いに出して、どうして自分は許されないのか、ラファティと同じことをしただけなのに、と言い出したのだ。まさかそんな風にお考えだったとは思いもしなかった。
そしてそれ以上に俺を困惑させたのは、これまでやって来たことがグローリア様に理解されていなかったという事実だった。噛んで含めるように説明してきたことが、グローリア様の中では全くと言っていいほどに定着していなかったのだ。それは思った以上に俺に大きな失望をもたらした。
更に残念なことにこの件は帰国後も尾を引き、帰国後も俺は直ぐにヴィオラの元に行けなかった。陛下や王太子殿下からの聞き取りや、随行後の報告書の作成などに忙殺されていたからだった。
そんな失意の中だった。俺とヴィオラの婚約が破棄されたと聞かされたのは。
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