王女殿下を優先する婚約者に愛想が尽きました もう貴方に未練はありません!

灰銀猫

文字の大きさ
27 / 39
番外編

アルヴァン⑩

しおりを挟む
 グローリア様が幽閉されると、俺の周辺は一気に静かになった。何度かグローリア様のことで事情聴取を受けたが、答えられることは少なかった。周りは俺が相談を受けていると思っていたようだったが、俺だって夜会の後に人伝に聞いたくらいだったのだ。



「ヴィオラが、婚約?」
「ああ。ラファティ国で発表があったと聞いた」

 彼女が婚約したとマーカスが教えてくれた。相手はグローリア様が婚約を望んでいたラファティの第三王子で、その事に驚かずにはいられなかった。第三王子は秀麗な容姿を持ち常ににこやかな表情を浮かべていたが、令嬢に囲まれても嬉しそうではない姿が印象に残っていた。そんな彼がどうしてヴィオラを……と疑念と不安が過った。

 だが、その不安はその後に行われた夜会で、あの二人の姿を見て霧散した。引き攣った笑顔を浮かべながらエスコートされるヴィオラは想像通りだったが、第三王子は蕩ける様な笑みを彼女に向けていたのだ。その様子からは、彼女をとても大事に思っているのが伝わってきた。

(あんな目を、彼女に向けたことはなかったな……)

 その視線は、マーカスが婚約者に向けているものと同じだった。将来の伴侶だと思っていた彼女は、今にして思えば恋する相手ではなかった。それは貴族としては珍しくもないことで、ヴィオラも恐らくそうだったのだろう。
 第三王子は彼女の側を離れず、その表情は今までの張り付いた笑顔とは全く別物だった。そんな二人の様子に、寂しさと重い荷物を下ろした時の安堵感に近い何かを感じていた。

 俺にとって一つの区切りとなった夜会では、その後、更に俺の人生を変える事件が起きた。泥酔してヴィオラや第三王子に絡み始めたオスニエル殿を諫めようとしたところ、彼に刺されそうになったのだ。そして、彼の凶刃から俺を庇ったのは、意外にもアメリア嬢だった。

「アメリア嬢、どうして……」
「オスニエル様が……申し訳、ございません……」

 彼女は婚約者の暴走を止めようと、身を挺して俺を守ってくれた。この事件でオスニエル殿は逮捕され、彼の罪の数々が明るみになった。あの場でラファティの王子に媚薬を盛ったことを白状したのが大きかっただろう。相手がラファティの王族であれば誤魔化すことも揉み消すことも出来ない。お陰で俺とマーカスの悲願だった令嬢襲撃の犯人も捕まった。



 それから一年が経った。あの後、王妃様がグローリア様を殺害して自死を試み、その騒動に心身ともに疲弊した国王陛下が病気を理由に療養に入られるなど、我が国は落ち着かない状態が続いた。

「アルヴァン、俺は近衛を辞める」
「本懐を遂げたからか?」
「ああ。もう一度彼女に求婚するんだ」
「そう、か」

 婚約が白紙になってからも、マーカスは元婚約者に手紙を送っていた。後継者の地位を弟に譲り、領地で彼女と一緒に弟を手伝うつもりだと言う。それなら社交の場に出る必要もないからと。

「お前は、どうするんだ?」
「……俺もだ。婿入りする」
「……アメリア嬢か」
「ああ」

 あの夜会からアメリア嬢との個人的な交流が始まった。傷を負った彼女を度々見舞っていたのが始まりだった。消えない傷を負い、婚約者が罪人として処刑された彼女は、マセソン公爵家の傍流としても世間から風当たりが強くなっていた。跡取り娘として誰かを婿に迎えなければならないが、その可能性は絶望的だった。

「本当にいいのか?」
「ああ。もう決めたんだ」

 昔から俺が好きだったのだと言われて、熱のこもった視線を向けられて、心が動いた。ヴィオラに感じていたほどの情もなく、庇ってくれた事への恩と傷を負わせた責任が殆どだった。それでもいいかと問えば、彼女は泣いて喜んでくれた。

(これが恋なのか……)

 自分には経験がのないその熱に、興味を持ったのが一番の理由かもしれない。
 一方で彼女がカインを唆して、ヴィオラとの仲を壊したことを俺は知っていた。そして彼女も、俺がその事を知っていることを知っている。わだかまりがあるのは否めなかった。

「幸せになれよ」
「そのつもりだ」

 この先どうなるのか俺にもわからない。だが、貴族の結婚は政略で、最初から相愛の方が珍しい。だったらこれから時間をかけて、少しずつ歩み寄ればいいと思う。
 近いうちに俺も近衛を辞めて、ヘンリット伯爵から事業と領地経営を学ぶことが決まっている。子供の頃に憧れた近衛騎士は、思っていたのとは真逆の世界だった。今、胸に占めていたのは夢から離れる寂寥感ではなく、そこから解放される安堵感だった。 





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

幼馴染みを優先する婚約者にはうんざりだ

クレハ
恋愛
ユウナには婚約者であるジュードがいるが、ジュードはいつも幼馴染みであるアリアを優先している。 体の弱いアリアが体調を崩したからという理由でデートをすっぽかされたことは数えきれない。それに不満を漏らそうものなら逆に怒られるという理不尽さ。 家が決めたこの婚約だったが、結婚してもこんな日常が繰り返されてしまうのかと不安を感じてきた頃、隣国に留学していた兄が帰ってきた。 それによりユウナの運命は変わっていく。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。