王女殿下を優先する婚約者に愛想が尽きました もう貴方に未練はありません!

灰銀猫

文字の大きさ
38 / 39
番外編

エセルバート⑪

しおりを挟む
 結局グローリアをこの手でどうにかすることは出来なかった。そんな俺をヴィオに見られたくなかったからだ。もしあの場にヴィオがいなかったら……俺は躊躇しなかった。ヴィオが襲われるのはいつだってあの女が関係していたのだ。それくらい怒りに囚われていた。

 ヴィオをリード邸に送った後、俺は王宮を訪ねていた。あの時の説明をせねばならなかったからだ。おおよそは王太子やその場に駆けつけた騎士からも説明があっただろうが、俺から放す必要があった。あの王太子は嘘をつくような人物ではないと思っていたが今では全く信用出来なかったのもある。いや、あの女の家族というだけで、あの女の父親を王と仰いでいるだけでこの国が信じられなかった。

「エセルバード様、温情に感謝いたします」

 そう言って頭を下げたランバード王だったが、全てが足らな過ぎるとしか思えなかった。

「温情などかけてはいない。今でも八つ裂きにしてやりたいのは変わらない。やらなかったのは我が
婚約者の心情を慮ってのことだ」

 あんな目に遭ってもヴィオは俺がグローリアを害したと知れば心を痛めるだろう。だから手を下さなかっただけだ。あの女には自身の罪の元に罰を受ける必要がある。あのまま殺せばあの女は病死として公表されるだろう。そんな美談で人生を終わらせるなど許せなかったのもある。

「罪に応じた罰を。望むのはそれだけだ」
「御意」

 深く頭を下げるランバード王と王太子だったが、内容によってはラファティもランバードとの同盟を破棄することも想定している。それを理解しているかどうか怪しいが、そんなことは自分で考えろと思う。散々ハイアットとの関係修復で泣きついて来たのにその結果がこれなのだ。ヴィオのことを差し引いてもこの国はラファティやハイアットを軽んじ過ぎた。

「エセル!」

 話し合いを終えて公邸に戻ろうとしたところでコンラッドが声をかけてきた。アデルとの婚約が成立した今も彼はハイアットの代表の一人として話し合いに参加していた。

「よかったね、エセル。やっとヴィオラちゃんとの婚約が進みそうだね」
「ああ」

 ヴィオとのこれからを思い出して心の中のささくれが抜けた気がした。もうグローリアのことで思い悩むのは終わりだ。時間の無駄でしかないのだから。これからはヴィオとの今後に頭を使いたかった。

「もうグローリアは出て来れないんだし、取り巻きの残りもいなくなったし。デートでもしてきたら?」

 魅力的な提案だったが、直ぐには頷けなかった。まだ取り巻きの残りがいるかもしれないと思うと不安が残った。

「心配ならラファティ公邸に引き取っちゃったら? 王子妃教育もあるからって言って」
「でも、もう危険はなくなっただろう?」
「そうなんだけど。でも一番厄介なのは捨て身になった奴らの奇襲だよ。暗殺の多くはことが片付いた後に起きているしね」

 知っていることだったがそれを思い出して心の中がすっと冷えていくのを感じた。叔父上が反乱分子の凶刃に倒れたのも不正を行った貴族の末端の男で、処分が終わった後のことだったのを思い出したからだ。もう安全だと気が緩んだ時を狙われたその事件は今も記憶に残っている。

「ね? 気をつけなきゃいけないのはこれからだよ。相手は何もかも失っているから怖いもの知らずだ。命がけで狙われたら防ぐのは厄介だよ」

 コンラッドの言葉に恐怖を思い出した俺は、翌日ヴィオとリード侯爵にリード邸の滞在かヴィオのラファティ公邸滞在を提案して後者を受け容れて貰った。グローリアの処分が決まるまでは安心出来ない。ヴィオを誘拐してその身柄と交換条件にグローリアの助命を要求される可能性もあるからだ。他国では自由に動けないだけに、快諾して貰った時に感じた安堵はここにきて初めてのものだったかもしれない。

 そこからはヴィオとの時間を楽しむ日々を送った。共に食事をし、僅かな時間も顔を見に行って他愛もない会話を交わし、初めて二人きりで街にも出た。街とは言ってもラファティ公邸の周りにあるラファティ人の店限定だったが、それでもずっと二人で出かけたいと思っていたのだ。ヴィオと揃いの腕輪を買い、カフェでお茶を楽しむというプランはコンラッドに勧められたものだった。ヴィオが『春祈節』にちなんだ揃いの腕輪、それも俺の色を選んでくれた時は顔が赤くなったかもしれない。それが何を意味しているのか、きっと知らないのだろう。その意味を知った彼女が顔どころか首まで真っ赤になり、その後しばらくは挙動不審になったのはそれから少し経ってからの話だ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

なか
恋愛
「君の妹を正妻にしたい。ナターリアは側室になり、僕を支えてくれ」  信じられない要求を口にした夫のヴィクターは、私の妹を抱きしめる。  私の両親も同様に、妹のために受け入れろと口を揃えた。 「お願いお姉様、私だってヴィクター様を愛したいの」 「ナターリア。姉として受け入れてあげなさい」 「そうよ、貴方はお姉ちゃんなのよ」  妹と両親が、好き勝手に私を責める。  昔からこうだった……妹を庇護する両親により、私の人生は全て妹のために捧げていた。  まるで、妹の召使のような半生だった。  ようやくヴィクターと結婚して、解放されたと思っていたのに。  彼を愛して、支え続けてきたのに…… 「ナターリア。これからは妹と一緒に幸せになろう」  夫である貴方が私を裏切っておきながら、そんな言葉を吐くのなら。  もう、いいです。 「それなら、私が出て行きます」  …… 「「「……え?」」」  予想をしていなかったのか、皆が固まっている。  でも、もう私の考えは変わらない。  撤回はしない、決意は固めた。  私はここから逃げ出して、自由を得てみせる。  だから皆さん、もう関わらないでくださいね。    ◇◇◇◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。