【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫

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やらかす妹と新たな頭痛の種

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 あれから戻ってきたフィルマン様に謝られた。それでももう謝罪は結構ですと断った。別にフィルマン様が悪いわけじゃない。彼にだって好みがあるだろうし、あんな非常識ない令嬢では結婚生活に不安を感じるのも仕方がない。エドモンがあんな女性を連れて着たら……よく考えるように諭すだろう。ある意味フィルマン様も被害者だ。
 それに騎士団に連れていかれたのならもう二度と絡んでは来ないだろう。父親も厳重注意が行っている筈だ。下手すると今後の人事に影響するかもしれないのだから、二度とやらないと思う、そう思いたい。

 フィルマン様が何か言いたげな視線を向けて来たけれど、私はそれを無視した。今更仲良くする必要がないし、変な誤解をされたくない。それよりもジョセフ様と、何よりも帰ってきた室長のことで頭がいっぱいだった。

「皆、留守の間ありがとう」

 一月ぶりにお会いした室長は少しお疲れのようだったけれど、無事に戻られてきたことが泣きそうなくらい嬉しかった。盗賊や他国の襲撃や自然災害などもある、護衛がいても安全とは言い切れないのだから。顔がにやけそうになるのを必死で押さえて机に向かった。今だけはご無事だった喜びに浸っていたい。
 尤も、その後の室長は報告書だ報告会だとお忙しそうで、殆ど不在だった。もっと姿を見たい、声を聞きたいとの想いが募る一方で、ジョセフ様との話が続いていることに気が重くなった。室長は何とかしてくれると仰ったけれど、あれだけお忙しいと無理かもしれない。それに話が進んでしまっているから、今から覆すことは難しいだろうに。



 室長がお戻りになって一週間後、エドモンに声をかけられた。

「姉さん、ミレーヌのこと、聞いてる?」
「ミレーヌの? いえ、ここ十日ほどは家に帰れてなくて……」

 室長とルイーズ様がお戻りになって、仕事が立て込んでいたので暫く家に帰っていなかった。ミレーヌのことでエドモンが話しかけてくるのだ。きっとロクな話ではないだろう。

「知り合いに聞いたんだけど、あいつ、先日バリエ伯爵家の夜会に出たんだよ」
「バリエ伯爵って……グノー公爵と仲のいい?」
「ああ。どうやらデュノア伯爵家とも付き合いがあるらしいんだけど、そこであいつ、ジョゼフ殿と一緒だったらしいぞ」
「ジョセフ様と?」

 それは知らなかった。ミレーヌがジョセフ様に興味を持っているのは知っていたけれど、一緒に出掛けるほど仲が良くなっていたなんて。

「ミレーヌが……ジョセフ様を誘ったのかしら」
「いや、参加した友人の話では、そこで偶然会ったみたいなんだけど。それでもあいつ、ずっとジョセフ様にくっ付いて離れなかったらしいぞ」
「……ミレーヌらしいわね」

 父に外出を禁じられているのに夜会に出たなんて。父がどうして許したのだろう。もしかして……

「もしかして、バリエ伯爵の嫡男って、まだ婚約者がいない?」
「あ、ああ」
「前にお父様が言っていたわ。デュノア伯爵家と私の縁談がまとまったら、ミレーヌに縁談を紹介してくれると。グノー公爵の関係者だって。もしかしてその夜会でミレーヌに紹介するつもりだったのかも」
「ええ? だったら……」
「マズいわね。バリエ伯爵家がどう思ったかしら……」

 ミレーヌを嫡男に紹介する夜会で、別の男性にくっ付いていたら相手の心証は最悪だろう。

「もしかして、ミレーヌの奴、わざと……」
「その可能性はあるわね。バリエ伯爵家の令息の見た目によるけど」
「あ~見た目は完全に範囲外だな。ミレーヌの中では無しだろうな」
「やっぱりね」

 多分その夜会は父と共に出たのだろう。久しぶりの夜会に喜んで出たけれど、好みじゃない男性を紹介されて、それが非公式の顔合わせだと察したのかもしれない。そこにジョゼフ様がいたから仲がいいように付き纏った。真相はそんなところだろう。

「全く、あの馬鹿……」

 エドモンが悪態をついたけれど、困ったことになった。ミレーヌとジョゼフ様が噂になるのはいいけれど、メンツを潰されたバリエ伯爵がどう動くか……ミレーヌの代わりに私をと言い出したりしないだろうか。それが心配だ。

「デュノア伯爵家もどう出るかしら? 伯爵はミレーヌとの結婚を認める気はないようなのよ」
「じゃ……」
「ええ、最悪ジョセフ様は廃嫡かも。元々弟君の方が後継者に相応しいって言われていたし……」
「まぁ、確かに。弟には婚約者もいて関係も悪くなかったしな」
「ええ」

 ミレーヌとジョゼフ様がくっ付くのは歓迎だけど、バリエ伯爵の子息と婚約の話が出るのはマズい。あの家はデュノア伯爵家よりもグノー公爵家との結びつきが強いのだ。ルイーズ様の政敵とも言えるグノー公爵の息がかかった家なんて……

「バリエ伯爵の嫡男って、あのアルマン殿だろう?」
「ええ」
「あいつ、重度のマザコンだって噂だぞ。それに太っているし。もう二十七じゃなかったっけ?」
「確か、そうだった筈……」

 仕事上、殆どの貴族は頭に入っている。エドモンの情報は私のそれと合致していた。しかもバリエ伯爵夫妻もアルマン様もいい噂を聞かない。お金はあるけれど使用人に対しての態度が酷く悪い噂も耐えないけれど、グノー公爵との付き合いがあるせいで誰も咎めないのだ。

「……姉さん、もしバリエ家が姉さんをって言ってきたら俺に相談して」
「でも……」
「色々伝はあるからさ。まぁ、ジョセフ殿の方も何とかならないかと思ってはいるんだけど……」
「ありがとう。その気持ちだけでも十分嬉しいわ」

 エドモンは友人が多いし年上に可愛がられるタイプだけど、令息の立場ではまだまだ弱い。無理難題を吹っ掛けられないかと、そっちの方が心配だ。そんな無理をさせたくはなかった。




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